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縛られてないからこそ

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「ふっふっふ、ようやく同業者たちがマスターの実力を理解し始めたようだな」

ティールが冒険者として活動を始めてから、割と早い段階でパーティーメンバーとして共に行動するようになったラスト。

同時からティールの実力は頭一つ抜けていたが、それでも見た目や年齢もあって実力を認めるのは多くなかった。
その度に救ってもらったと思っているラストは怒りを感じるも、主人であるティールがなるべく争いごとを割けようとしているため、その怒りを抑え込んでいた。

だが、ティールが冒険者活動を始めてから一年以上が経過し、ようやく歳不相応の実力を持つティールが本物だと認める者が徐々に増えてきた。

「そういえば、ティールはこれまでその件に関して、度々問題に発展したことがあったのだったな」

「問題と言うほど大きな事ではありませんけどね。とはいえ……やっぱり、ちょっと嬉しいですね」

考え方も歳不相応なティールは、自分にバカ絡みしてくる連中に対し、多少の怒りは湧くものの、こういった者たちなのだから仕方ないと考えるようになっていた。

「とはいえ、これからも俺に対して負の感情を抱く者は消えないとは思いますが」

「マスター、確かにそうかもしれないが、マスターの実力を認める者が増えれば、それだけマスターにバカ絡みするという行為が、己のバカさを晒す結果に繋がる。そうなれば、バカな考えを実行する者たちも減るのではないか」

「……それはそうかもな。まっ、それでも絶対にいないとは限らないし……そうなると、もっともっと頑張って何かしらの結果を残さないとな~~」

向上心を感じる言葉を口にするティールだが、パーティーメンバーであるラストよりも第三者目線からティールの事を見れるアキラからすれば、既に十分過ぎる結果を残していると断言出来る。

(既にBランクに昇格しており、ソロでBランクモンスターの討伐経験がある。貴族からの依頼を達成していることも考えれば…………他者に認めさせるには、十分過ぎる)

これ以上、どの様な功績を残せば良いのか。
そんな考えが一瞬浮かぶも、アキラはティールの強さを思い出し、無駄な心配だと首を横に振る。

「ティール、そこまで功績、結果を気にする必要はない。ティールとラストは一か所に留まることなく、多くの場所を渡り歩きながら冒険しているのだろう。であれば、功績などは自ずと付いてくる」

そこに関しては、一切心配する必要はない。
逆に、そこを気にし過ぎてしまうことが、唯一の心配。

「功績や結果を残すことに囚われると、自身の行動を縛ることになる」

「っ……それは、嫌ですね」

「そうだろう。私から見て、ティールとラストも非常に楽しそうに冒険者生活を送っている。常に楽しめているのは、二人が何にも縛られていないからだと、私は思う」

これまで何度か組織から勧誘を受けたことがあるものの、ティールたちはその全てを断ってきた。
しかし、人を縛るのは、決して組織という存在だけではない。

目標だと思っていたものが、結果としてその人の気持ちを縛ることは珍しくない。

「それじゃあ、あれですね。下手にAランクを目指したりするのも止めておいた方が良さそうですね」

現在のティールの年齢でBランクに到達しているだけでも、異例中の異例と言える功績。
その先のAランクに到達など、どう考えても現実的ではない。

しかし、その実力を……潜在能力を知っているラストやアキラは、不可能な目標だとは思わない。
ただ…………あまりにも速過ぎる歩みは、決して良いことばかりではない。

現段階でもティールがBランクに昇格していることに疑問を抱く者はいる。
そんな中で一年後……時間が掛かっても、三年後にAランクに昇格するようなことがあれば、何かしらの権力を利用して昇格したのではないかという疑いの声が上がってもおかしくない。

(俺らしく、楽しく生きないとな)

アキラの助言により、生まれかけた鎖は直ぐに消え、ティールの心に下手なモヤモヤが残ることもなかった。
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