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第一章
第33話 遂にやっちゃいましたね。私達。
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夢から現実に、意識が戻って来た事を自覚しながらゆっくりと瞼を開ける。するとそこには、
「――!?」
すぐ目の前にこちらを見つめるヴィルドレット様の顔があった。
……ち、近いんですけど……
私は重いはずの瞼を一気に上げ、目を見開き、枕に沈む後頭部を更に沈み込ませる。
「な、なな、何ですか?」
ヴィルドレット様はすぐに顔を上げ、私から距離を取った。
直後のヴィルドレット様は頬を赤くし、慌てたように視線を泳がせた。
「……あっ……いや、すまない……」
私も頬に熱を感じながら、まずは朝の挨拶を口にする。
「……おはようございます。」
そして、何故私の寝起き一番のあり得ない距離感にヴィルドレット様の顔があったのかを問うような目で見つめる。
対するヴィルドレット様は逡巡しながらたどたどしく口を開いた。
「……き、今日は俺達の結婚式だからな。花嫁の君はいろいろと準備に忙しいだろうと……そろそろ起こしてやるかと、そう思ったところに、丁度君が目を覚ました。 ただ、それだけの事だ」
途切れ途切れで、非常に不自然な、如何にも迷いながら紡ぎ出されたヴィルドレット様の返答に頬が緩む。それに、
また、一人称が『俺』になってる。
素のヴィルドレット様がこんにちわしてますよ?
ふふっ、と私が吹き出したように笑うと、ヴィルドレット様は「何がそんなにおかしいんだ」と、ムキになった。その顔が可笑しくて私は更に声を上げて笑った。
「あははは!!」
「……だから、何故笑う?!!」
今のヴィルドレット様の必死な顔を見た瞬間、私の心に悪戯な火が灯った。
私は目細め、更に少し横目がちにヴィルドレット様を見やると、ニヤリと小悪魔的な笑みを浮かべて、こんな事を言ってみせた。
「それにしても……やっちゃいましたね。私達。結婚初夜も待たずに」
そう言って自分で堪え切れなくなった私がクスクスと笑っていると、突然頭を大きな手の平でガシリと鷲掴みにされて、そのままクイっとヴィルドレット様の顔の方へと向けられた。
いや、だから、顔が近いですって!!
私は咄嗟にオーバーヒートした顔を下へ向けようとしたが、
「――へ?」
私の頭はガシっと両手で固定され、
「おい! お前、気は確か? ん? そうか!まだ夢の中か!ならば俺が起こしてやろう!」
そう言ってそのまま私の頭はグワングワンと揺らされ、視界が左右交互に流れる。
「どうだ!?目が覚めたか? え? そうか、まだか。 全く、欲しがりな困った奴だな!!お前は」
頭の揺れが加速し、視界の流れがさらに速くなる。私は堪らず声を上げた。
「ぉお、起きました!起きましたから~!」
ようやく揺れがおさまり、私は「ヘェ~」と大きく息を吐いた。
「そうか、それは良かった。 では、改めておはよう」
「お、おはようございます……」
ふざけ過ぎた事を反省しつつ、改めて朝の挨拶を交わした。
――コンコン
すると丁度そのタイミングで、扉がノックされた。
「……大変恐縮ながら朝食の準備が整いました事をお知らせしに参りました」
扉越しに聞こえる声の主はルイスさんだ。そして、不自然な間を挟んだ後に補足の言葉が付け足された。
「……もしも、まだお取込み中だった場合は無視してくださいませ」
言葉の端々に迷いと遠慮が窺えるルイスさんの声が終わった瞬間、私の心にまたしても悪戯な火が灯ってしまった。
「はーい!ありがとうございまーす! でも今はまだお取込み中ですので、邪魔しないで下さーい! 終わったら行きますのでー」
私はわざとらしく、大きく元気な声で扉越しに言った。
「こ、これは、失礼致しましたッ!! では、ごゆっくりと――」
ルイスさんは焦った口調でそう言い残し、そそくさと立ち去って行った。
私はニシシと小悪魔的に笑いながらヴィルドレット様を見ると、苛立ちと陰湿な笑みをミックスさせたような、何ともおぞましい表情でこちらを睨みつけていた。
「なんだ? お前、まだ寝惚けてるのか?」
「ひぃぃ……」
そして両手で頭を掴まれ、
「……大丈夫だ。優しくしてやるから」
「ぁああーー!!やめてーーっ!!」
またしても、激しく振り振りされてしまった。
「――!?」
すぐ目の前にこちらを見つめるヴィルドレット様の顔があった。
……ち、近いんですけど……
私は重いはずの瞼を一気に上げ、目を見開き、枕に沈む後頭部を更に沈み込ませる。
「な、なな、何ですか?」
ヴィルドレット様はすぐに顔を上げ、私から距離を取った。
直後のヴィルドレット様は頬を赤くし、慌てたように視線を泳がせた。
「……あっ……いや、すまない……」
私も頬に熱を感じながら、まずは朝の挨拶を口にする。
「……おはようございます。」
そして、何故私の寝起き一番のあり得ない距離感にヴィルドレット様の顔があったのかを問うような目で見つめる。
対するヴィルドレット様は逡巡しながらたどたどしく口を開いた。
「……き、今日は俺達の結婚式だからな。花嫁の君はいろいろと準備に忙しいだろうと……そろそろ起こしてやるかと、そう思ったところに、丁度君が目を覚ました。 ただ、それだけの事だ」
途切れ途切れで、非常に不自然な、如何にも迷いながら紡ぎ出されたヴィルドレット様の返答に頬が緩む。それに、
また、一人称が『俺』になってる。
素のヴィルドレット様がこんにちわしてますよ?
ふふっ、と私が吹き出したように笑うと、ヴィルドレット様は「何がそんなにおかしいんだ」と、ムキになった。その顔が可笑しくて私は更に声を上げて笑った。
「あははは!!」
「……だから、何故笑う?!!」
今のヴィルドレット様の必死な顔を見た瞬間、私の心に悪戯な火が灯った。
私は目細め、更に少し横目がちにヴィルドレット様を見やると、ニヤリと小悪魔的な笑みを浮かべて、こんな事を言ってみせた。
「それにしても……やっちゃいましたね。私達。結婚初夜も待たずに」
そう言って自分で堪え切れなくなった私がクスクスと笑っていると、突然頭を大きな手の平でガシリと鷲掴みにされて、そのままクイっとヴィルドレット様の顔の方へと向けられた。
いや、だから、顔が近いですって!!
私は咄嗟にオーバーヒートした顔を下へ向けようとしたが、
「――へ?」
私の頭はガシっと両手で固定され、
「おい! お前、気は確か? ん? そうか!まだ夢の中か!ならば俺が起こしてやろう!」
そう言ってそのまま私の頭はグワングワンと揺らされ、視界が左右交互に流れる。
「どうだ!?目が覚めたか? え? そうか、まだか。 全く、欲しがりな困った奴だな!!お前は」
頭の揺れが加速し、視界の流れがさらに速くなる。私は堪らず声を上げた。
「ぉお、起きました!起きましたから~!」
ようやく揺れがおさまり、私は「ヘェ~」と大きく息を吐いた。
「そうか、それは良かった。 では、改めておはよう」
「お、おはようございます……」
ふざけ過ぎた事を反省しつつ、改めて朝の挨拶を交わした。
――コンコン
すると丁度そのタイミングで、扉がノックされた。
「……大変恐縮ながら朝食の準備が整いました事をお知らせしに参りました」
扉越しに聞こえる声の主はルイスさんだ。そして、不自然な間を挟んだ後に補足の言葉が付け足された。
「……もしも、まだお取込み中だった場合は無視してくださいませ」
言葉の端々に迷いと遠慮が窺えるルイスさんの声が終わった瞬間、私の心にまたしても悪戯な火が灯ってしまった。
「はーい!ありがとうございまーす! でも今はまだお取込み中ですので、邪魔しないで下さーい! 終わったら行きますのでー」
私はわざとらしく、大きく元気な声で扉越しに言った。
「こ、これは、失礼致しましたッ!! では、ごゆっくりと――」
ルイスさんは焦った口調でそう言い残し、そそくさと立ち去って行った。
私はニシシと小悪魔的に笑いながらヴィルドレット様を見ると、苛立ちと陰湿な笑みをミックスさせたような、何ともおぞましい表情でこちらを睨みつけていた。
「なんだ? お前、まだ寝惚けてるのか?」
「ひぃぃ……」
そして両手で頭を掴まれ、
「……大丈夫だ。優しくしてやるから」
「ぁああーー!!やめてーーっ!!」
またしても、激しく振り振りされてしまった。
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