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プロローグ
第2話 破滅の魔女
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――400年後。
私があの時、最期に願ったあの願い事は叶えられた。
人間として生まれ変わり、下級貴族の穏やかな家庭で生まれ育った私は今や孤独では無い。
優しい両親に妹思いの兄に恵まれ、今世の私はとても充実した日々を過ごしていた。でも、
前世の私――『破滅の魔女シャルナ』は、かつて世界を脅かした疎むべき存在として、400年経った今も人々の心に深く根付いている。
そして、今――恐れていた最悪の事態に私はいる。
前世を疎まれし魔女として生きた私ことハンナ・スカーレットは、その因果応報から捕われの身となった。
「お前が、あの伝説の破滅の魔女シャルナの生まれ変わりか。なるほど……前世とは言え、それでも『破滅の魔女』と言うにはあまりにかけ離れた容姿だな」
私を物珍しそうな目でじろじろ見ながらそう口にしたのは、フェリクス・ハーデン王太子殿下。
その隣には平民出身でありながらも『大聖女イリアス』の生まれ変わりという事で最近になってフェリクス王子の婚約者に選ばれた聖女アリス。
きっとこの美しい容姿と、大聖女イリアスの生まれ変わりという事が、フェリクス王子の自尊心をくすぐったのだろう。
元婚約者を処刑してまでして、フェリクス王子は聖女アリスを選んだ。
「えぇ。その通りです。間違いありません。この女から感じ取れる魔力は私がかつて魔女と対峙した時に感じたそれと全く同じです。まぁ、あの時のような強大さはありませんがね」
「…………」
床に膝を付き、2人の兵士によって取り押さえられる私を聖女アリスは嘲るような笑みを浮かべながら見下ろしている。
この状況下、幾ら私が忌々しく睨もうが、アリスのその勝ち誇った表情が崩れる事はない。
おそらく、私もフェリクス王子の元婚約者と同じ末路を辿るのだろう。 私はそう、死を覚悟した。
◎
400年前、当時の世界は国家間での覇権争いに混沌としていた。
いつまで経っても訪れる事のない世界平和。
そんな状況を憂いた女神様は争いを繰り返す愚かな人類へ裁きを下す意味合いで、私(前世の私)を使徒としてこの世界へ召喚した。
その時、私へ授けられた使命は軍事活動が特に盛んだった戦争国家3カ国を滅ぼす事。
ここで言う『戦争国家を滅ぼす』とは文字通り国を丸ごと破壊する事。無論、その時に犠牲になる命は計り知れない。
いくら女神様から受けた使命とはいえ、人間に憧れ、人間として生きる事を夢見ていた当時の私にそんな殺戮行為はどうしても出来なかった。
しかし、実際に戦争国家3カ国は何者かによって滅ぼされ、そしてその所為は私のものとされた。
国滅ぼしの濡れ衣を着せられた私は『破滅の魔女』と呼ばれ、疎まれ、仕舞いには大聖女イリアスによって討伐される事で私の前世での一生は終わった。
つまり、目の前の聖女アリスによって前世の私は殺されたのだ。
前世の私が死んでからのこの400年――『破滅の魔女』即ち私が悪で、『大聖女イリアス』は世界を悪から救った英雄。そう広く語り継がれてきたらしい。
私は今世こそ幸せになりたいと願い、もちろん前世が魔女だった事は秘密にしてきた。しかし、今こうしてバレてしまった。この先に待ち受ける運命は言うまでもない。
またしても、聖女アリス――大聖女イリアスによって私は死ぬらしい。
「……ふむ。」
依然として私の事をしげしげと見つめるフェリクス王子。その口から出る次なる言葉を聞く直前、私は息を飲み、天を仰ぎ目を瞑った。
瞬間、私の頭の中を駆け巡ったのは、私の夫――ヴィルドレット様とのほんの短い間の淡い思い出だった。
あれほどもう会わないと、一人で生きていくと、そう心に決めたはずなのに……。
どうして最期にこんな事考えてしまうかなぁ。
――来世、またヴィルドレット様と結婚したい――
私があの時、最期に願ったあの願い事は叶えられた。
人間として生まれ変わり、下級貴族の穏やかな家庭で生まれ育った私は今や孤独では無い。
優しい両親に妹思いの兄に恵まれ、今世の私はとても充実した日々を過ごしていた。でも、
前世の私――『破滅の魔女シャルナ』は、かつて世界を脅かした疎むべき存在として、400年経った今も人々の心に深く根付いている。
そして、今――恐れていた最悪の事態に私はいる。
前世を疎まれし魔女として生きた私ことハンナ・スカーレットは、その因果応報から捕われの身となった。
「お前が、あの伝説の破滅の魔女シャルナの生まれ変わりか。なるほど……前世とは言え、それでも『破滅の魔女』と言うにはあまりにかけ離れた容姿だな」
私を物珍しそうな目でじろじろ見ながらそう口にしたのは、フェリクス・ハーデン王太子殿下。
その隣には平民出身でありながらも『大聖女イリアス』の生まれ変わりという事で最近になってフェリクス王子の婚約者に選ばれた聖女アリス。
きっとこの美しい容姿と、大聖女イリアスの生まれ変わりという事が、フェリクス王子の自尊心をくすぐったのだろう。
元婚約者を処刑してまでして、フェリクス王子は聖女アリスを選んだ。
「えぇ。その通りです。間違いありません。この女から感じ取れる魔力は私がかつて魔女と対峙した時に感じたそれと全く同じです。まぁ、あの時のような強大さはありませんがね」
「…………」
床に膝を付き、2人の兵士によって取り押さえられる私を聖女アリスは嘲るような笑みを浮かべながら見下ろしている。
この状況下、幾ら私が忌々しく睨もうが、アリスのその勝ち誇った表情が崩れる事はない。
おそらく、私もフェリクス王子の元婚約者と同じ末路を辿るのだろう。 私はそう、死を覚悟した。
◎
400年前、当時の世界は国家間での覇権争いに混沌としていた。
いつまで経っても訪れる事のない世界平和。
そんな状況を憂いた女神様は争いを繰り返す愚かな人類へ裁きを下す意味合いで、私(前世の私)を使徒としてこの世界へ召喚した。
その時、私へ授けられた使命は軍事活動が特に盛んだった戦争国家3カ国を滅ぼす事。
ここで言う『戦争国家を滅ぼす』とは文字通り国を丸ごと破壊する事。無論、その時に犠牲になる命は計り知れない。
いくら女神様から受けた使命とはいえ、人間に憧れ、人間として生きる事を夢見ていた当時の私にそんな殺戮行為はどうしても出来なかった。
しかし、実際に戦争国家3カ国は何者かによって滅ぼされ、そしてその所為は私のものとされた。
国滅ぼしの濡れ衣を着せられた私は『破滅の魔女』と呼ばれ、疎まれ、仕舞いには大聖女イリアスによって討伐される事で私の前世での一生は終わった。
つまり、目の前の聖女アリスによって前世の私は殺されたのだ。
前世の私が死んでからのこの400年――『破滅の魔女』即ち私が悪で、『大聖女イリアス』は世界を悪から救った英雄。そう広く語り継がれてきたらしい。
私は今世こそ幸せになりたいと願い、もちろん前世が魔女だった事は秘密にしてきた。しかし、今こうしてバレてしまった。この先に待ち受ける運命は言うまでもない。
またしても、聖女アリス――大聖女イリアスによって私は死ぬらしい。
「……ふむ。」
依然として私の事をしげしげと見つめるフェリクス王子。その口から出る次なる言葉を聞く直前、私は息を飲み、天を仰ぎ目を瞑った。
瞬間、私の頭の中を駆け巡ったのは、私の夫――ヴィルドレット様とのほんの短い間の淡い思い出だった。
あれほどもう会わないと、一人で生きていくと、そう心に決めたはずなのに……。
どうして最期にこんな事考えてしまうかなぁ。
――来世、またヴィルドレット様と結婚したい――
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