上 下
551 / 702

音の正体

しおりを挟む
「っ!!??」

朝……七時ごろ。
基本的にティールが目覚めることは少ない時間帯。

しかしこの時、ティールは飛びあがる様にベッドから起きた。
それはティールだけではなく、ラストも同じだった。

「マスター、今のは……」

「宿に泊まってる人間同士が喧嘩を始めた……って感じではなさそうだな」

二人だけではなくアキラも同じく目を覚まし、直ぐに合流した三人は朝食も食べず、音が聞こえた方向へと向かう。

「また音が……盗賊が攻めてきたか?」

「それはさすがにないんじゃないか。小さな村とかならともかく、ここは明らかに街だ」

冒険者や兵士、騎士の質とかはともかく、大規模な盗賊団でもまず攻めようとはしない。

「では、消去法でモンスターということになるか」

「だと思うぞ。多分…………かなり強い」

まだ敵の強さを直感的に測れる距離ではない。

しかし、ティールはこっそり聴覚強化を使用して何かと戦っている者たちの悲鳴を聞き取っていた。

「っ、こいつは……」

ダッシュで現場に到着した三人。

そこにいたのは、一体の赫色の甲殻を持つカブトムシ、ディレッドビートル。
カーターの周辺では……ギルドの記録を遡れば、目撃情報はある。

しかし、その情報はもう何十年も前の話。

基本的にカーターの周りでディレッドビートルが現れるのは非常に珍しく……カーターを拠点として活動する冒険者たちからすれば、あり得ないという感覚の方が近い。

「マスター、まずは俺が前に出る」

「分かった」

「お前たち、どけッ!!!!!」

「「「「「「「ッ!!!???」」」」」」」

既にディレッドビートルと戦っていた兵士や冒険者たちが何事だ? といった眼を向けると、一人の竜人族が大剣を背負って跳び……いきなり最前線に現れた。

「シッ!!!!!」

「ッ!!!!」

振るわれた大剣と赫い角がぶつかり……結果は互角。

両者とも後方に下がる形となった。

(っ……少し、痺れたか)

既に身体強化などのスキルを使用しているディレッドビートルに対し、ラストは初撃から強化系のスキルを発動し、大剣に魔力を纏って振り下ろしたが、結果的にダメージを与えることは敵わなかった。

「お前たち、下がって負傷した仲間の手当てをしていろ」

「なっ!!! まっ」

兵士の一人が言い終わる前に飛び出したラスト。

ラストは……ティール、少し前から共に行動しているアキラと共にであれば一緒に戦う気になるが、残念ながらこの場には共に戦おうと思える強者いない。

下手に一緒に戦ったとしても邪魔になる。

言葉は少々悪いが、それでもそれは兵士や他の冒険者を考えてのものだった。

(ディレッドビートル、か。Bランクのモンスター。初めて見るモンスターだけど……多分、メタルアーマードビートルと同じ強さか?)

初見のモンスターではあるが、以前に似た様なモンスターと戦ったことがあるティール。

転移トラップに引っ掛かってしまった護衛対象を守るために共に転移した部屋で、鋼鉄のカブトムシと遭遇。
思い出しても……かなり強かったと断言出来る。

(それでも、Bランクのモンスターなら……ラスト一人だけでも対処出来ると思ってたけど…………そろそろ、手を貸した方が良いかもしれないな)

ディレッドビートルは火を纏うことが出来る。

その扱いにも慣れており、角に纏い……遠距離攻撃を放つことが可能。

そういった技術面を含めても、ティールはなんだかんだで自分の手助けは必要ないと思っていた。
しかし……それらの技術にではなく、ラストは単純なパワーで押され始めていた。

「ティール、このままラストに戦わせ続けるのか?」

ラストは、ティールの奴隷。
それを知っているアキラは、ラストの主人であるティールに無断で参戦しようとはしなかった。

「もう少しだけ、様子を見ます」

と言いつつも、ティールは直ぐにでも援護が出来るよう、疾風瞬閃を抜剣していた。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

村人からの貴族様!

森村壱之輔
ファンタジー
リヒャルトは、ノブルマート世界の創造神にして唯一神でもあるマリルーシャ様の加護を受けている稀有な人間である。固有スキルは【鑑定】【アイテムボックス】【多言語理解・翻訳】の三つ。他にも【火・風・土・無・闇・神聖・雷魔法】が使える上に、それぞれLvが3で、【錬金術】も使えるが、Lvは2だ。武術も剣術、双短剣術、投擲術、弓術、罠術、格闘術ともにLv:5にまで達していた。毎日山に入って、山菜採りや小動物を狩ったりしているので、いつの間にか、こうなっていたのだ。

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

処理中です...