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信じなくても、それは事実

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「まだまだ明るいな」

夕飯を食べ終えてから歓楽街へと足を運び、目的のカジノに到着してから三時間程遊んだが、未だに歓楽街の明かりは消えていない。

(いったい、いつまでこの明るさが続くのか……まぁ、流石にそれを確かめるまでここにいるつもりはないけど)

いつもならば、今の時間にはベットの中で眠っている。
楽しい時間が終わったことで、徐々に眠気が襲ってきた。

しかしティールにはまだやることがあるので、人混みを交わしながら人気の少ない場所へと移動していく。

「……なぁ、そろそろ出て来たらどうだ」

「へっへっへ、やっぱ気付いてやがったのか」

暗闇に紛れた陰から数人の男が現れた。

身なりはスラムに所属するような服装ではなく、それなりに整った服を着ている。

「ガキのくせに随分と稼いでいたみたいじゃねぇか」

「ビギナーズラックってやつだろ。偶々だ偶々、運が良かっただけ。それで、あんたらみたいなゲスい顔をした奴らが俺に何の用だ」

何故自分の後を追ってきたのか、それはなんとなく予測が付いている。
だが、念のために一応尋ねる。

「はっはっは! どうせ分かってんだろ。お前みたいなガキがあんな大金を持ってても昇がねぇから、俺たちが有効活用してやるんだよ」

「……アホだろ。金が必要なら真面目に働けよ」

呆れた表情でため息を吐く。
数人は別にひょろい体をしているを訳ではなく、十分に働けるだけの体を持っている。

ティールからすれば金が欲しいなら真面目に働けば良いだろ、っとしか思えない。

だが、普段から自分がやりたいように金を稼げていないと、カジノで簡単に金を手に入れられた時の感覚が忘れられなくなる。

「まっ、お前らはここで終わりだけどな。俺の金に触ることもなく、終わりだ」

「はっ!! ガキが粋がってんじゃねぇぞ」

「別に粋がってないぞ。お前ら……後ろにいる人たちが誰なのか分からないのか?」

「何言って……なっ!!!???」

馬鹿共の後ろから黒服の兄ちゃんが五人ほど、音を立てずに現れた。

「こいつら、どうやら俺から金を巻き上げようとしてるみたいなんだけど」

「その様ですね。全くもって愚かな連中かと思われます」

ティールはカジノから出た後、出入り口に立っている黒服の警備員に自分を追いかけて来る奴らが数人ほどいると伝え、ここまでやって来た。

情報を受け取った警備員は直ぐに同じ従業員に連絡を取り、動けるムキムキな警備員たちに店から殆ど同時に出て来た数人の追跡を始めた。

馬鹿共は標的を尾行することには慣れていたが、自分たちが尾行されている事に気付くことはなく、まんまとティールの思い通りに動かされた。

「お前ら馬鹿の目の前に立っている方は、この街を救った英雄……ティール様だ。そんなお方から金を巻き上げようとするなど……どうやら殺されたいようだな」

「こいつがブラッディ―タイガーを殺しただと? 笑わせるな!!! そもそも低ランクのルーキーがBランクのモンスターを殺せる訳ないだろ!!!!」

ティールは目の前の男達の反応を直ぐには否定しなかった。

(それが普通の反応だよな。もしかして、こいつらは冒険者なのか? それなりにしっかりとした服装を身に着けているから違うと思っていたけど……まぁ、残念ながら事実なんだよな)

男達の事実を否定したい気持ちは解るが、ティールがブラッディ―タイガーをソロで討伐したという事実は変わらない。

「貴様らの意見など関係無い。お前らアホ共が街の英雄に害を為そうとした。俺たちがお前らを潰す理由には十分だ」

数は黒服の警備員のほうがやや多く、なによりこういった治安の悪い場所での戦闘に慣れていることもあり、対人戦は冒険者よりも慣れている。

結果……大した武器を持っていない馬鹿共は呆気なくボコボコにされてしまった。

(俺だけじゃなく、初めてカジノに来て良い感じに勝った初心者からも巻き上げてたんだろうな)

まだまだ道に人は多く、人を見失いやすい。
しかし男達は見失うことなくティールを追い続けた。

初めての犯行にはとても思えない。

「ティール様、この者たちはどういたしますか? 望めばすぐに処刑が行われると思いますが」

「そのティール様ってのは止めてくれ、むず痒い。そうだなぁ……そこそこ動けそうだし、労働力として使った方が良いんじゃないか?」

その提案の結果、男達は犯罪奴隷として身を落とすことになった。
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