2 / 2
2 寄り道と流れてくる様々な″ヒカリ″
本文
しおりを挟む「あや~、どうしたの~?顔色悪いよ~?」
ご機嫌ななめだったはずのミキが心配してあやの顔を覗き込む。ミキのよく日に焼けた丸っこい顔は憎めない愛嬌があった。目も丸っこく黒目がちで、あやはそんなミキをネコに似てるなぁと思いながらいつも見つめていた。ミキはショートカットがよく似合う。
本人に言わせればよくサボっているらしいが、さすがに軟式テニス部だけあってよく日焼けしている。あやがどちらかというと色白で、紫外線を気にして日焼け止めを塗るのに余念がないのに、ミキは時々無頓着なところがあって、UV対策は二十歳を過ぎてからでいいと言って聞かなかった。
「大丈夫!それよりミキ、ピアス開けたんだ~。」
「あ、やっぱりこれ目立ちすぎ?もっと目立たないヤツにすれば良かったかな?」
ミキはそう言いながら耳元のピアスをいじっている。
あや達が通っている北西高校はそんなにレベルの高い高校ではない。良く言って中の上くらいだ。校則もあり大概の生徒はルールを守った方が楽だからという適当な理由で守っていた。たが、全体的に緩くて、あまり教師達も厳しくないので、チラホラと校則を違反する子もいた…というか、校則ギリギリで髪型や制服を自分流にアレンジしてるだけだったが。ミキのように大胆にピアスをしてくるような元気な子もいた。
「あやー、チャリ漕いで~。だるい。」
ミキがだるそうに自転車を降りると、ハンドルをあやに押し付けて来た。
「これってミキのチャリでしょうが。」
あやは子供を諭すように話しかけるが、ミキはニヤニヤと笑っている。
「やれやれ。またミキ姫のワガママが始まった。」
あやは仕方なさそうに自転車のハンドルを握ると、いきよいよく漕ぎ出そうとした瞬間、
「わわわっ!」
「あやちゃん、後ろ乗せてね♡」
ミキが自転車の後ろに乗り込んできたのだ!
「あっ、危ないってば!それに交通違反じゃないの!?」
「あれ?そうだっけ?なら少しだけでやめておこうね。学校は遠いから、近くの駅にチャリ止めて行こう。」
「駅から学校まで歩くの?遠くない?」
「もう、あやはマジメ過ぎるよ!駅の近くにあるA店に行こうよ。」
「え?Aって下着とか売ってるお店じゃ?」
「そうだよ、あやは下着がシンプルなのばっかりで可愛いの持ってないから、私が選んであげる。」
「私はそういうの興味ないっていうか…。」
「うそぉ!だったらそろそろ興味を持ちなさいよ!ウチらもうJKよ?」
あやは重い自転車を漕ぎながら、ハンドルを駅の方へきった。
「あや、珍しく素直じゃん!」
よく言うよ。ミキは言い出したら聞かないからな…。あやは無言で額の汗をハンカチで拭くと、生ぬるい風が吹き抜けて行った。
「あや、タオルはー?」
ミキは相変わらず遠慮がない。
「バッグん中。」
あやは面倒くさそうに答える。ミキはあやのお気に入りのブルーのストライプのタオルを取り出し、好きなように使っている。
すぐに駅に着いた。駐輪場にミキの自転車を止めて鍵をかけると、ミキはあやのタオルだけ持って歩き始めた。そして、途中であやの方に振り返り、
「よろしく!」
と言って満面の笑顔で敬礼した。あやは思わずぷっと吹き出し、自分の分とミキの分まで鞄とバッグを持った。
ミキはぺろりと舌を出すと、また歩き始めた。あやはそんなミキの後ろ姿を観察して、制服のかなり短いスカートからスラリと伸びた足や、くびれたウエストに惚れ惚れしながらも、少し冷たく、自分のセールスポイントよくわかってんじゃんと思った。あやが1人でいる事が多く、単独行動が多いのに対して、ミキはクラスのいくつかの女子グループに加え男子達ともうまく世渡りしていた。あやの、どこのグループにも属さない冷めた性格もミキの存在があって認められているフシがあった。あやもクラスという小さなオリの中で孤立する事がどんなに恐ろしい事か心得ていた。そういう意味でミキはあやにとって貴重な存在であったし、愛嬌のあるネコのようなくるくるとした瞳には悪意は感じられなかった。
「コインロッカーに荷物預けて行こうよ。お金は私の奢りでいいからさ。」
先を歩いていたミキがあやにそう言った。ミキは意外と気を使うところもあった。デリカシーのないタイプではない。
「ミキありがとー!正直2人分の鞄持ちは辛かったよ~。バッグも意外と重いし。」
そうして2人はハンカチとタオル、お財布とスマホだけをバッグから取り出した。
「意外とかさばるね。なくさないかな?」
あやがそう言うと、ミキは
「任せて!」
というとバッグからパステルピンクのポーチを取り出した。
「これに2人分のお財布とスマホ入れちゃえば大丈夫。」
ミキは案外しっかり者かもしれないとあやは思った。
コインロッカーを抜けて駅の南口へ出る時、改札口には山ほどの人間が流れていた。あやは不快そうになるべく人混みから目を背けた。余計なら″ヒカリ″を見たくなかったからだ。
あやが″ヒカリ″が見えるようになったのは物心ついてからずっとだった。人生の終わりを迎える人間にはその人の発する″ヒカリ″が見えるのだ。幸せな末期を迎える者の″ヒカリ″は暖かい色をしていて、光も柔らかく穏やかだ。だが、不幸な末期を迎える者の″ヒカリ″は色は暗く澱んでおり、光はほとんどなく、消えかかっている。あやは最初はみんな″ヒカリ″が見えているものだと思っていた。だがそのことをあやが口にするたび、周りの人は哀れみと恐れの籠った困惑した眼差しを向けてくる。酷い時には変人扱いされ、家族からさえも疎まれた。以来、あやは誰にも″ヒカリ″のことは話さず、秘密にするようになった。
改札口から流れてくるいろんな人間が見えた。老若男女、外国人らしい者も多かったが、綺麗な″ヒカリ″を発している者は極めて少なく、全体的に″ヒカリ″は暗く澱んで見えた。
「髪型変えるかなー。ミキみたいにバッサリと。」
南口を出て広い道路に出ると、あやは快晴の青空を見上げながら独り言のようにら語りかけた。それからストレートの黒髪をかきあげ、少しのびをした。
「あやにはロングの方が似合ってるよ。」
ミキがそう答えると、あやはもう平常心に戻っていた。人の最後を目撃することに最初の頃はかなり動揺したり葛藤があったが、歳を重ねるごとにほとんど何の感慨も抱かなくなった…というか、あやが物事を斜に構えて冷めた目で見るようになった。そうしなければ、あやはとっくの昔に発狂していたかもしれない。
それにしても、1日に何度も人間の末期の″ヒカリ″を見て冷静でいられるのだから、冷めていると言われても仕方ないとあやは思っている。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています
真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。
半透明を満たす光
モアイ
恋愛
(生きる意味って何だ?)
矤上 透真【やがみ とうま】
22歳。
透真は漠然とした不安と、社会生活に対する恐怖感を心に抱えていた。
衝動的な挑戦と逃走を繰り返し、ついにお金もプライドも尽きた中、不動産を所有していた叔父の情けである土地のある住居に引っ越すことになった。
そこは自由の国、アメリカ。
衝動的にまた突拍子もなく、英語が得意でもないのに、透真は自身の何かを変えたくて、自由の国に旅立った。
案の定、うまくいかない事に焦り始めた生活を送っていた時、偶然、日本語を話せる少女に出会う。
アメリカ育ちの綺麗な彼女は、どこか人懐っこさが感じられて、とびっきりの明るい笑顔を透真に向けながら、ハッキリした物言いで、こう言った。
「おにーさん、日本人なんだ?」
「ちょうど良かった、私をおにーさんの家に泊めてくれない?」
──彼女と出会い、灰色の世界が変わり始める。
続きは本編で!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
雨上がりに僕らは駆けていく Part1
平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」
そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。
明日は来る
誰もが、そう思っていた。
ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。
風は時の流れに身を任せていた。
時は風の音の中に流れていた。
空は青く、どこまでも広かった。
それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで
世界が滅ぶのは、運命だった。
それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。
未来。
——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。
けれども、その「時間」は来なかった。
秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。
明日へと流れる「空」を、越えて。
あの日から、決して止むことがない雨が降った。
隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。
その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。
明けることのない夜を、もたらしたのだ。
もう、空を飛ぶ鳥はいない。
翼を広げられる場所はない。
「未来」は、手の届かないところまで消え去った。
ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。
…けれども「今日」は、まだ残されていた。
それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。
1995年、——1月。
世界の運命が揺らいだ、あの場所で。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる