上 下
152 / 702

高い金を取るだけはある

しおりを挟む
「……ここにするか」

懐には余裕があるので、ある程度質の高い宿屋を選んだ。
中に入り、早速部屋を取ろうとしたが、従業員に金を持っているのかと怪しい目を向けられる。

(確かに見た目ルーキーの冒険者が泊まるような宿じゃないよな)

しかし中身は全くルーキーではなく、金ならこの宿より高いとこに余裕で泊まれるぐらいはある。

「金ならある。とりあえず一週間分泊まりたい」

「ッ!! 失礼しました」

従業員は直ぐに頭を下げ、ティールに宿の説明を行った。
鍵を受け取り、部屋まで案内されて中へと入る。

「……豪華、だな」

宿のランクで言えば中の上程度なのだが、村人出身のティールからすればかなり豪華な内装だった。

「ベッドも柔らか……良いな、これ」

一つ個人用に欲しい。そう思ったが、拠点を持っていないティールが家具を買っても、基本的に使い道がない。

(結界を張れば外でも使えるかもしれないけど……違和感が凄いな)

森の中で張られた結界の中にベッドが置かれている。
どこからどう見てもおかしい状況だろう。

(今使ってるテントは悪くないけど、普通のテントだ。マジックアイテムの中にはテントの中が空間魔法によって拡張されてる物があるらしいけど……是非欲しいな。そんなマジックテントを手に入れれば、ぐっすり寝られそうなこのベッドを買って中に入れれば良い)

ダンジョンの中に存在する宝箱の中から、もしくは最上級の腕前を持つ錬金術師が最高級の素材を使い、マジックテントを生み出すことが出来る。

ただし……恐ろしく値段が高い。
先日、大金を稼いだティールだがその全てを使っても買うことは出来ない。

「とりあえず今日は夕食を食べて寝て………明日はどうしようか」

この先一人で活動することに対し、多少の不安は確かにある。
奴隷を買うということに不満や抵抗はない。

「奴隷を買いに行くか、早速遺跡に潜ってみるか……どうしようか」

どちらにすべきか悩んでいると、大きな腹の音が聞こえた。

「出店で軽く摘まんでたんだけどな……もう食べるか」

宿代の中に食事代が含まれている。
普段着に着替えて食事ルームに移り、多めに食事を頼んで夕食を食べる。

どの料理も美味いと感じるが、不思議と今まで食べた庶民的な料理を否定するような気持ちは生まれない。

(てか、周りを見るとやっぱり商人とか貴族……あとは騎士? みたいな連中もいるな)

冒険者もそれなりにいるが、客層の割合としてはティールが基本的に関わることがない職の者が多い。
それ故に、周囲の客は一人で料理にがっつくティールを訝しい目で見る者もいるが、絡もうとはしない。

店の警備はしっかりとしており、宿代が払えない者は当然追い出される。
いざこざを起こせば警備の物が対応する。

店の警備が信頼されていることもあり、ティールがまっとうな客であることが証明されている。

「ふぅ、美味かった」

豪華な夕食を食べ終え、矢へに戻るとお湯で濡らしたタオルで体を拭き、生活魔法のクリーンを使用。
体を綺麗さっぱりにし、寝間着に着替えてベッドにダイブ。

ベッドの柔らかさがティールの睡魔を呼び起こし、一瞬で夢の世界へと意識が飛んだ。

「……凄いな、目を閉じたら一瞬で朝」

宿のベッドには睡眠快感の効果が付与されている。
効果はそこまで強くはないが、一日の間動き続けた者が寝ようとすれば直ぐに意識を落としてくれる。

そして起きた時には個人差はあるが、体が軽くなっていると感じる。

「流石宿代が高いだけのことはあるな。この状態なら……やっぱり狩りに行くのが一番だな」

奴隷という自分の秘密を絶対に漏らさない戦力は欲しいが、今日はまず体を動かしたい。
そう思ってしまったティールはパパっと着替え、食事ルームに降りて朝食を頼んでささっと食べてしまい、速足で冒険者ギルドに向かった。

ティールにしては珍しく早起き。
今ギルドに行けばまだ良い依頼が残っているだろう。

だが……その分、冒険者がギルドに多くいる。

「……あの争いに加わる気にはなれないな」

金に困ってはいないので、割の良い依頼争奪戦には参加せず、後方で争奪戦が収まるまで待ち続けた。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

理不尽にパーティ追放されたので、『レンタル冒険者』始めたら、依頼が殺到しすぎて困る。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極めるお話です。 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

補助魔法しか使えない魔法使い、自らに補助魔法をかけて物理で戦い抜く

burazu
ファンタジー
冒険者に憧れる魔法使いのニラダは補助魔法しか使えず、どこのパーティーからも加入を断られていた、しかたなくソロ活動をしている中、モンスターとの戦いで自らに補助魔法をかける事でとんでもない力を発揮する。 最低限の身の守りの為に鍛えていた肉体が補助魔法によりとんでもなくなることを知ったニラダは剣、槍、弓を身につけ戦いの幅を広げる事を試みる。 更に攻撃魔法しか使えない天然魔法少女や、治癒魔法しか使えないヒーラー、更には対盗賊専門の盗賊と力を合わせてパーティーを組んでいき、前衛を一手に引き受ける。 「みんなは俺が守る、俺のこの力でこのパーティーを誰もが認める最強パーティーにしてみせる」 様々なクエストを乗り越え、彼らに待ち受けているものとは? ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも公開しています。

処理中です...