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――百年後
神の『呪い』を受けたシャルナに寿命は無い。殺されたり、自ら命を絶たない限り永遠に生き続ける。それは人それぞれの捉え方で是非が異なるのかもしれないが、シャルナにとっては当然後者。こんな孤独で辛い人生はすぐにでも終わって欲しい。
だが、そんなシャルナでも一つだけ有り難いと思える事がある。それは、『寿命』という概念と同時に『老い』という概念もシャルナには無いという事。
いつまでも美しくありたいのは女として至極当たり前の願望。――夢。 シャルナは『不老不死』という形で、その叶え難き夢を叶えている。故に、千年以上生きている今もシャルナの姿は十七歳の頃のままだ。
『不老』――これに関してだけは神に感謝している。『祝福』と言ってしまってもいい。
確かにシャルナは、己の人生に対して悲観的だ。だが、かと言って生きる事を諦めてるわけではない。
『幸せ』を感じるまでは終われない――いや、終わらない。終わりがないのならば可能性は無限大。『幸せ』を掴むまで生きる事がシャルナの生き甲斐。
さて、そんなシャルナにとっての『幸せ』だが、なんら特別なものではない。普通と言えば普通の『女の幸せ』。
しかし、シャルナからすればそれは『夢』と置き換えられるほどハードルが高いものだったりもする。
そう……シャルナの夢は、昔も今もずっと『お嫁さん』なのだ。
◎
百年もの時が経つと、『終焉の魔女』を恐れる世情も幾分落ち着いてくる。
世界共通の『敵』の存在が影を潜めると、今度は人間同士間で『敵』を作るようになる。
そして、世界のあらゆる所で戦争が巻き起こるのだ。 ――じゃあ、どうする? 簡単な事。
また、『終焉の魔女』の恐ろしさを世界に知らしめてやればいいのだ。その為には――
「――また、この時が……『神判』を下す時が来たのね。」
シャルナは重い腰を上げると部屋の中で一番目に付く位置に設置された台座に向かって歩きだす。
台座の上には造りの良さそうな黒い木箱が置いてあり、シャルナはそれに向かって、
「じゃ、行ってくるね。 ――クロ。」
シャルナはそう呟くと、台座の隣に立て掛けてあった杖――先端に金色の大きな水晶があしらわれた造りの良さそうなそれと、一際大きい黒いつば広帽子を手に取った。
◎
この百年でシャルナの身近でも一つ大きな変化が。
――そう、クロは今、前述した黒い箱の中で眠っている。
当たり前だ。クロはただの猫なのだから。
死因は衰弱死――クロは与えらた天寿を目一杯に生き抜いたのだ。
そして、最期はシャルナの膝の上で見守られながら安らかに、本当に眠るかの如くゆっくり瞼を閉じ――逝った。
シャルナは思う……『クロは幸せだったに違い無い』と。 そう自負出来るだけの『愛』をクロに、クロだけに尽くしてきたつもりだ。
その『愛』は……家族として? それとも飼い猫として?
……それは正直シャルナ自身も分からない。だが、野良猫ならばもっと険しい生涯を過ごし、与えらた天寿を目一杯まで生き抜く事も難しかっただろう。
その点、クロは『猫』としての生涯としては至極、恵まれたものだったに違いない。シャルナが思う根拠は結局ここに行き着く。 行き着くのだが、実は――
クロの生涯、それは意外にも辛いものだった。
何故ならシャルナの思うクロの幸せと、クロが望む幸せは残念な事にかけ離れたものだったのだから。
◎
死ぬ直前――クロは心底願った……来世、生まれ変わるならやっぱりニンゲンがいい……そしたら君と――
◎
【アストロ帝国 帝都】
アストロ帝国の帝都は世界有数の大都市。
快晴の今日は特に多くの人々で賑わっている。
「今度は隣国ラズア王国に攻め込むようだぜ。」
「――遂にラズア王国かぁ。勢い乗ってるなぁ。」
「……だな。 本当、この国に生まれて良かったぜ。」
アストロ帝国は周辺諸国を次々に侵略。 昨今の混沌とした世界情勢はこのアストロ帝国のこういった軍事活動が原因で、次にそのターゲットとされたのが大国、『ラズア王国』。
「昔はラズア王国といったら世界一の大国だったのにな。」
「今やアストロからの侵攻を恐れたラズア側から同盟を持ち掛けてくるくらいだ。」
「あぁ。皆んな浮かれてるよ。『これからはアストロ帝国の時代だ』ってな。」
今の世相を表す調子の良い言葉を口にする男はおもむろに「それにしても今日は……」と言いながら空を見上げる。
それから、男は晴れやかな気分のままに『――良い天気だ。』と、続けるつもりを急遽キャンセル。 代わりに男は目を擦り、目を凝らし、そして――顔を歪め――
「……なんだ……アレ。」
男の呟きにもう一人の男もそれにつられて空を見上げる。
「ん?どうかしたか?」
二人――いや、その頃には周りの大勢の人々も空の異変に気付いていた。
人々の視線の先、約三十メートルくらい離れたところだろうか。不自然に空に浮かぶ不気味な黒い物体。
よく見るとそこには黒装束を身に纏い、黒いつば広帽子を深々と被った人影があった。
神の『呪い』を受けたシャルナに寿命は無い。殺されたり、自ら命を絶たない限り永遠に生き続ける。それは人それぞれの捉え方で是非が異なるのかもしれないが、シャルナにとっては当然後者。こんな孤独で辛い人生はすぐにでも終わって欲しい。
だが、そんなシャルナでも一つだけ有り難いと思える事がある。それは、『寿命』という概念と同時に『老い』という概念もシャルナには無いという事。
いつまでも美しくありたいのは女として至極当たり前の願望。――夢。 シャルナは『不老不死』という形で、その叶え難き夢を叶えている。故に、千年以上生きている今もシャルナの姿は十七歳の頃のままだ。
『不老』――これに関してだけは神に感謝している。『祝福』と言ってしまってもいい。
確かにシャルナは、己の人生に対して悲観的だ。だが、かと言って生きる事を諦めてるわけではない。
『幸せ』を感じるまでは終われない――いや、終わらない。終わりがないのならば可能性は無限大。『幸せ』を掴むまで生きる事がシャルナの生き甲斐。
さて、そんなシャルナにとっての『幸せ』だが、なんら特別なものではない。普通と言えば普通の『女の幸せ』。
しかし、シャルナからすればそれは『夢』と置き換えられるほどハードルが高いものだったりもする。
そう……シャルナの夢は、昔も今もずっと『お嫁さん』なのだ。
◎
百年もの時が経つと、『終焉の魔女』を恐れる世情も幾分落ち着いてくる。
世界共通の『敵』の存在が影を潜めると、今度は人間同士間で『敵』を作るようになる。
そして、世界のあらゆる所で戦争が巻き起こるのだ。 ――じゃあ、どうする? 簡単な事。
また、『終焉の魔女』の恐ろしさを世界に知らしめてやればいいのだ。その為には――
「――また、この時が……『神判』を下す時が来たのね。」
シャルナは重い腰を上げると部屋の中で一番目に付く位置に設置された台座に向かって歩きだす。
台座の上には造りの良さそうな黒い木箱が置いてあり、シャルナはそれに向かって、
「じゃ、行ってくるね。 ――クロ。」
シャルナはそう呟くと、台座の隣に立て掛けてあった杖――先端に金色の大きな水晶があしらわれた造りの良さそうなそれと、一際大きい黒いつば広帽子を手に取った。
◎
この百年でシャルナの身近でも一つ大きな変化が。
――そう、クロは今、前述した黒い箱の中で眠っている。
当たり前だ。クロはただの猫なのだから。
死因は衰弱死――クロは与えらた天寿を目一杯に生き抜いたのだ。
そして、最期はシャルナの膝の上で見守られながら安らかに、本当に眠るかの如くゆっくり瞼を閉じ――逝った。
シャルナは思う……『クロは幸せだったに違い無い』と。 そう自負出来るだけの『愛』をクロに、クロだけに尽くしてきたつもりだ。
その『愛』は……家族として? それとも飼い猫として?
……それは正直シャルナ自身も分からない。だが、野良猫ならばもっと険しい生涯を過ごし、与えらた天寿を目一杯まで生き抜く事も難しかっただろう。
その点、クロは『猫』としての生涯としては至極、恵まれたものだったに違いない。シャルナが思う根拠は結局ここに行き着く。 行き着くのだが、実は――
クロの生涯、それは意外にも辛いものだった。
何故ならシャルナの思うクロの幸せと、クロが望む幸せは残念な事にかけ離れたものだったのだから。
◎
死ぬ直前――クロは心底願った……来世、生まれ変わるならやっぱりニンゲンがいい……そしたら君と――
◎
【アストロ帝国 帝都】
アストロ帝国の帝都は世界有数の大都市。
快晴の今日は特に多くの人々で賑わっている。
「今度は隣国ラズア王国に攻め込むようだぜ。」
「――遂にラズア王国かぁ。勢い乗ってるなぁ。」
「……だな。 本当、この国に生まれて良かったぜ。」
アストロ帝国は周辺諸国を次々に侵略。 昨今の混沌とした世界情勢はこのアストロ帝国のこういった軍事活動が原因で、次にそのターゲットとされたのが大国、『ラズア王国』。
「昔はラズア王国といったら世界一の大国だったのにな。」
「今やアストロからの侵攻を恐れたラズア側から同盟を持ち掛けてくるくらいだ。」
「あぁ。皆んな浮かれてるよ。『これからはアストロ帝国の時代だ』ってな。」
今の世相を表す調子の良い言葉を口にする男はおもむろに「それにしても今日は……」と言いながら空を見上げる。
それから、男は晴れやかな気分のままに『――良い天気だ。』と、続けるつもりを急遽キャンセル。 代わりに男は目を擦り、目を凝らし、そして――顔を歪め――
「……なんだ……アレ。」
男の呟きにもう一人の男もそれにつられて空を見上げる。
「ん?どうかしたか?」
二人――いや、その頃には周りの大勢の人々も空の異変に気付いていた。
人々の視線の先、約三十メートルくらい離れたところだろうか。不自然に空に浮かぶ不気味な黒い物体。
よく見るとそこには黒装束を身に纏い、黒いつば広帽子を深々と被った人影があった。
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