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第2章 呪われたネックレス

第22話 呪術師ライオネル

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「呪術師?」

 ダース王子は私から離れて食事を再開した。

「知らないのかい? 彼は呪いのスキルを持っているんだ。嫌いな相手を簡単に呪い殺すことができる。前髪でわざと隠れている顔の片方、人を呪った後に痣のようなものが刻まれるんだ。ということはだよ。彼は今までに何人もの人間を呪っていることになる」
「そんな人が学園にいていいのですか?」
「能力で差別しない学園だからね。なんとも寛大な学校だ」
「それでなぜいきなりマーガレットに近づいたのかしら。これは興味しかないわ」
「フェードルス嬢は優しいからなぁ。普通は彼を見れば大半は逃げていくって……あれ? おい。ロザリンド」

 私はダース王子の話を最後まで聞かずに、マーガレットとゴーデン伯爵令息に接近した。

「あれやだ。誰かと思えば、マーガレットじゃない。そこのお隣はどなた?」

 マーガレットは普段と変わらない様子でニコニコと微笑み、私に挨拶する。

「こんにちは、ロザリンド様。ライオネル様。こちら、ロザリンド・フォン・マリーティム様」

 マーガレットが紹介すると、ゴーデン伯爵令息は少し緊張しながらも一礼をする。

「はじめまして。ライオネル・ゴーデンと申します。マリーティム公爵のご令嬢ですよね。お会いできて光栄です」

 どこか深みのある細くて高い声。前髪で隠れている彼の顔の半分を見ると、確かに黒い痣のようなものが見えた。
 これが、人を呪った証として残る痣。
 彼はその視線に気付いたのか、一歩後ずさる。

「醜いものをお見せしましたね。マーガレット。私は先に座っておくから」
「気にしないでください。ライオネル様! あぁ。行ってしまわれた」
「あなた」

 私はわざとつっかかるように尋ねる。

「あの殿方はあなたの彼氏なの? アンジェロ様が気にかけてくださっているのになんて失礼な人!」
「違うんです、ロザリンド様。彼とは一昨日図書室で知り合っただけです。たまたま同じ本をとろうとして、それから仲良くなっただけで、彼氏ではありません」
「意気投合ねぇ。あの痣。彼が呪術師だって言われているのを知っているの?」
「もちろん。彼自身が教えてくださいました。でも私、前にも言いました。ここはみんなが切磋琢磨して過ごす場所です。能力差別はよくありませんわ。それに彼はとても優しくて誠実な人です! 能力で人を判断するのはいけません!」

 いつもに増して強い調子で言うマーガレットに驚き、一歩引いてしまった。
 正義感の強い彼女が熱くなると、誰も止められない。
 私は髪を払って、ふんっと鼻を鳴らす。

「あまり誤解されないようにお過ごしを。あなたがその呪術師と仲良くなさるのでしたら、私がアンジェロ様をお昼に誘いますわ」
「あの方ならわかってくださるはず。後でちゃんと説明しますわ。それではごきげんよう」

 マーガレットがそう言い、ゴーデン伯爵令息の隣の席に座って食事を始めた。

「彼は何を考えているのかしら。本当にただの好意で彼女に近づいたというの?」
 
 とにかく、マーガレットの彼氏ではないようだ。
 このことをすぐにアンジェロ様に伝えなければ。

「まさか。アンジェロ兄様を探しているのかい?」

 ダース王子が食器を返却口に置く。

「居場所を知っていますの?」
「あそこあそこ」

 第3王子が親指で指さす方向を見ると、魂が抜けているアンジェロ様が食堂の席に座っていた。

「アンジェロ様!?」

 スプーンでシチューをすくっているはずなのに口にちゃんと運ばれていない。彼の見ている方向は、マーガレットとゴーデン伯爵令息だった。
 私は急いでアンジェロ様の隣に座って事情を説明した。

「アンジェロ様。マーガレットの隣に座っている彼は、彼氏ではないようですわ。ゴーデン伯爵令息はたまたま仲良くなっただけだそうです。後でマーガレットからも話をするようですから、お気を確かに!」
「たまたま出会った……!? それって運命の出会いとか言うやつじゃないのか!?」

 アンジェロ様がネガティブ思考に陥るなんて……。
 マーガレットロス恐るべし。

「アンジェロ様……あの」
「アンジェロ兄様。彼女のこと本気で好きなんですか?」

 ダース王子は凹んでいるアンジェロ様に言い放つ。その言葉は無視できなかったのか、アンジェロ様がじろりとダース王子を睨んだ。

「なんだと? 今なんと言ったダース!」
「本気で彼女が好きなら、きっぱりと彼に言えばいいのでは? 彼女に近づくなと」
「だが、私は彼女の恋人ではない……」
「それなら、ゴーデン伯爵令息にとられてもいいと?」
「それは嫌だ!」

 アンジェロ様は勢いよく立ち上がった。

「よし。放課後、ゴーデン伯爵令息に一言言ってやる! 待ってろよ」

 一国の皇太子がその調子でいいものなのだろうか……。
 私は不安になりながらも、アンジェロ様の扱いに慣れているダース王子に感謝した。

「それなら、私も同行……」
「いやいや、ダメだよ。ロザリンド」

 ダース様が私の肩を掴む。

「え?」
「放課後は勉強、だろ?」

 あぁ……そうだった。

「あ、はい……よろしくお願いしますわ。ダース王子」
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