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本当に嫌そうだからこそ
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「ティールさん、お手紙が届いてます」
「俺にですか?」
ヒツギからの申し出を渋々受けた翌日の夜、ティールは宿の従業員から一通の手紙を渡された。
「ヒツギからか?」
「……みたいだな」
封を開けて中に入っている手紙を読み進める。
「………………………………とりあえず、五日後は空けといてくれ、ってことらしい」
「五日後か……では、それまでどうするんだ、マスター」
「ん~~~………………昨日今日って休んだし、四日目後まではダンジョンに潜ってるかな」
ティールが立てた予定を聞き、二人はほんの少し戸惑った。
「ティール、その時まで体を休めておかなくて良いのか?」
「…………ダンジョンに潜れば、万が一遅れるという可能性があると思うが」
二人の意見は、最もだった。
ダンジョンに潜らずとも、体を動かす方法はある。
仮にダンジョンに潜れば……最悪、提示された日までに戻れない可能性もある。
「大丈夫だよ、アキラさん、ラスト。別にわざわざ休めておかなくても大丈夫だし、探索するのも三十一階層だけだから」
「そ、そうか……まぁ、それなら」
ラストとしては、あまり深く潜り過ぎないのであれば、特に言う事はなかった。
「アキラさん、逆に普段通りの行動を崩したら、それはそれで良くないと思うんですよ」
「っ……なるほど。それは、確かに一理ある」
「でしょう」
解らなくもない理由を伝えられ、アキラも一応納得。
パーティーメンバー、二人とも納得させたティール。
ただ、本当の理由は伝えていなかった。
(別に、わざわざ意気込んで挑む必要はない)
ティールにしては、なんとも珍しく……非常に傲慢的な考えを持っていた。
性格には、わざわざヒツギを相手にする為に、あれこれ対応したくなかった。
なんとも子供っぽい理由であり、結局ティールラスしくない理由であることに変わりはなかった。
そして翌朝……ティールたちは本当に波状試練へ向かい、三十一階層に転移した。
「あいつら、まだ戻って来てから……三日も経ってないんじゃねぇのか?」
「どうでしょうね……でも、あのティールって子とラストって子は別のダンジョンを探索してた時も、あれぐらいのペースで探索してたらしいわよ」
「………もしかしなくても、今回の探索で四十層まで攻略するのか?」
三人がダンジョンに入って行くのを見て、同業者たちはほんの少しの間、三人について話しが盛り上がった。
そんな中、幸いにもヒツギとティールの件に関しては同業者たちの間で広まっておらず、あんな約束をしていたのに何故ダンジョンに? と騒ぐ者はいなかった。
だが、話は目撃者から他者へ……更にまた他者へと伝わっていく。
すると……どうしてもその一件を知っている一部の者たちの耳に入る。
「あいつ……本当にヒツギと戦う気があるのかよ!!!」
紫獅の誓いに入っている、普段からヒツギと共に組んでダンジョンに潜っているメンバーの一人が、力を込めた拳をテーブルに振り下ろす。
幸いにもテーブルはトレントの木から作られているため、そう簡単には壊れない。
だが、その音から男がどれだけ怒っているのかが伝わってくる。
「……普通じゃないわね」
「本当だぜ、クソったれが!! ……なぁ、ヒツギ。あいつは本当にお前の頼みを受けてくれたのかよ」
「あぁ、ちゃんと受けてくれたよ」
「…………後になって、とぼけて結局逃げたりしねぇのか?」
「…………」
ヒツギは目を瞑り、当時の光景を思い出す。
(…………………………本当に、俺の事が、嫌いなんだろうな)
ハッキリと覚えている。
物凄く嫌な表情で、渋々自分からの申し出を受けると口にした時の顔を。
「……それは、大丈夫だと思う。そういう事をするなら、あんな嫌そうな顔せず……逆にあっさりと受ける筈だからね」
ティールという人間を、細かくは知らない。
それでも、ヒツギはあの態度が、自分に向ける感情が嘘だとは思えなかった。
だからこそ……直前になって放棄するとも思えなかった。
「俺にですか?」
ヒツギからの申し出を渋々受けた翌日の夜、ティールは宿の従業員から一通の手紙を渡された。
「ヒツギからか?」
「……みたいだな」
封を開けて中に入っている手紙を読み進める。
「………………………………とりあえず、五日後は空けといてくれ、ってことらしい」
「五日後か……では、それまでどうするんだ、マスター」
「ん~~~………………昨日今日って休んだし、四日目後まではダンジョンに潜ってるかな」
ティールが立てた予定を聞き、二人はほんの少し戸惑った。
「ティール、その時まで体を休めておかなくて良いのか?」
「…………ダンジョンに潜れば、万が一遅れるという可能性があると思うが」
二人の意見は、最もだった。
ダンジョンに潜らずとも、体を動かす方法はある。
仮にダンジョンに潜れば……最悪、提示された日までに戻れない可能性もある。
「大丈夫だよ、アキラさん、ラスト。別にわざわざ休めておかなくても大丈夫だし、探索するのも三十一階層だけだから」
「そ、そうか……まぁ、それなら」
ラストとしては、あまり深く潜り過ぎないのであれば、特に言う事はなかった。
「アキラさん、逆に普段通りの行動を崩したら、それはそれで良くないと思うんですよ」
「っ……なるほど。それは、確かに一理ある」
「でしょう」
解らなくもない理由を伝えられ、アキラも一応納得。
パーティーメンバー、二人とも納得させたティール。
ただ、本当の理由は伝えていなかった。
(別に、わざわざ意気込んで挑む必要はない)
ティールにしては、なんとも珍しく……非常に傲慢的な考えを持っていた。
性格には、わざわざヒツギを相手にする為に、あれこれ対応したくなかった。
なんとも子供っぽい理由であり、結局ティールラスしくない理由であることに変わりはなかった。
そして翌朝……ティールたちは本当に波状試練へ向かい、三十一階層に転移した。
「あいつら、まだ戻って来てから……三日も経ってないんじゃねぇのか?」
「どうでしょうね……でも、あのティールって子とラストって子は別のダンジョンを探索してた時も、あれぐらいのペースで探索してたらしいわよ」
「………もしかしなくても、今回の探索で四十層まで攻略するのか?」
三人がダンジョンに入って行くのを見て、同業者たちはほんの少しの間、三人について話しが盛り上がった。
そんな中、幸いにもヒツギとティールの件に関しては同業者たちの間で広まっておらず、あんな約束をしていたのに何故ダンジョンに? と騒ぐ者はいなかった。
だが、話は目撃者から他者へ……更にまた他者へと伝わっていく。
すると……どうしてもその一件を知っている一部の者たちの耳に入る。
「あいつ……本当にヒツギと戦う気があるのかよ!!!」
紫獅の誓いに入っている、普段からヒツギと共に組んでダンジョンに潜っているメンバーの一人が、力を込めた拳をテーブルに振り下ろす。
幸いにもテーブルはトレントの木から作られているため、そう簡単には壊れない。
だが、その音から男がどれだけ怒っているのかが伝わってくる。
「……普通じゃないわね」
「本当だぜ、クソったれが!! ……なぁ、ヒツギ。あいつは本当にお前の頼みを受けてくれたのかよ」
「あぁ、ちゃんと受けてくれたよ」
「…………後になって、とぼけて結局逃げたりしねぇのか?」
「…………」
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(…………………………本当に、俺の事が、嫌いなんだろうな)
ハッキリと覚えている。
物凄く嫌な表情で、渋々自分からの申し出を受けると口にした時の顔を。
「……それは、大丈夫だと思う。そういう事をするなら、あんな嫌そうな顔せず……逆にあっさりと受ける筈だからね」
ティールという人間を、細かくは知らない。
それでも、ヒツギはあの態度が、自分に向ける感情が嘘だとは思えなかった。
だからこそ……直前になって放棄するとも思えなかった。
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