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卑怯もクソもない

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ラストは残っている魔力を殆どバスターソードに注ぎ込み、ブラッディ―タイガーの炎を刃に纏い、必殺の一撃を放つ。

「はぁぁあああああああッ!!!!」

技の名は炎爪虎。
ただの斬撃だけではなく、バスターソードがラストの意志に応え、通常の斬撃に加えて左右に一つずつ同じ炎の斬撃が生み出され……それはまるで、ブラッディ―タイガーの炎爪そのものだった。

「ぬぉおおおおおああああああッ!!!!」

身体能力では若干負けている。
そう解っていながらも、ハンマー使いは一歩も引こうとせず、ラストの炎爪虎を受け止めた。

炎爪虎の使用に魔力を多く使ってしまったため、あまり長くは強化系のスキルが使用できない状態。
第三者から見ればラストが優勢に思われるかもしれないが、実際のところギリギリの状態だった。

だが、それはラストも分かっているため、その一撃に全力を賭けようと力を込める。

「ぬぉおおおおおっ!!!!!!」

心の底から吼える。
しかしハンマー使いも底時からは負けておらず、炎爪虎を全身全霊で押し返そうとする。

「でぇぇええりゃああああああッ!!!!」

ハンマー使いもかなり魔力残量が減ってきた状態ではあるが……最後の最後に奥の手が残っており、その機を逃すつもりは一切ない。

お互いに拮抗している状態が続く中、ラストはその異変に気付いた。

(こいつ……この状況で笑ってるのか?)

何故こんな状況で笑っていられるのか?
自分の弱点でも見つけたのか、倒す策略を思い付いたのか?
それとも諦めた故に出た笑みなのか……どこからくる笑みなのか分からず、その迷いが……ほんの一瞬ではあるが、ラストの力の弱まりに繋がった。

そしてこの瞬間、ハンマー使いの勝機が開いた。

「ふんぬぁぁああああああッ!!!」

ハンマー使いの男が身に着けていたマジックアイテム、根性の指輪が発動。
ランクは三であり、効果は魔力残量が一定量まで減ると、一定時間だけ装備者の身体能力を向上させる。

ラストの気の緩みと、マジックアイテムの発動条件が重なり、ハンマー使いはついにラストの炎爪虎を弾き返した。

「ッ!!!??? チッ!!」

だが、ラストの頭の中には既にもしかしたら、こういう結果になるかもしれないという予想があり、炎爪虎が弾かれた瞬間に速攻でその場から動いていた。

その速さはハンマー使いが渾身の一撃をラストにぶち込むより速く、もちろん一瞬だけ部分竜化を使用していた。
構想で移動した理由は……この戦いではもう使わないであろうと思い、地面に突き刺していソードブレイカー。

バスターソードはハンマー使いに弾かれた時に手元から離れてしまい、転移に突き刺さっていた。

第二の武器であるソードブレイカーを引き抜き、今度は右腕のみを部分竜化。

「ふんっ!!!!!!」

投擲のスキルを発動し、全力投球でハンマー使いに止めを刺しにいった。

根性の指輪によって身体能力が一時的に向上していたハンマー使いだが、反応速度までは向上しておらず、一瞬だけとはいえ部分竜化したラストの速さと腕力は、現ハンマー使いの身体能力をも上回っていた。

「ぐほ……ぐっ! が……ぐ」

最後に何かを言おうとしたハンマー使いだが、ラストがぶん投げたソードブレイカーは見事にハンマー使いの首に命中。
刃は喉を完全に貫いており、まともに喋れない状態。

「力と力の勝負で決着を着けられなかったのは……少しだけ悪いと思うが、これは殺し合いだ。卑怯もクソもないだろ」

そう言い終えると転移に突き刺さったバスターソードを引っこ抜き、万が一が起こらない様に鉤爪使いとハンマー使いの首を斬り落とした。

「はぁ~~~~~……危なかった。マスター、こちらは終った……ふふ、マスターは仕事が早いな」

「バカ言え、そっちこそ十分早いっての」

ティール的には、自分の方が対人戦では有利な武器を持っていたので、もう少しラストより速く殺し終えて援護に向かおうと思っていたが、その心配は全く必要なかった。
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