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助けた理由

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彼はすぐに調理を始めた。俺もちょっぐらいは手伝おうとしたけど、「怪我人はねてろ!」と、肉を切っていた刃物を向けられてすぐに引き下がった。怖い...。
大人しく座っていたら、肉の焼けるいい匂いが、こっちまで漂ってきた。
食欲を刺激されて、喉がゴクリと鳴る

「いただきます!」
パシッと音がなるほど大げさに手を合わせて、一口。
彼は不思議そうな顔で「イタダキマス?」と首を傾げて繰り返したが、こちらに合わせてくれたのか、同じように手を合わせて、彼自身も食べ始める。

「おいしい!」
「・・・・どーも」
「特に肉がうまい、これなんの肉?」
「何かのとり」
「かすかに甘いけど、味付け何?」
「赤い木の実をすりつぶしたものと煮詰めてから、塩で」
「へー」

よくわからんけど、とにかくうまいな。本人も何使ってるのかいまいちわかってないぽいが。

こんな見知らぬ怪しい人物に怪我の手当てして、飯奢っちゃう器の広い、美人なお兄さん。
感謝でいっぱいだけど、疑問は残る。俺だったらこんな自分みたいな得体の知れない存在はガン無視するだろう。


「で、ノーチェはなんで俺を助けたの?」

食べながら聞くと、彼は静かに食器を置いた。
どうでもいいけど、彼の皿の周りには食べこぼしがだいぶ多い。食器の持ち方も危うくて、使いづらそうにしていたから、もしかしたら、いつもと違う食べ方なのかもしれない。

「俺は、前ここに住んでいた爺さんに任されて、森を守護してんだ」
「守護」

彼はうなづいて微かに頬を緩める。

「爺さんに、森に迷い込んできたやつには、腹一杯食わせて、無事に近くの街まで返す、それが森にすむ者の掟だって言われてきたんだよ」
「えーっと?、じゃあ俺を助けたのは、掟に従ったから、ってことであってる?」

詳しいことはよくわからんけど、つまり、彼は森の中で何かしらの役割があって、その役割を全うする上でのルールに則り、「義務で」助けた、ってことだろう。んでもって、俺はこの後、おそらく街に連れていかれる。
案の定彼はゆっくりとそれにうなずいた。

「街に着いたら、一番大きな建物に行けば故郷までの道教えてくれっから」

え、まじ?それって日本でも適用さんのかな?

「ノーチェさ、『日本』もしくは『東京』ってまち知ってる?」
「あ?にほん?どこだそれ」
「一応東の果てっていう認識をされているはず」
「俺はしらね。少なくともここら辺の地名じゃない」

まあだよね。感覚でしかないけどここは日本どころか地球でもないって俺思ってるし。

「お前、そんなに遠くから来たのかよ」
「遠いね。もしかしたらもう帰れないかもしれないぐらいには」
「・・・じゃあ、どうやってこの森に来たんだ」
「さあ?気づいたらいたんだよ」

ノーチェが俺を怪しむような目で睨んでくる。
嘘じゃない、と言ってみるが、彼は依然として俺を怪しい目で見てくるばかりだ。

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