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何かが砕けた音
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『ティール、マジで惚れた女が出来たら、まずはどんな形でもいいから、相手に気になる人がいるのか……もしくは既に恋人がいるのか、そこら辺をちゃんと聞いておけよ。そういった相手がいるのに変に突っ走ってアプローチして、後で知れば……ダメージが大き過ぎて十日ぐらいは立ち直れなくなるからな』
脳内で思い出された師匠からのアドバイス通り、ティールは勇気を振り絞って実行。
「あの……話は変るんですけど、アキラさんは……付き合ってる人とか、いるんですか?」
「…………」
本当にいきなり話を変えたティールに対し、ラストはある程度マスターがアキラに向けている感情を把握していたため、変な眼を向けて訝しげな表情をすることはなく、ただ邪魔しないように黙った。
「付き合っている…………あぁ、恋人ということか。いや、私に恋人はいない」
「っ!!!!!」
声に出してはならない。
奇声? を発してはならない。そんな事は理解している。
ただ……ティールはどうしても堪え切れず、左手をテーブルの下でガッツポーズを取った。
心の中では小さなティールが両拳を上げて喜びに喜んでいた。
「だが、許嫁がいる」
「……へっ?」
しかし、次の瞬間には生まれた希望があっさりと砕かれてしまった。
パリンっ……と、心の中で何かが砕ける……もしくは、心そのものが砕ける音が聞こえた。
「っ……許嫁というのは、婚約者か?」
「あぁ、こっちの方ではその言葉の方が伝わりやすいか。親同士の付き合いで、子供の頃からの知り合いがいてな。そのまま友人になり……仲も悪くないから、そのまま許嫁となった」
「そ、そうなのか」
ラストとしては、そういった人物がいてもおかしくないだろうと、アキラが持つ美しさや内面を軽く知ったこともあり……そこまで驚くことはなかった。
しかし……しかし、少し怖くて隣に座っているマスターの顔を見れなかった。
「……………………そう、なんですね」
精一杯、本当に精一杯……ティールは声のトーンをあからさまに落とさないように対応。
そして先程ガッツポーズを取った左手は……変に感情を崩してしまわないように、先程までとは違う意味で握る拳の力を強めた。
(……うん、そうだな。こんなに、綺麗な人なんだし……そういう人がいても、おかしくないよ、ね…………)
散った。
間違いなく散った。
恋……と呼ぶには、まだあまりにも出会ってから短期間であり、本気で惚れたのかと訊かれたら……上手く答えられない。
しかし、ティールはこれまでの経験の中で……初めて、気になった女性に対して、そういった相手はいるのかと、
真剣に尋ねた。
加えて……もし恋人、もしくは婚約者がいるのであればまだしも、気になる相手がいるという場合であれば……真剣にアプローチしようとも考えていた。
だが、その考えは、一瞬だけ生まれた希望は呆気なく散った。
仮に……その婚約者の男に対して、あまりそういった気持ちを持っていないのであれば……とも考えていたが、アキラの表情を見る限り、その幼馴染と婚約者になったことに対して、まんざらでもない感情を抱いていることが解る。
「二人はそういった人物はいないのか?」
「俺たちは旅をしながら冒険をしている。現段階では、あまりな」
マスターがリングに上がる前に重鈍なボディを食らい、強烈なアッパーを食らって場外KO状態になってしまっている事を察し、代わりにラストが冷静に返答を行う。
「なるほど。確かにどこかの街を拠点として活動していないと、そういう関係の相手をつくるのは難しいか」
「そういう事だ。しかし、アキラはそういった相手がいるのに、別の大陸に来て武者修行をして……その、良いのか?」
「元々武士に……戦う者として生きていこうと思っていた。私としても、その方が性に合っているが、結婚したとなればそういった活動もする機会もなくなる。だから、少し無理を言って三年ほど時間を貰ったのだ」
「なるほど、それは……零しても仕方ない我儘だな」
珍しいと思うほどラストが自ら質問を行い、会話を続けていく中……ティールはゆっくりと料理だけを食べ続け、アキラに何かを質問された時だけ答えた。
脳内で思い出された師匠からのアドバイス通り、ティールは勇気を振り絞って実行。
「あの……話は変るんですけど、アキラさんは……付き合ってる人とか、いるんですか?」
「…………」
本当にいきなり話を変えたティールに対し、ラストはある程度マスターがアキラに向けている感情を把握していたため、変な眼を向けて訝しげな表情をすることはなく、ただ邪魔しないように黙った。
「付き合っている…………あぁ、恋人ということか。いや、私に恋人はいない」
「っ!!!!!」
声に出してはならない。
奇声? を発してはならない。そんな事は理解している。
ただ……ティールはどうしても堪え切れず、左手をテーブルの下でガッツポーズを取った。
心の中では小さなティールが両拳を上げて喜びに喜んでいた。
「だが、許嫁がいる」
「……へっ?」
しかし、次の瞬間には生まれた希望があっさりと砕かれてしまった。
パリンっ……と、心の中で何かが砕ける……もしくは、心そのものが砕ける音が聞こえた。
「っ……許嫁というのは、婚約者か?」
「あぁ、こっちの方ではその言葉の方が伝わりやすいか。親同士の付き合いで、子供の頃からの知り合いがいてな。そのまま友人になり……仲も悪くないから、そのまま許嫁となった」
「そ、そうなのか」
ラストとしては、そういった人物がいてもおかしくないだろうと、アキラが持つ美しさや内面を軽く知ったこともあり……そこまで驚くことはなかった。
しかし……しかし、少し怖くて隣に座っているマスターの顔を見れなかった。
「……………………そう、なんですね」
精一杯、本当に精一杯……ティールは声のトーンをあからさまに落とさないように対応。
そして先程ガッツポーズを取った左手は……変に感情を崩してしまわないように、先程までとは違う意味で握る拳の力を強めた。
(……うん、そうだな。こんなに、綺麗な人なんだし……そういう人がいても、おかしくないよ、ね…………)
散った。
間違いなく散った。
恋……と呼ぶには、まだあまりにも出会ってから短期間であり、本気で惚れたのかと訊かれたら……上手く答えられない。
しかし、ティールはこれまでの経験の中で……初めて、気になった女性に対して、そういった相手はいるのかと、
真剣に尋ねた。
加えて……もし恋人、もしくは婚約者がいるのであればまだしも、気になる相手がいるという場合であれば……真剣にアプローチしようとも考えていた。
だが、その考えは、一瞬だけ生まれた希望は呆気なく散った。
仮に……その婚約者の男に対して、あまりそういった気持ちを持っていないのであれば……とも考えていたが、アキラの表情を見る限り、その幼馴染と婚約者になったことに対して、まんざらでもない感情を抱いていることが解る。
「二人はそういった人物はいないのか?」
「俺たちは旅をしながら冒険をしている。現段階では、あまりな」
マスターがリングに上がる前に重鈍なボディを食らい、強烈なアッパーを食らって場外KO状態になってしまっている事を察し、代わりにラストが冷静に返答を行う。
「なるほど。確かにどこかの街を拠点として活動していないと、そういう関係の相手をつくるのは難しいか」
「そういう事だ。しかし、アキラはそういった相手がいるのに、別の大陸に来て武者修行をして……その、良いのか?」
「元々武士に……戦う者として生きていこうと思っていた。私としても、その方が性に合っているが、結婚したとなればそういった活動もする機会もなくなる。だから、少し無理を言って三年ほど時間を貰ったのだ」
「なるほど、それは……零しても仕方ない我儘だな」
珍しいと思うほどラストが自ら質問を行い、会話を続けていく中……ティールはゆっくりと料理だけを食べ続け、アキラに何かを質問された時だけ答えた。
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