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似合わない言葉

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遺跡での護衛を終えた翌日の昼、朝の訓練を終えたティールとラストは特にすることがないので、いつも通り街中をプラプラしていた。

(……そんな簡単に良いものが転がってる訳ないよな)

鑑定のスキルを単語スナッチ奪取で奪い、自身の物にしたティールは露店で売られている商品の細かい詳細が解る。

偶に……本当に偶に使える物が転がっているので、そういった物を探すのがティールの楽しみの一つだった。

「……良い物はあったか?」

「いや、特にないな……まぁ、そう簡単に転がってたりしないもんだけどな」

この言葉がフラグになり、中々手に入らないマジックアイテムの入手に成功……なんて出来事が起こる訳もなく、二人はレストランに入って空腹の腹に飯をぶち込む。

満腹になり、夕食の時間になるまで暇になった二人は……やはり若干頭が脳筋なので、どうせなら夕食の時間まで体を動かして時間を潰そう。

という考えに至った。

朝の訓練は日課としても、昼過ぎからまた訓練を行うのは……明らかに休日ではない。
ただ、そんなことをツッコむ人は二人の周りにおらず、ティールとラストは店を出てから再びギルドの訓練場へと向かった。

すると、その道中で見知った顔を発見。

「マスター、あれは……」

「ソニアとララだな。どこからどう見ても、ナンパされてるっぽいな。それで、その相手は……何をしてるんだ、あいつは」

ソニアとララの見た目は貴族の令嬢ということもあり、ナンパされるぐらいのハイレベルな容姿を持っている。
あぁいった状況に遭遇してしまうのは仕方ないと思う……思うが、ナンパしている相手を見てティールは思わずため息をついた。

(イギル、だよな……他にも同じパーティーメンバーの連れがいるけど、主導しているのはあいつか? いや、パーティーメンバーの奴らも都会の女子学生という存在を目にして、ギラついてる……とりあえず助けないと駄目だよな)

基本的に二人が四人を護衛する場所は遺跡内……それと、遺跡に着くまでの道中。
街中での護衛は含まれてはいないが、それでも放っておける状況ではないと判断。

「おい、その辺りで止めとけよ、イギル。あんまりしつこいと牢屋にぶちこまれるぞ」

「げっ! なんでてめぇがここにいるんだよ」

「なんでって、俺はこの二人ともう二人の学生の護衛依頼を受けてるから、この街にいるのは当然だろ」

ティールとラストがいきなり現れえたことで、イギル以外のメンバーは完全に一歩引いた状態になった。
だが、イギルだけは以前と変わらず、少々喧嘩腰な態度。

それはある意味凄いかもしれないが、二人と対立して良いことなど一つもない。

「けっ!! だから何だってんだ。別に俺らがこの二人とお茶しようってのにお前らが口出せんのかよ!」

「ぶっ!!! ご、ごめん。でも、お前……その図体で」

ここで笑ってしまうのは失礼だと解っている。
だが、それでもイギルの見た目でお茶しようという言葉が出てきたことに対し、ティールは笑わずにはいられなかった。

しかし思わず笑ってしまったのはティールだけではなく、後ろに立っているラストも同じであり、口元を手で隠して必死に笑いを堪えている。

もし……仮に、イギルがそれ相応の格好をしており、髪型もビシッと決めていたのであれば……ここまで笑いを必死に堪えることもなく、寧ろナンパするためにそこまで努力できるのだと……褒めるかもしれない。

だが、今のイギルの格好はいつも通りの……少し山賊に見えてしまうかもしれないスタイル。
顔のレベルが下の下というわけではないのだが、ソニアやララといった美女を口説くには、さすがに色々と足りない。
特にトークが上手いといった意外な特技があるわけでもないので、傍から見ても失敗するのは明らかであり……ソニアとララにとってはただの迷惑行為。

「まぁ、あれだよ。とにかく二人にとっては、お前らにナンパされるのは本当に迷惑でしかないんだから、憲兵さんたちに捕まって牢屋に入る様な行為は止めとけ、な。二人は貴族のご令嬢さんなんだし、冒険者としての地位を剥奪されてもおかしくないからな」

冒険者の地位を剥奪。
それを聞き、イギル以外の面子は完全にビビってしまい、イギルもさすがに分が悪いと思ったのか、舌打ちをしながら尻尾を巻いて逃げた。
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