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第二章
第62話 恐怖心
しおりを挟む「――やぁ、みんな。待たせてしまって済まなかったね」
「わたくし達の為に集まって頂きましたのに、遅くなってごめんなさい」
おそらく、王子と聖女だろう。
場所的に後ろの方に陣取っていた私には王子と聖女の姿は他の参列者達に隠れて見えない。
それでも聞こえてくる2人の声は如何にもな、お貴族様口調で、特に聖女と思しき声は無駄に清らかな感じがして、掠れ声の私にとってはそれが癇に障る。
「今日は僕達2人の為に集まってくれて――」
バカ王子のスピーチには全くが興味が無い。でも、王子と聖女の容貌には興味ある。
私は「早く乾杯しろ」と小さく毒付きながら、またしてもヴィルドレット様の傍を離れ、目の前の人混みを掻き分け、ようやく2人を視界に入れる。
「――見てくれ、みんな! 僕の新しいフィアンセのアリスだ!」
今まさに、水色髪を後ろで束ねたフェリクス王子と思しき麗人が隣りの美女を右手で指し示した。
背中まで長く黄金色に輝いく美しい金髪と白磁肌に纏う白装束が、白と金の神々しいまでのコントラストを演出している。
容貌は可愛いと綺麗が共存していて……いや、まどろこしい言い回しは抜きして、只々美しいの一言に尽きる。 さすがは『聖女』といったところか。 でも――
「――っ!!」
そんな麗しい容姿に感嘆の念を抱くのよりも先に、何故か背筋をぞわりとした悪寒が走った。
怒り、憎しみ、嫌悪感、そして恐怖心――
これらはシンシア様を死に追いやった事からくる感情では無い。もっと身近で、もっと濃い感情だ。何故かは分からない。
「おい、ハンナ! いくら初めての王家主催とはいえ、はしゃぎ過ぎだ! 俺の傍を離れるな!」
またしても後ろからヴィルドレット様に引っ張られる。
「あ、すいません」
少し焦る表情のヴィルドレット様に対して私は平然とした顔で取り敢えず謝る。 平謝りとはまさにこの事だろう。
「まったく、油断も隙も無いなお前は」
そう言ってヴィルドレット様は困った様な笑みを浮かべたその時、
「――っ!?」
聖女がジロリとこちらを睨んだ。
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