上 下
586 / 702

下手ではないだろ

しおりを挟む
「ふぅ~~~~、よし、やるか」

「あぁ、そうだな」

軽い準備運動を終えた三人は早速模擬戦を開始。

ティールは珍しく大剣を持ち、ラストはいつも通り大剣を使う。
ラストが大剣なのは解る……しかし、何故ティールが大剣を? と言いたげな顔を浮かべる周囲の冒険者たち。

「二人とも、程々にな」

その言葉が合図となり、相手の出方を見ることなく……二人とも前に出て、斬り結び始めた。

「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」

木製とはいえ、ぶつかり合う音によって使用者の腕力の強さが解るというもの。

最初のぶつかり合いは互角。
そこからは押して押されてのやり取りが繰り返される。

「お、おい……なんだよあれ」

「あのガキ、人族じゃねぇのかよ」

「あ、あっちの竜人族の奴が、あのガキに合わせてるんじゃねぇのか?」

パーティーメンバーであるラストが、わざわざティールの身体能力に合わせている。
そう考えられれば……彼等のプライドも傷付かなくて済むだろう。

「ありゃあ、どっちもスキルは使ってねぇし、魔力も纏ってねぇな」

「みてぇだな。あっちの竜人族の兄ちゃんは解っけど、あっちの坊主……マジでナニモンだ? もしかして純粋な人族じゃなくて、鬼人族か竜人族……巨人族、はねぇか。ドワーフとのハーフなら……肌がもうちょい焼けてっか」

「純粋な人族であれ、ね…………いったいどんな修羅場を潜り抜けて来たのかしら」

だが、プライドはあれど、現実を受け入れられるだけの器量があるベテランたちは、素直にティールが明らかに外見相応の者ではないと認めていた。

そして先程までティールがパーティーメンバーによいしょされてるだけだと口にしていたルーキーたちも……動きの速さを見せ付けられ、現実を受け入れざるを得なくなっていた。

両者の力が互角に見える……そういった戦い方は、器用な者が相手すれば出来るだろう。
しかし、速さに関しては、ごまかしようがない。

「ふ、ふざけんなよ……なんだよ、あれ」

速さに自信があるルーキーの口から、悔しさが零れる。

ティールはただの訓練であるため、マジックアイテムなど一切装備してない。
ルーキーたちには二人がスキルを使っているか否かなど解らない。
それでも……彼は、全力で動く自分よりも、目の前のティールの方が速いと……認めざるを得なかった。

「ぐっ!! っ……大剣でも、それが出来るんだな」

「まだまだ実験段階? ではあるけどな」

最後の最後、ティールはラストの大剣を宙に巻き上げ、決着。

本当の戦いであれば、ここから拳や脚を使ってまだ戦えるが、これが模擬戦であることをラストは忘れていなかった。

「それじゃ、次はどうする?」

「……ラスト、私と戦ろうか」

「良いだろう」

「っと、一つ提案なんだがラスト、木剣の二刀流はどうだ」

「二刀流? …………」

アキラの眼を、顔を見れば冗談で言ってるのではないと解る。

それでも……ラストは素直にその提案通り、二刀流で戦ってみようとは思えなかった。

「技術面に関しては、少しずつ努力していこうとは思っているが、俺はマスターやアキラ、お前ほど器用ではない」

「かもしれない。しかし、やはり君の一番の武器はその腕力だ」

斬るという動作は、腕力だけで行えるものではない。
それでも、速さの要因となる力でもある。

「ラスト、確かにお前は俺やアキラと比べたら、器用さとか技術面、そういった部分では俺たちの方が上だろう。でも、お前は戦闘が下手な訳じゃないだろ」

「…………ふむ、自分で言うのもあれだが、下手ではないだろう」

「だろ。それにこれは実戦じゃなくて訓練だ。色々試してこうぜ」

「ふっふっふ。それもそうだな……しかしアキラ、あまり速攻で終わらせてくれるなよ」

「安心しくれ。私も解っている」

この後、ラストはアキラの提案通り、木剣の二刀流でアキラと模擬戦を行った。

結果としてその模擬戦ではアキラが勝利を収めたが、何度か冷や汗をかく場面があった。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

異世界に来たら粘土のミニチュアが本物になった。

枝豆@敦騎
ファンタジー
粘土細工が趣味の俺はある日突然、家ごと見知らぬ世界に飛ばされる。 そこで自分が趣味で作る粘土のミニチュアが本物に実体化することを知る、しかもミニチュアフードは実体化後に食べると怪我が治ったり元気になったりする不思議な効果付き。 不思議な力を使って異世界で大富豪に!!……なんて、俺には向かない。 ただひっそりと趣味の粘土を楽しんで生きて行ければそれで満足だからな。 魔法もチートスキルもない異世界でただひたすら趣味に生きる男、ニロのお話。 ※作中ではミニチュアフードが実体化し、食べられるようになっていますが実際のミニチュアフードはどんなに美味しそうでも絶対に食べないで下さい。 見返したら投稿時のバグなのか文字化けが所々……気が付いたら直していきます。

秘宝を集めし領主~異世界から始める領地再建~

りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とした平凡なサラリーマン・タカミが目を覚ますと、そこは荒廃した異世界リューザリアの小さな領地「アルテリア領」だった。突然、底辺貴族アルテリア家の跡取りとして転生した彼は、何もかもが荒れ果てた領地と困窮する領民たちを目の当たりにし、彼らのために立ち上がることを決意する。 頼れるのは前世で得た知識と、伝説の秘宝の力。仲間と共に試練を乗り越え、秘宝を集めながら荒廃した領地を再建していくタカミ。やがて貴族社会の権力争いにも巻き込まれ、孤立無援となりながらも、領主として成長し、リューザリアで成り上がりを目指す。新しい世界で、タカミは仲間と共に領地を守り抜き、繁栄を築けるのか? 異世界での冒険と成長が交錯するファンタジーストーリー、ここに開幕!

処理中です...