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強い背中を見せ続ける

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「っしゃ! 来いっ!!!!」

「はいっ!!!!!」

兄弟関係の悪さを伝えた翌日、朝食後から訓練を開始。

まだヴァルターの中でモヤモヤとした気持ちは残っているが、二人から受けた言葉を思い出し……今はとにかく強くなり、聖剣技と暗黒剣技を使いこなせるようになることだけを考える。

そう決めて朝から厳しい模擬戦を何度も何度も繰り返す。

「よし、休憩にしましょう」

「は、はい」

冷えた水分を取りながら体力の回復に努める中、ティールは直ぐにヴァルターの表情の変化を察した。

「……やっぱり、まだ気にしてるんですか」

「っ! す、すいません」

「別に謝らなくて良ですよ。そもそも、俺はヴァルターさんの心を解ってやれる、なんて言える経験は積んできてません」

「俺も……まだ、同じだな」

決して模擬戦に集中しておらず、身が入っていなかったわけではない。

どの模擬戦も全力で取り組み、課題をこなそうと必死なのは相手をしていた二人が一番解っている。

(顔に悩みが浮かんだのは、全部の模擬戦が終わってからだ。意識の切り替えがしっかり出来てる証拠だ)

教え子の成長に、教える立場の人間だけが得られる喜びを感じるティール。

「ただ、ヴァルターさんが動いてしまうと、余計に事態が悪化してしまうのだけは間違いないかと」

「……俺たちも、まだ一年程度しか冒険者として活動していないが、嫉妬の眼を向けてくる者は多い。そういった者たちに何か言おうものなら、反感が飛んでくるのは目に見えている」

「残念ながら、こちらが誠意をもって接し、何かアドバイスをしても変わらないことが多いのです。一応例外はありますが……その例外も、一応劇的な何かを体験したようなので」

ティールの一応の例外という人物は、元ポンコツルーキーのバーバスを思い出していた。

彼はティールが出会った当初の頃は、オリアスも非常に馬鹿丸出しの正確であり、自己中心的なガキ大将が前面に出ていた。

しかし何を思い、感じたのか多数の冒険者たちでモンスターの大群を討伐した後、百八十度性格が変わっていた。

(今でもあのままなのかは知らないけど、あの時は確かに自分勝手で我儘? な性格からポジティブな方向に変わってたからな)

人生何が起こるか解らない。それを目のあたりにした瞬間ではあるが、そう簡単に劇的な出会いというのは訪れないものである。

「一応そういう例も、あるんですね」

「一応の話ですけどね。あれはそれなりの偶然が重なった結果でもあると思うので」

「オルガール学園、だったか? そこの学生たちも最初はマスターのことを嘗めていたが、力の差をハッキリさせたら態度は変わったな。まぁ、ヴァルターとオリアスほどの確執があったわけではないから、あまり例にはならないと思うが」

「お、オルガール学園の学生とた、対立したんですか?」

それなりに有名な学園であるため、当然ヴァルターの頭に名前や学園の特徴などが入っている。

「だ、だだだ大丈夫だったんですか?」

「えぇ、勿論大丈夫でしたよ。ちゃんと自分たちが護衛としての力があると示せば解ってくれる人たちだったんで」

「俺としては見た段階でマスターの実力を察しろと思ってしまうがな」

「ラスト、それは学生相手に無茶な要求だろ。俺の見た目だとそういう事はもう恒例の流れなんだからさ」

見るだけで相手の力量を察するというのは、一定以上の実力と戦闘経験がなければ出来ない。

なら鑑定系のスキル、もしくはマジックアイテムを使用すれば良い?
確かにその通りではあるが、ティールがそれを使われるのを超嫌っているため、結局のところ雰囲気で察する以外……平和な道はないのだ。

「でも、そうですね……俺、故郷の方には俺のことを慕ってくれてる歳下の奴らがいるんですけど、そいつらにはこう……強い背中を見せたいなって思うことがあります」

「強い背中を、ですか」

「そうです。だからと言うわけではありませんが、ヴァルターさんが強い背中を見せ続けることが……一つの改善に繋がるかもしれません」
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