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2 寄り道と流れてくる様々な″ヒカリ″
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しおりを挟む「あや~、どうしたの~?顔色悪いよ~?」
ご機嫌ななめだったはずのミキが心配してあやの顔を覗き込む。ミキのよく日に焼けた丸っこい顔は憎めない愛嬌があった。目も丸っこく黒目がちで、あやはそんなミキをネコに似てるなぁと思いながらいつも見つめていた。ミキはショートカットがよく似合う。
本人に言わせればよくサボっているらしいが、さすがに軟式テニス部だけあってよく日焼けしている。あやがどちらかというと色白で、紫外線を気にして日焼け止めを塗るのに余念がないのに、ミキは時々無頓着なところがあって、UV対策は二十歳を過ぎてからでいいと言って聞かなかった。
「大丈夫!それよりミキ、ピアス開けたんだ~。」
「あ、やっぱりこれ目立ちすぎ?もっと目立たないヤツにすれば良かったかな?」
ミキはそう言いながら耳元のピアスをいじっている。
あや達が通っている北西高校はそんなにレベルの高い高校ではない。良く言って中の上くらいだ。校則もあり大概の生徒はルールを守った方が楽だからという適当な理由で守っていた。たが、全体的に緩くて、あまり教師達も厳しくないので、チラホラと校則を違反する子もいた…というか、校則ギリギリで髪型や制服を自分流にアレンジしてるだけだったが。ミキのように大胆にピアスをしてくるような元気な子もいた。
「あやー、チャリ漕いで~。だるい。」
ミキがだるそうに自転車を降りると、ハンドルをあやに押し付けて来た。
「これってミキのチャリでしょうが。」
あやは子供を諭すように話しかけるが、ミキはニヤニヤと笑っている。
「やれやれ。またミキ姫のワガママが始まった。」
あやは仕方なさそうに自転車のハンドルを握ると、いきよいよく漕ぎ出そうとした瞬間、
「わわわっ!」
「あやちゃん、後ろ乗せてね♡」
ミキが自転車の後ろに乗り込んできたのだ!
「あっ、危ないってば!それに交通違反じゃないの!?」
「あれ?そうだっけ?なら少しだけでやめておこうね。学校は遠いから、近くの駅にチャリ止めて行こう。」
「駅から学校まで歩くの?遠くない?」
「もう、あやはマジメ過ぎるよ!駅の近くにあるA店に行こうよ。」
「え?Aって下着とか売ってるお店じゃ?」
「そうだよ、あやは下着がシンプルなのばっかりで可愛いの持ってないから、私が選んであげる。」
「私はそういうの興味ないっていうか…。」
「うそぉ!だったらそろそろ興味を持ちなさいよ!ウチらもうJKよ?」
あやは重い自転車を漕ぎながら、ハンドルを駅の方へきった。
「あや、珍しく素直じゃん!」
よく言うよ。ミキは言い出したら聞かないからな…。あやは無言で額の汗をハンカチで拭くと、生ぬるい風が吹き抜けて行った。
「あや、タオルはー?」
ミキは相変わらず遠慮がない。
「バッグん中。」
あやは面倒くさそうに答える。ミキはあやのお気に入りのブルーのストライプのタオルを取り出し、好きなように使っている。
すぐに駅に着いた。駐輪場にミキの自転車を止めて鍵をかけると、ミキはあやのタオルだけ持って歩き始めた。そして、途中であやの方に振り返り、
「よろしく!」
と言って満面の笑顔で敬礼した。あやは思わずぷっと吹き出し、自分の分とミキの分まで鞄とバッグを持った。
ミキはぺろりと舌を出すと、また歩き始めた。あやはそんなミキの後ろ姿を観察して、制服のかなり短いスカートからスラリと伸びた足や、くびれたウエストに惚れ惚れしながらも、少し冷たく、自分のセールスポイントよくわかってんじゃんと思った。あやが1人でいる事が多く、単独行動が多いのに対して、ミキはクラスのいくつかの女子グループに加え男子達ともうまく世渡りしていた。あやの、どこのグループにも属さない冷めた性格もミキの存在があって認められているフシがあった。あやもクラスという小さなオリの中で孤立する事がどんなに恐ろしい事か心得ていた。そういう意味でミキはあやにとって貴重な存在であったし、愛嬌のあるネコのようなくるくるとした瞳には悪意は感じられなかった。
「コインロッカーに荷物預けて行こうよ。お金は私の奢りでいいからさ。」
先を歩いていたミキがあやにそう言った。ミキは意外と気を使うところもあった。デリカシーのないタイプではない。
「ミキありがとー!正直2人分の鞄持ちは辛かったよ~。バッグも意外と重いし。」
そうして2人はハンカチとタオル、お財布とスマホだけをバッグから取り出した。
「意外とかさばるね。なくさないかな?」
あやがそう言うと、ミキは
「任せて!」
というとバッグからパステルピンクのポーチを取り出した。
「これに2人分のお財布とスマホ入れちゃえば大丈夫。」
ミキは案外しっかり者かもしれないとあやは思った。
コインロッカーを抜けて駅の南口へ出る時、改札口には山ほどの人間が流れていた。あやは不快そうになるべく人混みから目を背けた。余計なら″ヒカリ″を見たくなかったからだ。
あやが″ヒカリ″が見えるようになったのは物心ついてからずっとだった。人生の終わりを迎える人間にはその人の発する″ヒカリ″が見えるのだ。幸せな末期を迎える者の″ヒカリ″は暖かい色をしていて、光も柔らかく穏やかだ。だが、不幸な末期を迎える者の″ヒカリ″は色は暗く澱んでおり、光はほとんどなく、消えかかっている。あやは最初はみんな″ヒカリ″が見えているものだと思っていた。だがそのことをあやが口にするたび、周りの人は哀れみと恐れの籠った困惑した眼差しを向けてくる。酷い時には変人扱いされ、家族からさえも疎まれた。以来、あやは誰にも″ヒカリ″のことは話さず、秘密にするようになった。
改札口から流れてくるいろんな人間が見えた。老若男女、外国人らしい者も多かったが、綺麗な″ヒカリ″を発している者は極めて少なく、全体的に″ヒカリ″は暗く澱んで見えた。
「髪型変えるかなー。ミキみたいにバッサリと。」
南口を出て広い道路に出ると、あやは快晴の青空を見上げながら独り言のようにら語りかけた。それからストレートの黒髪をかきあげ、少しのびをした。
「あやにはロングの方が似合ってるよ。」
ミキがそう答えると、あやはもう平常心に戻っていた。人の最後を目撃することに最初の頃はかなり動揺したり葛藤があったが、歳を重ねるごとにほとんど何の感慨も抱かなくなった…というか、あやが物事を斜に構えて冷めた目で見るようになった。そうしなければ、あやはとっくの昔に発狂していたかもしれない。
それにしても、1日に何度も人間の末期の″ヒカリ″を見て冷静でいられるのだから、冷めていると言われても仕方ないとあやは思っている。
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