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あの時とはまた違う

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「………………」

(……マズいな。完全に意気消沈してしまっている)

夕食を食べ終えた後、泊っている宿は別なため、その場で解散。
特に予定もないため、二人は宿へと戻るが……ティールの表情は完全に死んでいた。

(これまでもマスターが気になった女性はいた。しかし、何らかの事情があってその想いが叶うことはなかったが……それでも、ここまで沈むのは初めてだな)

ティールのそういった想いが敗れたのは初めてではない。
初恋なんて、とっくの遠に破れている。

変に大人びているところもあり、そういう事もあるよねと自分を納得させることが出来ていたが……今回に限っては、ガチ凹みしていた。

「ま、マスター……大丈夫か?」

「あぁ……大丈夫だよ。多分」

中々に頼りない多分である。

戦闘中に感じられる頼もしさが、一切感じられない。
おそらく……おそらく大丈夫だとは思いたいが、それでも明日からの戦闘が不安になる。

(マスターに限って心配はいらないと思うが…………今からでもアキラに、明日は一旦休みでと伝えた方が良いか?)

メンタル次第では本当にマズい。
そう感じてしまう程、今のティールからはやる気の欠片も感じられない。

やる気がないからといってそこら辺の雑魚モンスターに負けるとは思えないが、それでもCランクの上位……もしくはBランクモンスターに遭遇した場合、万が一を感じさせる不安が消えない。

「…………なんか、あれだな。本当に、こう……真剣に頑張ろうと思った時でも、中々上手くいかないもんだな」

「そう、だな……」

運が悪いと言えばそこまでの話だが、今回はそう簡単に片づけられる話ではない。

今回……ティールはアキラに気になる人がいる程度の状況であれば、その想いを自分に向かせる為に頑張ろうと思うほど、いつもとは違う気合が入っていた。

「……しかし、マスター。まだ……あれだ。アキラは、その婚約者と結婚したわけではないのだろ」

正式に結婚、ゴールインしたのでなければ、まだ可能性はある。
それは確かに間違っていないかもしれないが……そこは、ティールにとって越えてはいけないと思っている一線であった。

「そうかもな。でもさ、ラスト。その婚約者の事を軽く話すアキラさんの顔を見ただろ」

「むぅ……まんざらでもない顔、だったな」

「そうだろ。照れ隠し? って言うのかな。とにかく、俺みたいな異国の……別大陸で出会ったガキが割り込める隙間なんて、絶対にないんだよ」

いつもの様に、マスターは自分のことを過小評価している……という言葉が、ラストの口から出てこなかった。

実戦的な戦闘力であれば、ティールは同世代の中でもトップクラスどころの話ではなく、戦いに関わる者……戦闘者という枠で視ても、トップクラスの実力がある。

だが、恋愛というまた別の戦場での戦闘力は……本当に歳相応レベルのものしかない。

女性をその気にさせる言葉をサラッと出せるわけがなく、トークが上手いわけでもない。
まだ十五も越えていないのに、Bランクに到達したという将来性に惹かれて集まる者はいるだろうが、そこに惹かれる女性たちは殆どティールの中身を見ていないと言っても過言ではない。

(マズい……非常にマズいな。ここまで沈んでいるマスターは初めてだ)

初恋が敗れた時も凹みはしたが、そのまま凹み状態が続くことはなく、目標を持って立ち上がった。

だが、今回はその時とは状況が違う。
自分に圧倒的なモテ要素が足りないのではなく、どう頑張っても伸ばそうとした華に手が届かない状態。

これから同行する中でティールがどれだけアピールしても、婚約者に向けられている想いが変わるとは思えない。

別の大陸で活動しているなら、もしかしたら男の方が浮気してるかもしれないし、行動を起こすのは何も悪い事ではない? なんて事を考えられる程ゲスい思考には染まっておらず、宿に戻ったティールは悲しみの中に沈むように速攻で寝た。
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