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第10話 私からのプレゼントですか?

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 その後のことは一瞬だった。
 2人の男がいくら拳や蹴りを繰り出しても、王子は軽やかにそれを避けていく。
 後ろから羽交締めにされた時はもうダメかと思ったが、彼はまるで手品師のようにするりとすり抜けた。

 早い。
 なんて早さなの!

「くそっなんて野郎だ」
「何度やっても無駄だよ。僕には当たらない」

 攻撃ばかりしていた彼らの息が上がっている。
 体力の限界が近づいてきたのだ。

「どうする? まだ続けるのかい?」
「なぜ反撃しない! この腰抜けめ! 避けるだけしか脳がないのかよ」
「いいのかい? 僕がもし君たちを殴ったら……」

 軽い調子で言っていたルイド王子が一瞬だけ声を落とした。

「死ぬかもしれないよ」

 私と男たち2人は凍りついた。
 一度だって彼が殴ったところを見たことがないが、きっと反撃をすれば男たちの命はない。
 そう確信してしまうほど、彼の殺気は凄まじかった。

「ちっ。もういい! いこうぜ」

 男たちは汗を拭い、しぶしぶと退散する。
 一滴の汗も流していない王子が、私の肩に手を置いた。

「大丈夫? 怖かっただろう」

 たしかに怖かった。
 ものすごく怖かった。
 だが、それよりもすごいものを見てしまってその恐怖心はどこかへ行ってしまった。
 まさか彼が喧嘩に強いなんて。

「助けてくださってありがとうございます。殿下の身のこなし、素晴らしかったです」
「これでも王子だからね。小さい頃から訓練されて育っただけだよ。そうそう、美味しそうなパイがあったんだ。一緒に食べよう? そしたら気分が落ち着くかもしれない」
「はい」

 私たちは噴水の縁に座って、ラズベリーパイを分けて食べた。

「うん! 甘酸っぱくて美味しいね!」

 ニコニコと嬉しそうに食べている王子があまりに愛らしく、私はいけないと思いながらもつい笑ってしまった。

「あはは、やっと笑ってくれたね」
「も、申し訳ありません。とても美味しそうに召し上がるのでつい」
「とんでもない! もっと笑ってよ。君の笑顔、とても好きだな」

 ド直球に好きと言ってくるなんて、相変わらず彼は大胆だ。
 何度言われてもやはり照れてしまう。

「ねぇ、エミリア。君にお願いがあるんだ。聞いてくれるかな?」
「お願い? どうされたのですか、急にかしこまって。重要なことでしたらお願いなんてしなくても」
「重要なお願いなんだ」

 食べ終えた王子は少し緊張したように話をする。
 私は真剣な話なんだと思い、身構えた。

「来週、私の誕生日パーティーが開かれるだろう?」

 知っている。
 私は、メイドが人手不足なため、王子専属のメイドはお休みして給餌係を手伝うことになっていた。

「はい。何か召しあがりたいものでも? コックに伝えておきますが」
「違うよ。えっとね、自分で言うのもなんなんだけど……えっとその、誕生日プレゼントがほしいんだ。君からのね」
「私からのプレゼントですか?」

 ルイド王子は少し顔を赤らめて、うんと頷く。

「高価なものでなくていいんだ。とにかく、君からのプレゼントがほしい。いいかな?」
「殿下の誕生日ですから、それはかまいませんけど……あまり期待しないでください」
「やった! では楽しみにしているからね! エミリア」

 お金が無いからと断れば良かった。
 だが、あんな子犬みたいな顔されるとどうしてもわかったと言ってしまう。
 本当に私は彼に甘すぎる!!

 もう少し町を歩いた後、私たちは城へ戻った。
 城に向かう最中、王子は懐からハンカチを取り出した。

「これ、今日付き合ってくれたお礼」

 ハンカチから出てきたもの。
 それは桃色の薔薇を象った髪飾りだった。

「いけません殿下! そんなことしたらまた周りに嫉妬されてしまいます!」
「嫉妬させておけばいいさ。次君をいじめようとしたら、私が許さない」

 王子は本気だ。
 本気で、いじめた相手に報復をするに違いない。
 あの喧嘩を見た後だからか、許さないという言葉が少し恐ろしく感じる。

「誕生日パーティーの時につけておくれ。君の綺麗な茶色の髪によく合うと思うから」
「ありがとうございます、殿下」

 とても綺麗で可愛らしい。
 彼は私の趣味をよくわかっていたが、今回もそうらしい。
 だが、こんなものをもらっては、誕生日プレゼントをどうすれば。

 ***

 うーーーん。
 うーーーーーーーん。

 困った。殿下の誕生日プレゼントが思いつかない。
 誕生日パーティーまで後3日しかないというのに、全く思いつかない。
 これがいいかもと思うものは高く、しかもすぐには手に入らないものばかり。

 一つだけ。一つだけ候補はあるのだが、喜んでもらえるか。
 ……いや、待てよ。
 別に喜んでもらわなくてもいいじゃない。
 なんならつまらないものでも送って、呆れられたらこっちのものでは?

 そうよ。
 ナイスアイディアだわエミリア。

 そうと決まれば早速、作ってみましょう。
 
 まずは林に入って、花を摘まなければ。
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