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偽れば、殺す

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「……割とちゃんとしてるんですね」

全体的に土壁で囲われているものの、その土壁は土魔法が得意なBランク冒険者が生み出した土壁ということもあり、そう簡単に壊れるような壁ではない。

加えて、試合中にモンスターが邪魔してこない様に、なるべくモンスターの意識を関係ない方向へ向けさせるマジックアイテムも使用している。
これにより、ティールとヒツギは周囲を気にせず試合を行うことが出来る。

「やぁ、この間ぶりだね」

ティールが中に入ろうとする前に、ヒツギとその友人たちが現れた。

「えぇ……そうですね。んで、ちゃんと用意してるんでしょうね」

「勿論だよ」

そう言うと、ヒツギはアイテムバッグの中から例の木箱を取り出した。

ティールに渡すと、受け取ったティールは中身を確認することなく亜空間に入れた。

「…………」

「なんですか、その顔は」

「いや、中身を確認しなくて良かったのかい?」

「この期に及んで、そういう真似をする様な人じゃないでしょう」

嫌われている事に変わりはない……ただ、ほんの少し、認められたかもしれない。

そんなヒツギの思いは……少し違っていた。

「仮に木箱の中に入っていたマジックアイテムがこの前見せてくれたマジックアイテムと異なっていれば、その時はジェンさんとの約束など無視してぶち殺します」

「「「「「っ!!!!」」」」」

ただ……約束を破るような真似をするのであれば、殺せば良い。
本気でそう思っているのだと感じさせる殺気を放ったティール。

その瞬間、自分たちに向けられたわけではないにもかかわらず、ヒツギの友人たちは……気迫だけは本物だと、強制的に感じさせられた。

「構いませんよね、ジェンさん」

「ん~~~~~………………やっぱり殺すのはちょっとあれなので、両腕を消し飛ばすか、もしくは両足を消し飛ばすかのどちらかで我慢して頂けないですかね」

「…………もし、何かしらのマジックアイテムを使って生やしたり……義手や義足、と言うんでしたっけ。そういうのを身に付けていた場合、ぶっ殺しも良いと?」

「ですね。元々はヒツギが約束を破ったのが悪いってことになるので」

できれば殺すのは勘弁してほしいと頼んだジャンも、仮に木箱の中に入っている物が違っていれば、それは嘘を付いたヒツギが百悪いと解っている。

そのため、そこまでいってしまうと……ティールの殺意を止めようとは思わなかった。

「分かりました……それで、どうしますか。体を暖めてから始めますか?」

「っ、そうですね。少し、時間を頂けると」

「では、十分後に始めましょうか」

ティール達は仮設リングの中に入り、ヒツギはリングの外で体を動かし始めた。

「……マスター、最初から終わらせにいくのか?」

ラストはヒツギの事を、決して弱者だとは思っていない。
ただ、ティールが最初からアップを行い、体を暖めていれば……ギアが上がった状態でもろもろのスキルを使用すれば、為す術もなくヒツギが倒されるのが容易にイメージ出来てしまう。

「さぁ、どうだろうな…………どっちでも良い、とは思ってたけど……壁に挑み、ぶち当たるのが目的であっても、負けるつもりは欠片もなさそうだった。だから……何を使って俺を倒そうとしてるのか、そこは少し気になる」

どんな武器を使って、どの様なマジックアイテムを使用して自分に勝とうとしているのか気になる……だから、それらを使うまでは、付き合ってやると口にしたティール。

その戦い方は、まさに横綱相撲のやり方。

ティールにそういった部分があるのは確かだが、やはり今日のティールは……謙虚さがない。
心構えは横綱。
そんな状態でヒツギとの戦いに挑もうとしているティールに対し、ラストは大した不満を抱いてはいなかった。

仮にティールが窮地に追い込まれたとしても、そこからマスターがどの様にして逆転するかというもしもの状況も期待できると感じていた。
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