上 下
91 / 693

認めても、悔しさはある

しおりを挟む
「…………」

「緊張してんのか、エリック」

「そう、だな。緊張していないと言えば嘘になる」

周囲を確認すると、ルーキー達の表情には大なり小なり緊張の色が出ていた。

今回自分達が対峙する相手はゴブリンとはいえ、数は五十を超えるかもしれない。
そして群れの中には上位種、もしかしたらジェネラルがいるかもしれない。

数の脅威と質の脅威。
二つの脅威に対して緊張しない訳がない。

だが、そんな中でティールだけがいつもと変わらなかった。

「そうか……自分達の役割をもう一回思い出せ。先輩たちが面倒な敵は潰してくれる。俺達は漏れた通常種を潰すだけで良いんだ」

その通りだ。上位種はジェネラルはDランクやCランクの冒険者達が相手をしてくれる。
ルーキー達が相手をしなければいけない相手は、自分達の実力を発揮すれば問題無く勝てる相手。

それを忘れかけているからこそ、恐怖心が大きくなっている。

「へっ、俺だったら上位種だろうがジェネラルだろうが関係ねぇよ!!!」

「……吠えるの勝手だけどな、連携を崩す様な動きをするなら無理矢理行動不能にするからな」

「なっ!? ふ、ふざけんなよ!!! 俺を殺す気か!!!!」

「お前みたいに好き勝手に動こうとする奴の方が他の連中を殺す切っ掛けになる。言っとくが、お前が暴走した際に気絶させる許可は既に貰っている……馬鹿な真似はするなよ」

今回の討伐でティール以上に活躍しようと考えていたバーバスだったが、それが潰されそうになっている現状に拳を握りしめて俯く。

ベテラン組の表情をチラッと確認するが、特に不満そうな表情やなんでそんな事をするんだ、といった表情は一切無かった。

つまり、本当にティールが自分を気絶させる許可を貰ているという事だ。

「エリック……一つだけ言っとくぞ。もし仮に戦況が乱れて危機的状況になったら俺一人で敵を潰す」

「……ふふ、異論はないよ。なら、僕達は君が戦っている間、ゴブリン以外のモンスターが襲ってくるかどうかを警戒しておいたら良いんだね」

初めてティールと出会った時は自分と同等か、少し弱いぐらいの実力を持っているのかと思っていた。
でもそれは完全に間違っていた。

自分達とは比べ物にならない程に遠い場所に立っていた。
そして今も走り続けている。

認めるしかない。ティールは自分達よりも遥かに強い。
危機的状況に陥った場合、ティールの力に頼るしかない。

冷静に自分達の戦力を見極めているエリックにガレッジは賞賛を送る。

(冷静な判断だな。エリック……ルーキーの中でも特に抜きんでた実力を持っていた奴だ。歳下で後輩でもあるティールに無駄に動くなと言われてプライドが傷付けられたと思っていたが……いらない心配だったな)

全く傷付いていない訳じゃない。
ただ、ティールに対しての苛立ちは無い。
苛立ちの感情を向けているのは……自分に向けてだった。

それをガレッジは見抜いていた。

(冷静な判断は下せているが、強さへの執念は消えていない、か……はっはっは!! こいつは将来大物になるかもな)

自分の実力は把握し、その場で適切な判断が下せる。
それでも自分が戦闘に参加出来ないという状況に悔しさを感じている。

冒険者としてベテランと呼ばれる域まで活動を続けてきたガレッジには解かる。
その二つの感情を持ち合わせている者は生き延び続ければいつかは大物になると。

(こりゃ俺達が抜かれるのも時間の問題かもな)

しかし今は自分達の方が立場も実力も上だ。
先輩として、為すべき仕事は達成しなければならない。

だが、やはり心配の種は残っていた。

(エリックに対してバーバスの奴は……今回の討伐に連れて来たことは失敗だったかもな)

ベテラン組から暴走した際にティールが気絶させる許可を貰っている。
その事実をバーバスは心底気に入らなかった。

それは負の感情が駄々洩れの眼でティールを睨んでいるバーバスを見れば一目で解る。

だが、もう直ぐ敵が待ち構えている場所に辿り着く。
ここであーだこーだ考えても仕方ない。

ガレッジは実戦が始まってからのバーバスへの対応は全てティールに任せようと完全に決めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...