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常識とは
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ヒツギがティールたちの前から消えた後、特に悪い雰囲気が続くことはなく、普段通りの様子で散策を楽しみ、夕食と大浴場を終え……宿に戻った。
「…………」
「……やはり、マスターは表情を隠すのが上手いな」
「っ、そうか?」
「あぁ、本当だ」
目の前からヒツギが消えた後、ほんの少しだけ不機嫌さが残っていたものの、ティールは直ぐにその不機嫌さを押し殺した。
そして再び泊っている宿に戻ってくるまで、笑顔でい続けた。
「そっか……それなら、良かった」
「原因は、昼間に出会ったあのヒツギという名の男か」
「ま、まぁ今更隠せるとは思ってないけど……はぁ~~~~。なんて言うか、我ながらこう……感情を上手く抑えられなかったと言うか」
自覚はあった。
いつもの自分らしく、厄介な面倒事を対処出来ていなかったと。
「同じ冒険者なら、意志を通したいなら訓練場でその力を示してみろよ、みたいな事を言ってなぁなぁにするか、実際に潰せたかもしれないかった……今思えば、そういう選択肢があったのにな」
「…………こんな事を主人であるマスターに言うのはあれだが、マスターは……まだ子供だろ」
「……まぁ、そう……だな」
「無理して、大人にならなくても良いんじゃないか? それに、今回は事が事というか……俺の勝手な予想だが、完全にアキラに対する気持ちが吹っ切れた訳ではないだろ」
図星であり、固まってしまうティール。
「そんな状況なら、あの男……ヒツギだったか。あんな奴が目の前に現れれば、自分の感情を上手くコントロール出来なくなってもおかしくない」
「そういう、もんかな。ラストでも、同じようになるか?」
「俺か? 俺は…………そうだな。正直なところ、一目惚れしたから告白したってところまでならまだしも、相手に既にそういった人がいると分かったのに、それでも尚自分の気持ちを優先しようとすれば……怒りが平常心を越えるだろう」
「そっか」
主人を励ますための嘘ではなく、実際に今回ティールが体験したことを頭の中に浮かべた結果、そういった答えが出た。
「……でもさ、世の中的にはどうなんだろうな」
「何がだ?」
「俺は少し前まで、田舎の村で生きる日々を送ってた。冒険者になってまだ一年弱……案外、世の中の常識を知らないのかもって思ってさ」
「ふむ。どうだろうな……俺も、偉そうに語れるほど人生経験とやらを積んではいない」
恋愛に関しては、結局のところ二人ともひよこどころから卵である。
本気で惚れた相手であれば、仮に既に想う人がいたとしても、自分が絶対に幸せにするという思いを胸に抱いて挑むべきなのか。
「でもさ、相手に嫌がられたら元も子もないよね」
「だろうな。加えて、俺達は冒険者として活動している。女性相手にそういった問題を起こせば、一気に悪評として広まるだろう」
二人は別に、綺麗売り……アイドル売りをしているわけではない。
時には絡んで来たクソ怠い同業者の四肢をバキバキに折ったりもしている。
だが、決して自ら悪評に繋がりそうなことをするタイプではない。
「それは……うん、普通に嫌だな」
「そうだろう。普通に考えて嫌がることを、あの男は実行しようとしてるのだ。故に、俺はあの男の行動が正しいとは思わない」
「……でも、あの男……面は良かったよな」
それはない、とは言えなかったラスト。
普通、という考えに基づくのであれば、確かにイブキの顔面は完全に上中下の中で、上に入る部類。
「世の中、顔だけで女性の心が動くとは限らないだろ」
「それはそうだと思うんだけどさ」
そうかもしれない。
ただ、初恋が……おそらくそれが要因となってバッサリと終了したティールとしては、だから大丈夫だよね! とはならない。
「マスター、これまでアキラがあぁいった輩に絡まれてきたのが、今回だけだと思うか?」
「確か、何回かあったって言ってたな」
「そうだろう。その中には、おそらくヒツギと同等の顔を持つ男もいた筈だ。だが、それでもアキラは今でも婚約者を想い続けている」
ラストが何を言いたいのか解ったティールの表情に光が戻り、今宵は過去の失恋関連が悪夢となって蘇ることはなく、ぐっすりと眠ることが出来た。
「…………」
「……やはり、マスターは表情を隠すのが上手いな」
「っ、そうか?」
「あぁ、本当だ」
目の前からヒツギが消えた後、ほんの少しだけ不機嫌さが残っていたものの、ティールは直ぐにその不機嫌さを押し殺した。
そして再び泊っている宿に戻ってくるまで、笑顔でい続けた。
「そっか……それなら、良かった」
「原因は、昼間に出会ったあのヒツギという名の男か」
「ま、まぁ今更隠せるとは思ってないけど……はぁ~~~~。なんて言うか、我ながらこう……感情を上手く抑えられなかったと言うか」
自覚はあった。
いつもの自分らしく、厄介な面倒事を対処出来ていなかったと。
「同じ冒険者なら、意志を通したいなら訓練場でその力を示してみろよ、みたいな事を言ってなぁなぁにするか、実際に潰せたかもしれないかった……今思えば、そういう選択肢があったのにな」
「…………こんな事を主人であるマスターに言うのはあれだが、マスターは……まだ子供だろ」
「……まぁ、そう……だな」
「無理して、大人にならなくても良いんじゃないか? それに、今回は事が事というか……俺の勝手な予想だが、完全にアキラに対する気持ちが吹っ切れた訳ではないだろ」
図星であり、固まってしまうティール。
「そんな状況なら、あの男……ヒツギだったか。あんな奴が目の前に現れれば、自分の感情を上手くコントロール出来なくなってもおかしくない」
「そういう、もんかな。ラストでも、同じようになるか?」
「俺か? 俺は…………そうだな。正直なところ、一目惚れしたから告白したってところまでならまだしも、相手に既にそういった人がいると分かったのに、それでも尚自分の気持ちを優先しようとすれば……怒りが平常心を越えるだろう」
「そっか」
主人を励ますための嘘ではなく、実際に今回ティールが体験したことを頭の中に浮かべた結果、そういった答えが出た。
「……でもさ、世の中的にはどうなんだろうな」
「何がだ?」
「俺は少し前まで、田舎の村で生きる日々を送ってた。冒険者になってまだ一年弱……案外、世の中の常識を知らないのかもって思ってさ」
「ふむ。どうだろうな……俺も、偉そうに語れるほど人生経験とやらを積んではいない」
恋愛に関しては、結局のところ二人ともひよこどころから卵である。
本気で惚れた相手であれば、仮に既に想う人がいたとしても、自分が絶対に幸せにするという思いを胸に抱いて挑むべきなのか。
「でもさ、相手に嫌がられたら元も子もないよね」
「だろうな。加えて、俺達は冒険者として活動している。女性相手にそういった問題を起こせば、一気に悪評として広まるだろう」
二人は別に、綺麗売り……アイドル売りをしているわけではない。
時には絡んで来たクソ怠い同業者の四肢をバキバキに折ったりもしている。
だが、決して自ら悪評に繋がりそうなことをするタイプではない。
「それは……うん、普通に嫌だな」
「そうだろう。普通に考えて嫌がることを、あの男は実行しようとしてるのだ。故に、俺はあの男の行動が正しいとは思わない」
「……でも、あの男……面は良かったよな」
それはない、とは言えなかったラスト。
普通、という考えに基づくのであれば、確かにイブキの顔面は完全に上中下の中で、上に入る部類。
「世の中、顔だけで女性の心が動くとは限らないだろ」
「それはそうだと思うんだけどさ」
そうかもしれない。
ただ、初恋が……おそらくそれが要因となってバッサリと終了したティールとしては、だから大丈夫だよね! とはならない。
「マスター、これまでアキラがあぁいった輩に絡まれてきたのが、今回だけだと思うか?」
「確か、何回かあったって言ってたな」
「そうだろう。その中には、おそらくヒツギと同等の顔を持つ男もいた筈だ。だが、それでもアキラは今でも婚約者を想い続けている」
ラストが何を言いたいのか解ったティールの表情に光が戻り、今宵は過去の失恋関連が悪夢となって蘇ることはなく、ぐっすりと眠ることが出来た。
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