上 下
15 / 693

使い勝手が良い

しおりを挟む
「……ここら辺のモンスターだとこいつだけで十分になってきたな」

スライムを倒してから一時間後、何体かモンスターを倒したティール。
しかしそのどれもが一瞬で終わる。戦闘時間よりも解体時間の方が長い。

「魔力の刃……マジックブレード。本当に使い勝手が良いな」

体の一部から魔力を生み出し、刃として放つ。
大した耐久力を持っていないモンスターならばこの攻撃だけで体を切断出来る。

「またグレーグリズリーの様な存在に遭遇したいかと言えば微妙だけど、ここまで歯応えが無いのもなぁ……」

今日は全く戦ってる最中にドキドキすることが無い。
別に死にたがりという訳では無いが、多少は心が弾む戦いをしなければ自分が成長していると実感出来ない。

ティールはあの日以来遭遇していないグレーグリズリーを格上扱いしているが、手札の多さと技術の高さで言えば既に大きく上回っている。

「ガルルルゥゥ……」

「今度はブラウンウルフか」

ランクはEとティール基準ではそこまで強くないウルフ系のモンスター。
しかしブラウンウルフから見てティールは手頃で美味しそうな獲物にしか映っていない。

今自分は一人、それなら目の前の餌を一人で食べることが出来る。
そう思ったブラウンウルフは不用意に飛び掛かる。

「空中に跳ぶのはあんまりお勧めしないぞ」

いつも通りに魔力の刃を放つ。そのままいけば綺麗に真っ二つに出来るだろう。
だが、魔力の刃が直撃する前にブラウンウルフは体を回転させて見事に躱した。

「やるじゃん」

魔力の刃を回避するために開店したことでそのままティールに噛みつくことは出来なくなったが、それでも大ダメージを受けずに終わった事で一安心。
そんな心境のブラウンウルフだったが、ティールは既に次の攻撃に移っていた。

「よっと」

左手で持っていた石ころを使っての投擲。
ティールにとって投擲と言う武器は未だに信用出来る技だ。

第二の砲撃に対してブラウンウルフが取れる対処法は……無かった。
そもそも魔力の刃を躱すだけで精一杯であり、地面に脚が付くまで次の攻撃が来るとは思っていなかった。

「戦いの経験が少ないモンスターは相変わらずこういう展開に弱いな。まっ、俺としては無駄な労力を消費せずに済むから嬉しいんだけどさ」

放たれた石ころは的確にブラウンウルフの額を貫き、力なく地面にぶつかる。
そして死んだことを確認したティールは慣れた手付きでブラウンウルフの牙と爪、そして魔石を回収する。
少し迷った末に大丈夫だろうと思い、毛皮も剥ぎ取ってしまう。

「肉は食えないことは無いけど、そこまで美味くないからいらないか」

ウルフ系のモンスターの肉は少々固く、あまり好んで食べる者はいない。
ただ、しっかりと匂いを取れば、上位のウルフ系モンスターの肉はかなり美味と言われている。

そしてティールの場合……その臭みを取る、正確に言えば奪うことが出来る。

(そんなことが出来るなんてリースさんに言われなきゃ早い段階で気付かなかっただろうな)

奪った匂いはティールの体に染み込むわけでは無く、気体として掌に浮かぶ。
それは即座に捨てることが出来、そういった方法が戦いでも使えるのではとティールは思い浮かんだ。

(でも、匂いを閉じ込めておくことが出来る訳では無い、嗅覚が優れたモンスターを相手に有効手段手訳でも無いか)

その考えを直ぐに捨て、ティールは直ぐに他のモンスターを探しに向かう。
ただ、ティールの脚では行ける範囲に限界がある。

それに両親と約束した夕食までには帰るという条件、それを破るわけにはいかない。

身体強化と脚力強化のスキルを使えば移動速度を大幅に上げることが出来る。
しかし魔力量を考えると大胆に消費するのはあまりよろしくない。

その結果、本日は大したドキドキを感じることなくティールの狩りは終わった。
だが血抜きを済ませたホーンラビットの肉を手に入れたのでティールとしては悪くない結果と言える。

ティールがホーンラビットの肉が食卓に並んだことで夕食は少し豪華なものとなった。

「うん、ティールが狩りに行ってくれることで夕食が豊になるな」

「そうね。それは嬉しいのだけど、私としてはやっぱり心配ね」

「なぁ、ティール。どうやってモンスターを倒すんだい?」

父は夕食の品が増える事を喜び、母はやはりまだティールが一人で村の外に出る事を心配する。
兄はどうやってモンスターを倒すのかに興味津々。

ティールは母に問題無いよと伝え、兄に今日はどうやってモンスターを倒すのかを話す。

(こういう特に何事も無い日々は嫌いじゃない。でも……冒険者になったらそうで無い日々が続くのかもな)

近い未来、自分が冒険者になって退屈しない時間を送っているであろう姿をイメージする。
だが、まだ冒険者になる前に……ティールは予想していなかった場面に遭遇する事になる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

料理の腕が実力主義の世界に転生した(仮)

三園 七詩
ファンタジー
りこは気がつくと森の中にいた。 なぜ自分がそこにいたのか、ここが何処なのか何も覚えていなかった。 覚えているのは自分が「りこ」と言う名前だと言うこととと自分がいたのはこんな森では無いと言うことだけ。 他の記憶はぽっかりと抜けていた。 とりあえず誰か人がいるところに…と動こうとすると自分の体が小さいことに気がついた。 「あれ?自分ってこんなに小さかったっけ?」 思い出そうとするが頭が痛くなりそれ以上考えるなと言われているようだった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...