上 下
406 / 702

侮ってはいない

しおりを挟む
「なぁ、あいつ確かロングソード系の武器で戦ってたよな」

「う、うん。そうだった……でも、槍を使ってるね」

ダンジョン探索中、ライガルと戦うティールの姿を偶々発見した冒険者たち。

先日のモンスターパーティー討伐にも参加してたため、全て見てはいないが、ティールだけではなくラストの戦闘スタイルも覚えている。

ラストは大剣を力強く、加えて器用に扱っていた。
それに対して、ティールは二刀流で偶に攻撃魔法を使用する、魔法剣士スタイル。

彼らが見たその情報は間違っていない。

ティールが最も使用する戦闘スタイルはそれだが、現在は風槍を使って十一層から十五層に出現するモンスターの中でも要注意個体、ライガルと互角に渡り合っている。

「ロングソードだけじゃなくて、長槍まで使えるのか? マジで何者なんだよ」

まだまだ一流には届かない腕。

それでも、決してド三流には思えない槍捌きでライガルの動きに対応。

ライガルの咬みつきや爪撃を一度も食らうことなく、確実に風槍による攻撃でダメージを与えていた。

(同業者が見ているな。声を掛けて追い払うべきか? だが、ダンジョンという空間、場所を考えれば戦闘を他者に見られるのは当然……こちら側に追い払う権利はない、か)

ギリギリ睨みつける寸前で止め、現在目の前で楽し気な表情でライガルと戦闘を繰り広げるティールに視線を戻す。

ティールの力を持ってすれば、身体能力を武器にしてライガルを三十秒と掛けずに倒すことは難しくない。

だが、それを抑えて戦うからこそ、実戦で腕を磨くことが出来る。

「槍で、勝っちまいやがった」

勝負が始まってから数分後、ライガルの脳天を貫き、勝利を収めたティール。

一部始終を見ていた同業者たちは、驚き固まり、その場から動けなかった……が、ラストに視線を向けられ「失せろ」と手を振られ、慌てて移動した。

「どうだった、ラスト」

「槍の名手ではないから、偉そうなことは言えないが……二流は卒業した、といったレベルだと思う」

「二流卒業か。悪くないペースだな」

「…………」

悪くない、どころのペースではない。
ラストはその成長速度に感嘆を覚えた。

(元々槍の基礎は出来ていた。故に、直ぐに応用へ取り掛かることが出来た。実戦で実行する方が腕は上がるというが……我が主ながら、恐ろしい人だ)

万が一の危機が身に降りかかれば、他の力で脱することが出来る。

強者こそが実践できる訓練。
他者が聞けば大半は嫉妬する内容だが……今までティールが積み重ねてきた努力と無茶があってこそ、実行出来る内容と言える。

「マスター。アサルトレパードを相手にも、その風槍で挑むのか?」

「…………いや、今回はまだ早いと思ってる」

実戦で槍を使った訓練を始めてから数日。

まだ、どう足掻いても超えられない壁は感じないティール。
もっと今以上の境地に辿り着けるという自信はある。

しかし……壁は超えれば超えるほど分厚く、高くなるもの。
奪えばそのスキルはティールの物ではあるが、完璧に扱えるかどうかは別問題。

(風槍で挑んでみたい気持ちはある。ただ、アサルトレパードが相手ではちょっとな……うん、せめて一流の域に到達してからだな)

先日のモンスターパーティーという大乱戦を超え、確実に一段強くなったティールだが、それでもアサルトレパードという狩人を侮ることはなかった。

万が一の危機を脱する力がある。
本人もそれは自覚しているが、当然相手によって脱することが出来るか否かは変わる。

「まず、アサルトレパードと槍では、ちょっと相性が悪そうだからな」

「ふむ……そうかもしれないな」

ラストは槍を持った自分がアサルトレパードと戦う姿を、脳内でイメージ。

先日はアサルトレパードを相手に勝利を収めたラストだが、脳内の中でとはいえ、自身の負けが浮かんだ。

「それよりマスター、早く解体しよう」

「おっと、忘れてたぜ」

慌ててライガルの解体を始める二人。

そして数日後、当然と言った様子で二人はアサルトレパードを倒し、地上へ戻った。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

異世界に来たら粘土のミニチュアが本物になった。

枝豆@敦騎
ファンタジー
粘土細工が趣味の俺はある日突然、家ごと見知らぬ世界に飛ばされる。 そこで自分が趣味で作る粘土のミニチュアが本物に実体化することを知る、しかもミニチュアフードは実体化後に食べると怪我が治ったり元気になったりする不思議な効果付き。 不思議な力を使って異世界で大富豪に!!……なんて、俺には向かない。 ただひっそりと趣味の粘土を楽しんで生きて行ければそれで満足だからな。 魔法もチートスキルもない異世界でただひたすら趣味に生きる男、ニロのお話。 ※作中ではミニチュアフードが実体化し、食べられるようになっていますが実際のミニチュアフードはどんなに美味しそうでも絶対に食べないで下さい。 見返したら投稿時のバグなのか文字化けが所々……気が付いたら直していきます。

秘宝を集めし領主~異世界から始める領地再建~

りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とした平凡なサラリーマン・タカミが目を覚ますと、そこは荒廃した異世界リューザリアの小さな領地「アルテリア領」だった。突然、底辺貴族アルテリア家の跡取りとして転生した彼は、何もかもが荒れ果てた領地と困窮する領民たちを目の当たりにし、彼らのために立ち上がることを決意する。 頼れるのは前世で得た知識と、伝説の秘宝の力。仲間と共に試練を乗り越え、秘宝を集めながら荒廃した領地を再建していくタカミ。やがて貴族社会の権力争いにも巻き込まれ、孤立無援となりながらも、領主として成長し、リューザリアで成り上がりを目指す。新しい世界で、タカミは仲間と共に領地を守り抜き、繁栄を築けるのか? 異世界での冒険と成長が交錯するファンタジーストーリー、ここに開幕!

処理中です...