上 下
544 / 702

不運

しおりを挟む
(こいつ……いったい、いつまで続けられるのよ!!!)

既に二人っきりのタイマン勝負が始まってから五分が経過。

大剣使いの女性が使用した呪術はノーリスクの強化技ではなく、リスク有りの強化。
当然ながら、悠長に戦い続けられない。
ラストの様に心の奥底が燃え滾る様な熱い戦いが大好物というわけではなく、可能ならさっさと終わらせたい。

しかし……ラストは違う。

「どうした! これからが、更に熱くなる、ところだろ!!!!!」

(クソ、ウザい!!! さっさとぶった斬られないさいよ!!!!)

元々持久力はあった。
ティールと共に行動するようになってから、休日の朝から昼にはよく模擬戦をするようになった。

そしてその休日が少なく……他の冒険者からハイペース過ぎる、もっと休めと言われるぐらい探索に出る日数が多い。
そんな環境が確実にラストの持久力を鍛え、底上げした。

「オオォォアアアアアアッ!!!!」

「っ!!!??? 嘗めんじゃ、ないよ!!!!」

「嘗めては、いないぞ!!!!!」

大剣という大きな得物を使っているが、女の仕事は短期決戦。
場合によっては役立つという利点もあり、大剣を使用している。

スタミナに優れている訳ではなく……ラスト並みの戦闘者と長時間戦い続けるのは振りでしかない。
それでも……これまで身に付けた戦闘力が裏切ることはない。
だからこそ、口にした通りラストは大剣使いの女を嘗めてなどいない。

際どく、ナイスタイミングで竜化を使用して踏ん張り、ぶった斬る、耐える。

今……ラストは斬り合っている女が自分の主人の命を狙っていたという事も忘れて、戦いに熱中していた。
それは裏で生きる人間にとって、殆ど解らない感情。

同じ冒険者であっても、解らない者が多いその感情に困惑するのは無理もなく……その揺らぎが戦闘に現れるのは、至極当然と言えた。

「ぬぅあああああッ!!!!!」

(チッ!!! 防ぐしかない!!)

女自身が土魔法を覚えており、魔力技術の範囲で自身の体に岩石を纏うことが可能。

当然、岩石を体に纏えばスピードが下がる。
ラストとの戦闘においてそのデメリットは致命的だが、それでもナイス過ぎるタイミングで斬り上げられた斬撃を耐えるにはそれしかなかった。

「ッ!!!! ………………本当に、なんなの、よ。あんた、達」

女の判断は悪くなかった。
一瞬で切り替えられた思考はまさに一流。

だが、誤算があるとすれば……大剣であれば防げた一撃も、土の魔力で生み出した岩石と魔力だけでは防げなかったこと。

「俺たちは……戦闘力が高い冒険者、とだけ言っておこうか。あまり自分を上の存在として発言するのはマスターのスタイルに反する……俺も、まだまだ高みに到達してるとは言えない」

「……不運、としか、言えない……わ、ね」

岩石を越えて外套、皮、筋肉、骨……内臓。
全てをぶった斬られた女はそこから回復出来る手段はなく、完全に崩れ落ちた。

「不運、か……俺としては、不運なのではなく、お前たちの仲間に日頃から狂気を持つ者がいたことが不運だったと思うぞ」

もう聞こえていないであろう死体に、それは違うぞと伝え……ようやく、張りつめていた闘志、緊張の糸が緩む。

(あの時、本当にあの四人組が俺たちに手を出さなければ、ぶつかり合うことはなかった。まぁ、ギルドに戻ればマスターは職員に怪しい奴らがいたと伝えるだろうがな)

ラストの考えている通り、いきなり仕掛けてこなければ、本当にティールはあの場で黒い外套を身に纏った四人組をどうこうしようとは考えていなかった。

「さて、もう終わっているか、それともアキラが優勢なまま続いているかは分からないが、とりあえず戻るか」

死体、武器を回収した後、ラストは直ぐに緩んだ心を正した。

そういった相手が自分たちを狙ったとなれば、そこを狙われてもおかしくない。
予想外の連戦ではあったが、今回の戦いでまた少し前に進めたラスト。

そして投げ飛ばされる前に戦っていた場所に戻ると……後者の予想が当たっていた。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

最後の黄昏

松竹梅
ファンタジー
伝説人間vs新人間の9本勝負! 1章だけ公開中。2章、3章は作成中

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

エデンワールド〜退屈を紛らわせるために戦っていたら、勝手に英雄視されていた件〜

ラリックマ
ファンタジー
「簡単なあらすじ」 死んだら本当に死ぬ仮想世界で戦闘狂の主人公がもてはやされる話です。 「ちゃんとしたあらすじ」 西暦2022年。科学力の進歩により、人々は新たなるステージである仮想現実の世界に身を移していた。食事も必要ない。怪我や病気にもかからない。めんどくさいことは全てAIがやってくれる。 そんな楽園のような世界に生きる人々は、いつしか働くことを放棄し、怠け者ばかりになってしまっていた。 本作の主人公である三木彼方は、そんな仮想世界に嫌気がさしていた。AIが管理してくれる世界で、ただ何もせず娯楽のみに興じる人類はなぜ生きているのだろうと、自らの生きる意味を考えるようになる。 退屈な世界、何か生きがいは見つからないものかと考えていたそんなある日のこと。楽園であったはずの仮想世界は、始めて感情と自我を手に入れたAIによって支配されてしまう。 まるでゲームのような世界に形を変えられ、クリアしなくては元に戻さないとまで言われた人類は、恐怖し、絶望した。 しかし彼方だけは違った。崩れる退屈に高揚感を抱き、AIに世界を壊してくれたことを感謝をすると、彼は自らの退屈を紛らわせるため攻略を開始する。 ーーー 評価や感想をもらえると大変嬉しいです!

処理中です...