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第一章
第41話 男爵に平伏す公爵
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4人を乗せた馬車が向かう先は、徒歩で10分程のところにある教会だ。そこで縁結びの儀式を行うわけだけど、教会までの道のりを馬車で徒歩と変わらぬ速度で進んで行く。沿道パレードというやつらしい。
そして今更だけど、馬車は4人乗りで、新郎新婦とその両家の父親が乗るのが貴族の結婚式での慣わしだ。
窓から外を覗くと、これまた大勢の領民達が沿道からも祝福してくれており、私は思わず窓を開けて身を乗り出し、元気いっぱいの笑顔でそれに応えた。
「ありがとうー!!こんなに祝福されて私は世界一の幸せ者でーす!!」
私がそうやって必死に手を振って応えていると、後ろからドレスの縁を軽く引っ張られた。
「こら、ハンナ。 それくらいにしておきなさい」
父が困った様な笑顔でそういうと、それに被せるようにお義父様が「まぁまぁ」と宥める。
「父君も知っての通り、私にはこのヴィルドレットしか子がおりません。故に娘を持つ事が私の夢でした。なのに何故、息子は妻を持ちたがらないのかと、ずっと思い悩んできました。しかし、今となってはそんな息子を褒めてやりたい。お陰で、こんなにも天真爛漫で可愛いらしいお嬢さんが嫁に来てくれたのです。義理とはいえハンナの父になれる事を誇りに思っております」
……うん。とても、嬉しい言葉で涙がでそう。でも、お義父様が父に向かって敬語なのがとても気になる……。
父もその事が気になってか苦い表情だ。親子でそんな複雑な心境でいたところへ、遂にお義父様は父に向かって「こんな素晴らしい娘を嫁に出して頂き、本当にありがとうございます」と深々と頭を下げた……。
王国筆頭公爵が男爵に向かって平伏すという、その異様な光景に父と私は親子揃って慌てふためく。
「お、おおおお、待ち下さい!閣下!」
「お義父様!顔を上げて下さい!」
私達親子は半ば強引気味にお義父様の上体を起こさせた。
「この国の筆頭公爵様ともあろう御方が私のような下級貴族へそう易々と頭を下げてはなりません。今ので私の寿命が5年は縮まりました。これ以上寿命を縮めない為にも敬語もお辞めください。孫の顔を見るまで私はまだ死たくありません」
父が少し息を切らしたようにそう言うと、今度はお義父様がぎょっとした表情になった。
「それは大変だ!よし、分かった!父君の言う通りにしよう。気を遣わせてしまいすまなかったな」
お義父様の言葉からやっと敬語が消えてくれた事に私も父もホッと胸を撫で下ろした直後、今度はニッコリ満面の笑みを浮かべたお義父様が自らの口を手で隠す格好で父に向かって身を乗り出した。
「それはそうと、父君。耳を貸しなさい」
「……はぁ」
父は「一体何なんだ」と言った表情でそれに応え耳を傾けた。お義父様は父の耳元でコソコソ何かを言っている。
(一体何でしょうか?)
(俺にも分からん)
私とヴィルドレット様が視線だけで会話していると、突然父の「――それは誠ですかっ!?」という力の籠った声が車中に響いた。
驚いた表情の父へ、お義父様は「うんうん」と、変わらぬ満面の笑みで頷くのみ。
そして、父は私へ振り向き、感極まった表情で手を握られた。
あ……なんか嫌な予感する。
そして今更だけど、馬車は4人乗りで、新郎新婦とその両家の父親が乗るのが貴族の結婚式での慣わしだ。
窓から外を覗くと、これまた大勢の領民達が沿道からも祝福してくれており、私は思わず窓を開けて身を乗り出し、元気いっぱいの笑顔でそれに応えた。
「ありがとうー!!こんなに祝福されて私は世界一の幸せ者でーす!!」
私がそうやって必死に手を振って応えていると、後ろからドレスの縁を軽く引っ張られた。
「こら、ハンナ。 それくらいにしておきなさい」
父が困った様な笑顔でそういうと、それに被せるようにお義父様が「まぁまぁ」と宥める。
「父君も知っての通り、私にはこのヴィルドレットしか子がおりません。故に娘を持つ事が私の夢でした。なのに何故、息子は妻を持ちたがらないのかと、ずっと思い悩んできました。しかし、今となってはそんな息子を褒めてやりたい。お陰で、こんなにも天真爛漫で可愛いらしいお嬢さんが嫁に来てくれたのです。義理とはいえハンナの父になれる事を誇りに思っております」
……うん。とても、嬉しい言葉で涙がでそう。でも、お義父様が父に向かって敬語なのがとても気になる……。
父もその事が気になってか苦い表情だ。親子でそんな複雑な心境でいたところへ、遂にお義父様は父に向かって「こんな素晴らしい娘を嫁に出して頂き、本当にありがとうございます」と深々と頭を下げた……。
王国筆頭公爵が男爵に向かって平伏すという、その異様な光景に父と私は親子揃って慌てふためく。
「お、おおおお、待ち下さい!閣下!」
「お義父様!顔を上げて下さい!」
私達親子は半ば強引気味にお義父様の上体を起こさせた。
「この国の筆頭公爵様ともあろう御方が私のような下級貴族へそう易々と頭を下げてはなりません。今ので私の寿命が5年は縮まりました。これ以上寿命を縮めない為にも敬語もお辞めください。孫の顔を見るまで私はまだ死たくありません」
父が少し息を切らしたようにそう言うと、今度はお義父様がぎょっとした表情になった。
「それは大変だ!よし、分かった!父君の言う通りにしよう。気を遣わせてしまいすまなかったな」
お義父様の言葉からやっと敬語が消えてくれた事に私も父もホッと胸を撫で下ろした直後、今度はニッコリ満面の笑みを浮かべたお義父様が自らの口を手で隠す格好で父に向かって身を乗り出した。
「それはそうと、父君。耳を貸しなさい」
「……はぁ」
父は「一体何なんだ」と言った表情でそれに応え耳を傾けた。お義父様は父の耳元でコソコソ何かを言っている。
(一体何でしょうか?)
(俺にも分からん)
私とヴィルドレット様が視線だけで会話していると、突然父の「――それは誠ですかっ!?」という力の籠った声が車中に響いた。
驚いた表情の父へ、お義父様は「うんうん」と、変わらぬ満面の笑みで頷くのみ。
そして、父は私へ振り向き、感極まった表情で手を握られた。
あ……なんか嫌な予感する。
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