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呟くのは心の中だけ

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「今、身体強化以外のスキルを使ったのか?」

「えぇ。ヒツギの奴が何かしらの奥の手を使ってきた時に、それに対抗できるスキルに使い慣れておこうと思って」

先程のサラマンダー戦で使用したティールのスキルは、剛拳無双。

腕力の超強化と、痛覚の遮断。
ティールが戦闘で全然使っていなかったこともあり、制限時間は奪った時と変わらず約十秒ではあるが、それでも使い続けて行けばその制限時間も徐々に徐々に増えていく。

「強烈な一撃だったな。下からとはいえ、サラマンダーを二撃で仕留めた様なものだ…………うむ。ヒツギを相手に使えば、死ぬのではないか?」

ラストから見て、それが率直な感想だった。

「勿論、絶対に使う訳じゃない。ただ、ヒツギが何かしらの奥の手を使って、身体能力を上げたら対抗手段として使うだけだよ」

血抜きを行いながら淡々と答える。

ティール自身、あのひょろくはないけどがっつり太くもない体に使ったら……という不安はあった。

生理的に嫌いな相手ではあるが、殺したいほど憎い相手ではない。
数日後に行う戦いも……一応試合であり、決闘ではない。
そのため、不慮の事故によって殺してしまってはならない。

いくらティールでも、それをやってしまうと色々と不味い……どころでは済まない。

「まぁ、今使ったのはあくまで腕力の強化がメインのスキルだから、懐に入らないと意味はないけどね」

「そうか? ……しかし、奥の手か。ポーションの中に、デメリット付きの強化ポーションの様な物があったか?」

「あったかもしれないな。ただ、そういう類の奴は使わないんじゃないかな」

ティールはヒツギの事が嫌いではあるが、クソゴミカス極悪人認定まではしていない。

寧ろ、そういった者に平気で手を出す様な者であれば、勝負を受けてほしいと申し込むために、土下座をするとは思えなかった。

「使うとしたら…………これまでのダンジョン探索で手に入れたマジックアイテムとかを、惜しみなく身に纏う感じかな」

「なるほど……あくまで、自分の力で手に入れた力を使って戦う、と言い切る訳だな」

自身もランク五の大剣、牙竜を使っており、ジェネラルリザードマンの鱗から作られた皮鎧を着ている。

それなりに良質な武器や防具を身に付けているため、そういった戦い方を否定しようとは思えない。

(寧ろ、普段はクール? な態度であるヒツギがその辺りの手段を選ばずに挑むとなると、それはそれでなりふり構わず、本気でマスターに勝とうとしていると捉えられるか……)

実際にヒツギが本気で戦うところは観たことがない。
それでも、マスターであるティールの実力を知っているラストから見て、そこまでヒツギが本気でなりふり構わず挑んで……ようやく面白い戦いになると予想。

「だとしても、マスターに勝てるとは思わないが…………それでも挑む価値があるというものだったか、アキラ」

「私の私見ではあるが、そこまで尽くして挑むことに意味を感じてる筈だ」

(…………オ〇ニー野郎って言ったら、さすがにアキラさんもブチ切れるよな)

実力も武器もアイテムも、持てる全てを出し尽くして勝利を掴み取ろうとするのではなく、そこまでして自分に挑む価値があると思い、挑んでくる……冷静になって考えてみると、そういった相手に選ばれたことは一応光栄なのかもしれないと思ったティール。

しかし、勝つ気がなく……全てを出し尽くすとはいえ、挑むことが目的であるとするならば、個人的には「それ少し違くないか?」とツッコみたい。

そこから繋がり、思わず心の中で汚い言葉を呟いてしまった。

「……とはいえ、奴はアキラと同じく刀をメイン武器として扱うのだろう。であれば、マスターが油断し過ぎていなければ、やはり挑戦するだけに終わるだろうっ!!??」

「「っ!!!!」」

サラマンダーの解体が半分ほど終わり、あともう半分といったタイミングで、サラマンダーのブレスに負けない火力の竜巻が三人を襲う。
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