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ラストではなく?

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(あれは……名前は覚えてないけど、確か一緒に討伐戦に参加してた女性冒険者……で、合ってるよな?)

あやふやな記憶だが、ティールの記憶は間違っていない。
視線の先に映る女性冒険者は、オークとコボルトの討伐戦に参加した人物。

情報を付け加えるのであれば、ラストに戦闘中に助けられた女性冒険者。

(確か、ラストにこう……熱を含む視線を向けていた人、だよな。というか、今ちょっとラストに熱っぽい視線を向けてる)

ティールの記憶には残っていたが、熱っぽい視線を向けられているラストは記憶に残っておらず、特に気にした様子はない。

(ラストは一緒に参加したその他大勢のことは覚えてないって感じか……てか、こっちに来てる? もしかしてラストに用があるのか?)

ラストと歳が近い女性冒険者がこちらに近づいてくるのを確認し、ティールはお邪魔虫になりそうなので少し離れようとした。

「ティール君、今少し時間大丈夫かしら」

「え、俺?」

まさかの用があったのはラストではなく、一歩下がろうとしていたティールだった。
この事実に声を掛けられた本人は驚いているが、ラストは特におかしいことではないと思っている。

若い女性冒険者が、更に若い男性冒険者……いや、少年冒険者に声を掛けた。
これはこれから面白いことが起こるかもしれない。
酒場で昼間から呑んでいる冒険者たちはワクワクしながら気にしてないフリをしながらも、しっかり聞き耳を立てている。

(この女……いったいマスターに何の用だ?)

ラストは本当に女性冒険者のことを覚えておらず、どういった経緯で女性がティールに声を掛けてきたのか、全く予想が付かない。

(もしや、あれか。デートの誘いか?)

ラストにも気になっている女性がいたという過去があり、恋愛事情に関してはそこまで疎くない。
ただ、自身にそういった感情や目を向けられても中々気付かないところはる。

「そうよ。あなたに話があるの……覚えてないかもしれないけど、あなたと一緒に昨日の討伐戦に参加したディリスよ」

「も、勿論覚えてるよ」

赤い髪のショートで少し強気な顔つき。
だが、決してブサイクではなく、ボーイッシュな綺麗さを持つ。

ただ……顔こそ覚えていたが、名前はすっかり忘れていた。

(一緒に討伐戦に参加したのは覚えてる……覚えてるけど、本当になんの用なんだ?)

ディリスから自身に向けられる視線は、決して有効的なものではない。
なんなら、少し敵意が含まれている。

「少し、二人で話したいのだけど」

「えっと……」

二人だけで話したい。
ディリスからお誘いの言葉が出た瞬間、野次馬根性丸出しで聞き耳を立てている冒険者たちは、ますますこれから何が起こるのか楽しみで仕方ない。

二人の様子から、いきなり殴り合うことはない。
それが分かっているギルド職員達もいったいどんな展開になるのか……特に恋愛話好きの職員たちは冒険者たちと同様に、仕事をしながらもバッチリ聞き耳を立てている。

(ここは奴隷として、二人っきりになる場面は止めるべきか? しかしマスターの恋愛事情に首を突っ込むのは奴隷として……いや、そもそもこの女はマスターのことをそういう目で見ているのか?)

色んな考えがごちゃ混ぜになり、ラストは何も言い出せない状況。
これからどうするのか……それはマスターであるティールの決断に任せる。

「わ、分かった。それじゃ……ちょっと場所を移そうか」

ラストが何も言わなかったということもあり、ティールはディリスと二人で話し合うことを了承。

(なんだよ、場所移しちまうのかよ)

(ここで話し合えば良いのによ)

冒険者たちとしては話の結末が聞けず、残念な流れ。
知りたければ後を付ければ良いのだが、尾行すればティールの仲間であるラストにぶっ飛ばされそうなので、先程までと同じように昼間から呑む酒を楽しむことにした。
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