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収まってる?

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「全員揃ったね」

コボルトとオークの巣を討伐を行う当日、時間通り門の前にティールたちは集合した。

「それじゃ、行くよ」

朝九時に集合し、巣の場所が街からあまり離れていないということもあり、走らず歩いて現場に向かう。

「マスター、奴がまた俺たちに視線を向けているが」

「……そうみたいだな」

集合場所に集まっている時からイギルの視線を感じていた二人。
だが、視線の種類が前日と違うことには気づいていた。

(なんか、討伐について話し合った時との視線とはちょっと違うな。あんなに俺たち……いや、俺に対してブチ切れてたのに、たった数日程度でそんなに態度が変わるものなのか?)

今日も全室と同じく嫉妬や殺意などの感情を混ぜ込んだ視線を向けられると思っていたが、そんなことはなかった。
嫉妬の感情は混ざっているが、ぶち殺したいほど憎いなどといった負の感情は混ざっていない。

(いったいどんな心境の変化だ? もしかしてこの人の言葉であれば、真っすぐ受け止めないといけない……なんて思っている人から軽い説教でも受けたのか?)

ティールの予想はほぼほぼ合っていた。

行きつけのバーのマスターからお前が絡んだ相手は、頭のネジが二、三本外れているかもしれない。
そんな奴は基本的に普通ではないと言われ、自分の中の考えを少し改め直した。

ただ、決してティールへの嫉妬心が完全に消えた訳ではない。

存在が確認されている巣に着くまでは決して楽ではなく、モンスターにとっては共通の敵である人間……冒険者に対して見つければ基本的に襲い掛かって来る。
そんなモンスターに対してティールたちはなるべく体力や魔力を消費しないように戦う。

「マスター、巣に着くまでは俺が動こう」

「そうか、悪いな」

素に着くまで軽く体を動かしておきたいという思いもあり、襲い掛かって来るモンスターに対してラストは積極的に仕留めにいった。

「素手で一発か。やるじゃねぇか」

「……どうも」

Dランクモンスターのハウンドドッグの首を一撃でり、それを間近で見ていた先輩冒険者からラストは褒められた。
ラストとしては単に体を動かしたかっただけで、先輩からの評価を上げたいなどと全く考えていない。

だが、先輩から褒められたことは事実なので主であるティールの顔を潰さない程度に返事を返す。

(Dランクのモンスターを手刀で一撃か。やっぱりあの思い一撃を食らったら、防御力に優れていないモンスターでないと耐えられないよな)

ラストは血を撒き散らさないように、全力で振りぬかず首をへし折ることだけに集中していた。
全力で振りぬいてしまった場合、首の骨を折るどころか断ち切ってしまう。

倒し終えた後も勝利の余韻に浸ることなく、淡々と魔石だけ回収する。
その様子を観た女性ルーキーたちは見惚れ、男性ルーキーたちはその淡々とした様子に若干苛立ちを感じていた。

(一緒のパーティーの子も強いけど、この竜人族の……ラストだったか。本当に前衛として頼りになる奴だな)

素に辿り着くまでの間、ラストは積極的に前に出ながらCランク冒険者組とモンスターを蹴散らしていた。
そして前に出て戦うのが得意なので、毎回前衛を買って出る。

ハウンドドッグ程度であればCランクの前衛たちも一撃で倒せるが、それを冒険者になって間もないルーキーがサラッとやってしまう。
そんなラストを大人組は頼もしく感じていた。

(ぶっちゃけうちのパーティーに欲しいとすら思うんだが……まっ、無理だろうな。立場的にラストは自分の意見を出せない。それにティールも手放すつもりは絶対ない……残念だが、諦めるしかねぇよな)

ティールと一緒に勧誘すれば良いのではと思うかもしれないが、感覚的に二人はそういうことを望んでないと察し、Cランクの先輩たちは勧誘を諦めた。
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