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その一言で

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「見た目で実力を判断するなって教わらなかったのか?」

まともな人から指導を受けていたのであれば大体は教えられるであろう内容なのだが、生憎とバーバスはまともな者から指導を受けていない。

「ハッ! そういうのはもっと筋肉を付けてから言えってんだよ」

(筋肉は確かに大切だが、力はレベルとスキルでどうとでもなる)

自身の努力で腕力強化得て、奪取≪スナッチ≫で腕力強化を奪い続けたティールの本気の腕力はそこら辺のルーキーが辿り着ける位置を遥か通り越している。

「お前のそんなひょろっちぃ体でグレーグリズリーを倒せるわけねぇんだよ。嘘ついて悪かったと思ってんなら今ここで頭を下げて謝ったらどうだ」

(……何故、そして誰に謝るんだ???)

目の前の男はおそらく歳上だろう。それは解っているのだが……ティールはバーバスが幼い頃のマックスに見えてきた。

(というか、そもそも体がひょろくてもグレーグリズリーを倒す方法はあるんだけど。最初は慌ててウィンドカッターで首をバッサリと切断したし)

腕力があれば確かに戦いを有利に進められるのは間違いないが、戦いは腕力や肉体だけで勝負が決することはない。

「お前……バカだろ」

ティールの口からそんな言葉がこぼれた。

「……おい、それはどういうことだ。あぁああッ!!!!」

自分が馬鹿にされたということが明確に解る言葉を受けたバーバスの額に青筋が浮かぶ。
ただ、そんな傍でエリックとリーシアは笑いを堪えるのに必死だった。

「言葉の通りだよ。大した実戦経験を積んで無い奴がなに粋がってんだよ。ある程度戦ってきてる奴らなら体格だけで勝負が着くなんて馬鹿な発言はしねぇよ」

ティールの言葉に周りで二人の口戦を聞いていた冒険者達はウンウンと頷く。

「おいおい、なんだよ。俺よりお前の方が実戦経験があるっていうのか」

「そうだよ。お前みたいに腕力だけに頼って戦っている脳みそまで筋肉なバカより上だって言ってるんだよ」

「「ブハッ!!!」」

その言葉が決壊の原因となり、エリックとリーシアは耐えられず爆笑してしまう。
脳みそまで筋肉。その言葉を聞いた後ろに立っていたバーバスの意見に賛成していたルーキー達まで小さく噴き出してしまう。

そして……楽しく二人のやり取りを観ていたベテラン立場エリックとリーシアと同じく腹を抱えながら爆笑してしまう。

「はっはっは!!! 良いぞ兄ちゃん、もっと言ってやれ!!!」

「確かに脳みそまで筋肉な発言だぞバーバス! もう少し頭を使って発現しろ!!」

「バカ、脳みそまで筋肉なんだからそんな発言が出来るわけないだろ!!!」

「そりゃそうだな! なっはっは!!!!」

ベテランの冒険者達だけではなく、ギルド職員達までティールの発言を聞いて笑っていた。

(ティール……ナイス挑発過ぎるぞ)

遠くから二人の会話を聞いていたゾルも耐え切れず笑い声をだしてしまった。

脳みそまで筋肉……その一言を受けたことで戦況は一気に覆った。
そもそも自分達と同期であるエリックとリーシアはティールの実力を知っているのでそっちの味方。

だが、この瞬間を持って後ろに立っている同期……同じパーティーメンバーや周囲の冒険者達までもがティールの意見に賛同していた。

(だ、誰が脳みそまで筋肉だクソガキがッ!!!!)

バーバスの徐々に上がっていた怒りのボルテージはその言葉を聞いた瞬間、一気に限界を超えた。
血管がはち切れそうな程に顔が赤くなっている。

(……馬鹿にされたらキレるのは当然だと解っているけど、中々に短気だな)

そう……バーバスは中々に短気で尚且つ単細胞なのだ。
そしてそんな単細胞が思い付いたこの戦況を変える方法はただ一つ。

「おい、クソガキッ!!! 俺と決闘しろ!! どっちが上なのか勝負だっ!!!!」

(う~~~ん……浅はか)

バーバスが捻りだした言葉に対する感想はそれだけだった。

(エリックとリーシアが俺の実力を保証しているんだから勝てる訳ないと解ると思うんだけど……マックス系の思考をしてるやつらの考えはいまいち解らないな)
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