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仮にその試験内容であっても

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「……マスターはこれから流れるままにランクを上げるのだろ」

「流れるままというか……とりあえず一か月後ぐらいにランクアップのお誘いが来たら、それは受けようかなと思ってる」

ティールのランクは現在D。
Cランクからは昇格試験がある。

その時々によって内容は変わるが、手頃の盗賊団の討伐という場合もある。

冒険者として活動していれば、いずれ超えなければならない壁。
モンスターではなく人を殺すという体験。

モンスターを殺すことに慣れたとしても、同じ人を殺す感覚に戸惑う者は多い。
個人差があれど、目の前の相手は殺さなければならない外道。

それが分かっていたとしても、良識がある者は人を殺すという感覚に罪悪感や不快感、吐き気を覚える。
だが、冒険者として……戦闘職として活動していれば、いずれは仲間を……大切な人を守るために人を殺さなければならない。
そんな時がやって来る。

それは冒険者ギルドも分かっているので、なるべく早めに受けさせたいと考えている。
ランクアップの昇格試験に盗賊団の討伐が起用されることは、Cランクへの昇格時だけではなく、Dランクへの昇格時の際にも適応される。

「マスターなら、余裕で受かるだろうな」

「……どうだろうな。持ってる実力だけでは上がれないかもしれないぞ」

「次の昇格試験、もしマスターが合格してランクアップしなければ冒険者ギルドの視る眼が完全に腐っているということになる。権力者には屑も多いと聞くが、基本的には実力主義の組織。マスターがランクアップしないわけがない」

仮に昇格試験の内容が盗賊団の討伐……人を殺す内容であったとすればどうなるか?
こういった場面でこそ、実力以外のところ……この内容に限れば戦闘に関する実力だけではなく、メンタルの強さも試される。

ティールでもその点に関しては動揺する可能性がゼロとは断言出来ない。
勿論、ジンとリースからはもし盗賊に遭遇したら迷いなく殺せと伝えられている。

生かして街まで持って行けば奴隷として売れ、金になる。
しかし名のある盗賊であれば、首を持って行くだけで懸賞金が貰える。
だから情けの気持ちなど持たず、すぐさま殺せ。

普段はおチャラけているジンはその話をする時、既に殺した盗賊たちに向けて殺気を向けていた。
決してティールにではないが、ジンのプロとしての圧を感じ取ったティールは思わず後ずさりしてしまった。

ティール自身も盗賊は基本的に悪だと解っており、二人からそうだと叩きこまれたとあって、そう簡単に日和ることはなく……動揺したとしても勝手に体が動く。

そういった現象が起きても不思議ではない。

「は、ははは……まぁ、そうかもしれないけどあんまり他の冒険者がいる前では言うなよ。調子に乗ってると思われるからな」

「ふむ、事実だと思うのだが……そう思われるのは確かに良くないな。気を付けておこう」

ラストの言葉は確かに紛れもない事実だが、ティールの言葉もまた事実。
ティールとしては現在でこそラストと行動してるが、それまでは基本的に一人で行動していた。

しかし、決して同業者と仲良くしたくないという訳ではなく、寧ろ人格者とは仲良くなりたいと思っている。

だがそう思っていたとしても……無意識であったとしても、あまり昇格試験を軽んじるような発言をすれば同じ冒険者から睨まれてしまう。

「そうしてくれ」

(第一、今はあまりランクアップしたいとは思っていない)

なんて発言をすれば、先程のラストに伝えた言葉が矛盾してしまうので、グッと心の中に抑えた。

「ただ、ラストはこのままいけば俺と同じ速度ぐらいでDランクになりそうだし、結局俺たちを良く思わない人たちが増えるかもな」

「それなりに鍛えてはいたからな」

一応ルーキーという域を脱却したランク、Dまでの実力は元々持っていると言いたげな言葉。
実際にその通りである、戦闘での実力はCランクの冒険者にも負けていない。

「しかし、早く出世する者は周囲から妬まれる、か……必然とはいえ面倒だな」

「……だな。でも、嫉妬に狂って襲ってくる奴なんてそうそういないって」

深い嫉妬心を向けられたことがあるので、面倒な件に繋がることは承知しているが、実際に手を出すある意味勇者は結局のところあまり多くないのが現実であった。
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