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隙の無さ

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「ふっふっふ、斬り応えがありそうだな」

「…………」

鋼鉄の鱗を身に纏うメタルリザード。
防御力に優れた個体だが、リザードという亜竜の一種ということもあり、堅いからと鈍間ではない。

だが、標的と対面してから、メタルリザードは直ぐに動けなかった。
その理由は……斬られるというイメージが与えられていたから。

特別知能が高い個体という訳ではない。
ただ……斬られるというダメージは、死に直結しやすい。
抜刀したアキラは相手がCランクのモンスターであっても、そのイメージを与えてしまう鋭さを放っていた。

「ッ!!!!!」

しかし、だからといって延々と硬直状態のままではいられない。

「ははっ!! 良い殺気だ!!!!」

鈍くない身体能力で一気に距離を詰め、鋼鉄の爪撃を叩き込む。

だが、対人戦の経験になれているアキラにとって、突っ込んで爪撃を振り下ろすという攻撃方法は……非常に読みやすい。
もっと速さがあれば話は別だったが、今のメタルリザードの素早さでは攻撃を避けてカウンターを入れる余裕がある。

「っ、やはり堅いな」

カウンターは確かに入った。
鋼鉄の鱗を斬り裂き、血も流れている。

それでも切れたのは肉まで。

「ッ!!!!」

「っ!! 今度は尾か……ふふ、やはり楽しいな」

爪撃よりも攻撃範囲が広く、カウンターを叩き込むまではいかなかった。

受け方を間違えれば、タンクであろうとも押されてしまう一撃。
恐怖を感じさせる風切り音が耳に響くも、アキラの表情に浮かぶのは恐怖ではなく笑み。

(これだから、強者との戦いは良い!!!!!)

強敵との戦闘という心地良さに、アドレナリンが溢れ出し……更に動きが加速する。



(二人とも、ボス戦を楽しんでるな~~~)

ラストはロンリーイーグルとの戦いを、アキラはメタルリザードとの戦闘を楽しんでいた。

そしてパーティーのリーダーであるティールは……ランク上では、ロンリーイーグルとメタルリザードより上であるベネルトスパイダーの相手をしていた。

典型的な毒蜘蛛タイプのモンスターであり、毒液を飛ばして爪に毒を纏い、糸に毒を染み込ませて標的を絡めとる。

毒の攻撃魔法は使わないものの、魔力量がBランクの中でも上位に位置するため、魔力切れによる毒のストップは期待できない。

加えて、ベネルトスパイダーは糸を吐き出しながら八本の脚から毒の斬撃を飛ばすことが出来る。
斬撃しか出来ない、魔法だけしか出来ない一般的な戦闘者と違い、目の前の敵と戦いながらロンリーイーグルとメタルリザードの援護が出来る。

モンスターの中でも手数は多く、後衛で戦う司令塔の様な真似が出来る。

「ふぅーーー……ちょっと、疲れるな」

「………………」

ただ、人間側にも例外と呼べる存在はいる。

ティールはベネルトスパイダーを仕留めるつもりは、今のところ殆どない。
ただただ自分に飛んでくる攻撃を潰しながら、ラストやアキラのところへ飛んでいく攻撃を魔法で相殺していた。

蜘蛛は昆虫ではないが、近いところはある。
それは感情のなさ。

敵対者の強さ、存在感によってはそれを引き出されてしまうこともあるが、元が毒蜘蛛であるベネルトスパイダーは基本的に相手が自分と同じような戦法を取れるからといって、怯えて隙を見せることはない。

(ロンリーイーグルが、戦う相手が一人だけだと更に強くなるのは、解ってたけど……あのメタルリザード、思ってたより身体能力が高い、な)

ボス部屋に生息するモンスター。

将軍系のアンデットが召喚した兵隊アンデットとは訳が違い、そう簡単に倒せる相手ではないことは最初から解っていた。

ただ、ティールが予想していたよりも高い戦闘力を持っており、ベネルトスパイダーの援護が届いてしまうと……万が一の可能性が起こりうる。
故に、ティールは攻め気こそ薄いが、ベネルトスパイダーのやりたい事を潰すことに深く集中していた。
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