上 下
563 / 693

耐えられるのか?

しおりを挟む
波状試練から戻って来た翌日、ティール達は予定通り休日にあてた。

そして次の日……リフレッシュした三人は再びダンジョンに潜り、十一階層に転移。
因みに三人の噂はある程度は広まっているため、ダンジョンに入る三人に声を掛けようとする冒険者たちは一人もいなかった。

「んじゃ、頑張っていきましょうか」

「おぅ」

「あぁ」

波状試練は一階層から五階層まで洞窟タイプで、六階層から十五階層までは遺跡となっている。

環境の変化……これもまたアキラの好奇心を盛り上げる要素であり、まだ楽しみな相手がぞろぞろといる階層ではないが、その眼には楽しさが宿っていた。

「っと、ティール。あそこに宝箱があるな」

「みたいですね。ただ…………一歩手前の上下左右には触れない方が良いみたいですね」

宝箱はダンジョンを探索する冒険者にとっては、貴重な収入源。

中に入っている物を売って金に換えるも良し、そのまま自分たちの装備にするもよし。
なんなら、宝箱に硬貨がそのまま入っている場合もある。

「そういうトラップか。解った」

事前にティールから情報を伝えられたアキラは上下左右、どこにも体触れない様に跳び、宝箱を回収。

(……ヤバいな。超美人が子供みたいな嬉しそうな顔を浮かべるとか、反則過ぎて……反則過ぎるよな)

一時的に語彙力が死んだティール。
既に一階層から十階層の探索時にも、フィールド上に落ちている宝箱を手に入れた事はあるが、それでもまだアキラは宝箱を発見する度、テンションが上がる。

「ニ十階層まで攻略し終えたら、纏めて解錠してもらいましょう」

「うむ! 何が入っているのか非常に楽しみだ!!!」

ティールは子供っぽい笑みを浮かべるアキラの顔が見られるだけで、非常に楽しかった。

(…………少し、心配だな)

主人の横顔を見て、表情には出さないがティールの事を心配に思うラスト。

何が心配なのかというと……いざアキラと別れる時に、本当に別れられるかということ。
アキラがどこまで自分たちと共に行動するかは解らないが、最長で約三年。

ラストとしては、頼れる仲間だと認識しているため、アキラがこちらの大陸に滞在できる間、ずっと共に行動しても構わないと思っている。

だが、いずれ別れは来てしまう。
それは避けられない事実である。

(アキラと別れるまでの間に、また新しい恋が巡ってくれば良いのだが…………おそらく、マスターはこれまでの人生の中で、一番アキラの事を気に入っているよな)

ラストはティールから、出会う前までの恋的な感情を抱いた相手についての話は聞いていた。

そして、共に行動するようになってから、そういった感情を誰かに抱いたときの表情や雰囲気を知っている。

それらの情報も含めて……今、アキラと共に行動している時が一番楽しそうに、幸せそうにしている。

(……マスターの奴隷である俺としては、是非ともアキラと結ばれてほしいところだが、婚約者がいるとなれば、なぁ………………故郷に残っている婚約者が浮気でもすれば、アキラの気持ちが明確に変わってしまうか?)

アキラに婚約者がいる、それ自体はラストも知っているが、相手の詳細……どういった流れでその男と婚約者になったのかまでは知らない。

(相手の男が、女にだらしない人物であればそういった可能性も…………そういえば、あの時アキラは悪くない笑みを浮かべていたな)

婚約者になった。それから初めて顔を合わせた人物を思い浮かべる顔ではなかった、ラストは記憶している。

(アキラがあぁいった顔を浮かべる相手という事は、少なくともアキラにとっては信頼出来る男ということだろう。であれば……傍に婚約者がいないからといって、浮気などすることはない、か)

思わず小さな溜息を零してしまうラスト。

「ん? 大丈夫か、ラスト。もしかしてまだ疲れが抜けきっていなかったか?」

「いや、大丈夫だマスター」

そう……自分を大丈夫だが、この先……その時が来たティールの感情が心配なだけである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル~召喚された高校生は人類の危機に団結チートで国を相手に無双する~

代々木夜々一
ファンタジー
高校生3年F組28人が全員、召喚魔法に捕まった! 放り出されたのは闘技場。武器は一人に一つだけ与えられた特殊スキルがあるのみ!何万人もの観衆が見つめる中、召喚した魔法使いにざまぁし、王都から大脱出! 3年F組は一年から同じメンバーで結束力は固い。中心は陰で「キングとプリンス」と呼ばれる二人の男子と、家業のスーパーを経営する計算高きJK姫野美姫。 逃げた深い森の中で見つけたエルフの廃墟。そこには太古の樹「菩提樹の精霊」が今にも枯れ果てそうになっていた。追いかけてくる魔法使いを退け、のんびりスローライフをするつもりが古代ローマを滅ぼした疫病「天然痘」が異世界でも流行りだした! 原住民「森の民」とともに立ち上がる28人。圧政の帝国を打ち破ることができるのか? ちょっぴり淡い恋愛と友情で切り開く、異世界冒険サバイバル群像劇、ここに開幕! ※カクヨムにも掲載あり

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

処理中です...