上 下
366 / 693

コンディションは大事だよ

しおりを挟む
ティールが料理をしている間に、値段の設定が終了。

「どうぞ」

皿によそって渡していくと、冒険者たちは思いっきりがっつき始めた。

(……良く食べるな。まっ、奪った空間収納に感謝しないとってことだな)

きっちり金は受け取り、その臨時収入の額に……思わずニヤけてしまう。

食後、体をさっぱりと洗い、本日の疲れはほぼ消えた。

「凄いな、お前。それって、土魔法で作った自作だろ」

「はい、そうですね」

簡易風呂について尋ねてきた同業者に対し、素直にそうだと答える。

「……収納量に関しては、冒険者の中でもトップクラスか」

「どうでしょうか? 自分以外に空間収納のスキルを持っている冒険者に会ったことがないので」

「はっはっは! それもそうか」

普通はアイテムバッグ、空間収納持っているにしても、冒険の邪魔になるので入れない。

だが、最近ティールは……それはそれで勿体ないと思い始めた。

「風呂に入ると、本当にさっぱりしますよ。勿論、その間無謀になるかもしれませんけど、翌日のコンディションは非常に良い状態になります」

「だから、風呂は持っておいた方が良いってか?」

「コンディションが、生死を分けることもあるかと」

「なるほど……それは否定出来ないな」

風呂なんて、入れるだけ邪魔。
そう考えていた冒険者だが、ティールから改めてコンディションの重要さを伝えられ、ほんの少し……購入を検討しようと思い始めた。

翌日、二人はサラッと腹が膨れる朝食を食べ、最下層のボス部屋を目指す。

(このままだ、結構あっさり一番下まで到着しそうだな)

十一階層以降を探索するようになってから、偶にCランクのモンスターと遭遇するが、歯応えがない。

最下層のボスに関しては油断ならないというイメージを持っているが、トラップの発見にも少々慣れてきたこともあり、心に緩みが現れてきていた。

「ッ!!??」

その緩みを引き締めるかのように、一体のモンスターが二人を襲撃。

「戦い甲斐がありそうなモンスターだな」

「えっと……確か、ライガルだったか?」

ライオンと虎を混ぜ合わせた様なモンスター、ライガル。

体長は五メートルを超えており、爪や牙は一目見るだけで鋭さを感じさせる。
加えて、尾がそこそこ太い。

爪や牙だけを注視していれば、手痛いダメージを食らう。

「マスター、やるか?」

「良いのか? 見た目通り強そうなモンスターだけ、ど!」

二人が、どちらがタイマンで戦うのか決めるのを待たず、ライガルは強化系のスキルを既に使用しており、全身に魔力を纏って襲い始める。

(どうせなら、素手でやるか)

ロングソードは抜かず、敢えて素手での勝負に臨む。

武器を使わない。二人で行動してるのに、一人だけで挑んでくる。
この状況にライガルは……特に苛立っていない。

二人を強者だと認識しているからこそ、最初から強化マックスで挑んでいる。
一人だけで自分に襲い掛かってくるのであれば、寧ろ好都合。

確実に一人ずつ仕留める。

「グゥゥアアアアァアアアアアアッ!!!!」

雄叫びのスキルを使用し、更に身体能力を向上。

「うぉぉおおおあああああああッ!!!!!」

それならばと、ティールも同じく雄叫びを使用。
両者とも身体能力を向上させ、闘争心爆上げ状態。

(動きはある程度読める。でも、この力任せな感じ、熱くなるな!!)

野性的な動きで、普通なら読み辛い動き。
そう感じるのが一般的だが、これまでの戦闘経験から、その手の動きにはかなり慣れている。

経験値のお怪我で優位に立ち回れていることもあり、余裕をもって力には力で返す。

全体的に身体能力ではティールは上回っているが、ライガルは怯むことなく襲い掛かる。
そして時間が経つにつれ、身に纏う魔力がどんどん鋭くなっていく。

(成長中ってことか? 凄いな、こいつ)

ライガルの成長速度を肌で感じ取り、身震いしてしまう。
同時に、それは武者ぶりでもあった。

まだまだここから盛り上がる……そう感じた瞬間、邪魔が割って入ろうとしてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

食の使徒 素人だけど使徒に選ばれちゃいました。癒しの食事を貴方に 幻想食材シリーズ

夜刀神一輝
ファンタジー
八戸 樹 は平凡な人生に幕を閉じた。    だが樹には強い一つの願望があった。    誰かの為になりたい、人の為に生きたい、日本人として日本人の為に、そう思って生きていても人生とは、そうそううまくいく事もなく、死ぬ最後の時まで自分は誰かの?国の?国民の?為に生きれたのだろうか?と疑問が残る様な人生だった。    そのまま魂が消え終わるかと思われた時に、女神様が現れ、異世界に使徒として転生してほしいと言われる。    使徒として転生してほしい世界では、地球の様に食事や調理法が豊かではなく、また今一進化の兆しも見えない為、樹を使徒として異世界に送り込みたいと、樹は自分は料理人じゃないし、食事も自分で自炊する程度の能力しかないと伝えるが、異世界に送り込めるほど清い魂は樹しかいないので他に選択肢がないと、樹が素人なのも考慮して様々なチートを授け、加護などによるバックアップもするので、お願いだから異世界にいってほしいと女神様は言う。    こんな自分が誰かの為になれるのならと、今度こそ人の役に立つ人間、人生を歩めるように、素人神の使徒、樹は異世界の大地に立つ

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。 ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。 冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。 のんびり書いていきたいと思います。 よければ感想等お願いします。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...