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第二章
第48話 初夜
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結婚式が終わり、正式に夫婦となった俺とハンナは共に同じ部屋で初めての夜を迎えていた。
「とても良い結婚式でしたね」
「あぁ、そうだな」
「私、女に生まれてきて本当に良かったです。私の夢が叶いました。出来る事ならもう一度結婚式を挙げたいくらいです」
今日の結婚式の感想をうっとりした表情で語りながら、途中頬を赤くしたり、ニンマリ笑ってみたり、結婚式の時を思い出してその世界に浸っているようだ。 今の俺はおそらくハンナの視界に入っていない。
「もう一度結婚式か……それは誰と挙げるつもりだ?」
「そんなの、ヴィルドレット様とに決まっているじゃありませんか!!」
俺の言葉にむっとした表情で噛みつくように返してきたハンナ。
その様子は稚気を帯びたいつもの可愛いらしい感じだが、一方で身に纏う寝間着は露出度こそ低いが艶っぽい黒のネグリジェ。
俺は平静を装いながらも、ハンナから漂う色香に思わず息を飲む。
「それはそうと、いつまでこんな事続けるんだ?」
「何がですか?」
「こうやって毎晩毎晩同じ部屋で寝る事をだ!」
「だって、今夜は結婚初夜ですよ? 別々の部屋で寝たりしたら、お義父様が不審に思われますよ? せっかく私達の結婚を喜んでくれているところへ、水を差しては申し訳ないじゃないですか。フリでもお義父様の期待に沿わなければ」
ハンナは至極当たり前の事を言っているかの如く、自信満々にはっきりとした口調で言った。
確かに言っている事は分かるが……
「だからと言ってこんな騙すような真似は……」
俺が困ったように言葉を詰まらせるとハンナはスッと立ち上がり、その場でネグリジェをひらりと靡かせながら一回転、
「……じゃあ、嘘じゃなくて、本当の事にします?」
淑女ポーズを取り、いつもの魔女みたいな悪戯的な笑みを浮かべて言った。
「全く、君はどこまでが冗談で、どこまでが本気か分からないな」
「私は本気ですよ? ヴィルドレット様が本気で私に対して『愛してる』と言えるのなら、今すぐにでも……」
言葉の最後でハンナは切なく表情を曇らせた。
その顔を見た瞬間、胸が締め付けられる思いがした。気丈に振る舞っているように見えて本音は辛いのだろう。
しかし、俺にはまだ覚悟が足りない。
「昨晩俺は、君を愛さないと言ったがその考えは今はもう無い。君を本気で愛したいと思っている。だから、もう少しだけ待ってくれ。俺が君に対して堂々と『愛してる』と、そう言えるようになるまで」
俺の言葉を聞いたハンナは一転、幸せそうな笑みを浮かべた。
「はい。もちろんです。いつまでも待ちます。ヴィルドレット様のその御心、とても嬉しいです。いつか、そう言ってもらえる日が来る事を心から楽しみにしています」
ハンナのその優しい笑みが愛おしいくて、俺は思わずハンナを抱き寄せた。ハンナは流れのままに俺の腕の中で納まり、そして震える声でこう言った。
「……いつまでも待ちます……嘘です。本当は待つのは辛いです。出来るだけ早くお願いします。」
「……わかった」
「とても良い結婚式でしたね」
「あぁ、そうだな」
「私、女に生まれてきて本当に良かったです。私の夢が叶いました。出来る事ならもう一度結婚式を挙げたいくらいです」
今日の結婚式の感想をうっとりした表情で語りながら、途中頬を赤くしたり、ニンマリ笑ってみたり、結婚式の時を思い出してその世界に浸っているようだ。 今の俺はおそらくハンナの視界に入っていない。
「もう一度結婚式か……それは誰と挙げるつもりだ?」
「そんなの、ヴィルドレット様とに決まっているじゃありませんか!!」
俺の言葉にむっとした表情で噛みつくように返してきたハンナ。
その様子は稚気を帯びたいつもの可愛いらしい感じだが、一方で身に纏う寝間着は露出度こそ低いが艶っぽい黒のネグリジェ。
俺は平静を装いながらも、ハンナから漂う色香に思わず息を飲む。
「それはそうと、いつまでこんな事続けるんだ?」
「何がですか?」
「こうやって毎晩毎晩同じ部屋で寝る事をだ!」
「だって、今夜は結婚初夜ですよ? 別々の部屋で寝たりしたら、お義父様が不審に思われますよ? せっかく私達の結婚を喜んでくれているところへ、水を差しては申し訳ないじゃないですか。フリでもお義父様の期待に沿わなければ」
ハンナは至極当たり前の事を言っているかの如く、自信満々にはっきりとした口調で言った。
確かに言っている事は分かるが……
「だからと言ってこんな騙すような真似は……」
俺が困ったように言葉を詰まらせるとハンナはスッと立ち上がり、その場でネグリジェをひらりと靡かせながら一回転、
「……じゃあ、嘘じゃなくて、本当の事にします?」
淑女ポーズを取り、いつもの魔女みたいな悪戯的な笑みを浮かべて言った。
「全く、君はどこまでが冗談で、どこまでが本気か分からないな」
「私は本気ですよ? ヴィルドレット様が本気で私に対して『愛してる』と言えるのなら、今すぐにでも……」
言葉の最後でハンナは切なく表情を曇らせた。
その顔を見た瞬間、胸が締め付けられる思いがした。気丈に振る舞っているように見えて本音は辛いのだろう。
しかし、俺にはまだ覚悟が足りない。
「昨晩俺は、君を愛さないと言ったがその考えは今はもう無い。君を本気で愛したいと思っている。だから、もう少しだけ待ってくれ。俺が君に対して堂々と『愛してる』と、そう言えるようになるまで」
俺の言葉を聞いたハンナは一転、幸せそうな笑みを浮かべた。
「はい。もちろんです。いつまでも待ちます。ヴィルドレット様のその御心、とても嬉しいです。いつか、そう言ってもらえる日が来る事を心から楽しみにしています」
ハンナのその優しい笑みが愛おしいくて、俺は思わずハンナを抱き寄せた。ハンナは流れのままに俺の腕の中で納まり、そして震える声でこう言った。
「……いつまでも待ちます……嘘です。本当は待つのは辛いです。出来るだけ早くお願いします。」
「……わかった」
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