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伝説の魔王の剣
第34話 参戦の約束
しおりを挟む「どうぞ遠慮なさらず活用してください。今回の旅で魔法士ギルドが得られた成果は計り知れませんので」
「守護者を倒したことと、三天神秘の情報以外にもあるんですか?」
「まずは魔法士ギルドが依頼されたクエストの達成ですね。依頼主から多額の報酬がギルドに入ります。次に夜の世界の情報です。夜の世界の人々が信じる神や世界の成り立ち、現魔王、魔族、ヤミビト、法術などの情報。これらはお金に換算できない価値があります。そして魔王の一族との友好関係の構築」
「……それ、僕のお陰なんですか?」
夜の世界のことはルルメが教えてくれたものだし、三天神秘の資料はファティマからの提供で、ルルメやファティマとの繋がりは旅の成り行きだ。
僕が居なくても結果は変わらないような……。
「はい。確実に」
手を止めることなく書物や紙に目を通し続けていたキセラの左側にあった資料が無くなり、テーブルの右側に山積みになっている。
「終わったの?」
キセラは僕の質問を肯定し、立ち上がって背筋を伸ばす。
今度はテーブル上の書物や紙を本棚に戻していく。
「私は今とても幸福です。未知の情報を頭の中に流し込む感覚は心地良いです。素晴らしい体験でした。資料の中にはメルギトスの日記もありました。彼女は『ドグマ』が欠けてしまってから新たな剣を欲しがっていました。そのために幾つもの古代遺跡を探索しています」
僕は昨晩ルルメが抜いた魔剣の傷ついた刀身を思い出していた。
メルギトスが大切な剣をメキア村に残したまま冒険に出ていたことが不思議だったけれど、剣が破損していたのであれば納得できる。
「それで、代わりの剣は見つかったんですか?」
「いいえ。結局これといったものは見つからなかったようですね。この地下室に多数の剣が保管されているのもその名残です。また日記にはこんな記述もありました。代わりが見つからないのなら、夜の世界で眠り続けている剣を迎えに行きたいと」
夜の世界に眠る剣?
まだ他にも夜の世界に『ドグマ』に並ぶ剣があるのだろうか。でも、迎えに行くという表現に違和感を感じる。
「さて、と。戻りましょう。朝食の準備をします」
「リュースたちは明け方まで飲んでましたけど、食べられるのかな……」
「シュルト様はルルメに付き添っていてお腹が空いてますよね? 私も空きました。食べられる人たちだけで食べましょう」
「それもそうですね」
◇ ◆ ◇
村の広場にルルメが立っていた。
メメを抱きかかえ、美しい単眼を晒ししたまま、ぼんやりと空を眺めている。
「ルルメ! 目が覚めたんですね!」
僕の言葉に優しく微笑むルルメ。
その表情は晴れやかだ。
「ご心配をおかけしました」
「いきなり倒れて驚きましたよ。具合はどうなの?」
ルルメは僕の足元で膝をつき、包み込むように抱きしめてくる。僕を抱きしめるルルメの服からは、日差しを十分に浴びた土の香りがする。
温かくて、懐かしい。
「ああ、シュルト。生きていて良かった……」
「ど、どうしたんですか急に? 僕は元気ですよ」
「……今日で皆さんとはお別れです。私は何日かメキア村に残り、それから夜の世界に帰ります」
そうか……。
ルルメとはここでお別れなのか。
「ルルメと出会えて、一緒に旅ができて良かったです」
「私もです。皆さんとの旅は、本当に楽しかったです。こちらの世界に来て、最初に皆さんに出会えたことは幸運でした。キセラも、ありがとうございました。あなたのお陰で、私は救われました」
キセラの魔法が無ければ、あの凄惨な未来をやり直すことはできなかった。時間が巻き戻らなければ、ルルメは永遠に後悔していたに違いない。
「また会いましょう、ルルメ」
腰を落として僕を抱きしめるルルメをさらに上から抱きしめるキセラ。キセラからは古い紙とインクの匂いがした。
「『ドグマ』を魔王に渡した後、ルルメはどうするんですか?」
「まずは私が眠っている間にあった出来事を知ろうと思います。その後は――もしも願いが叶うなら、私はこちらの世界で冒険者になります」
冒険者!?
メルギトスと同じ道……もしかして『天空の文殿』を目指すのだろうか。
「それは素敵です。そういえば、セラ様がルルメに依頼したいクエストがあると言っていました。見返りとしてこの世界の情報提供と冒険者登録をするための身元保証人になると。その時が来ましたら、是非ロドスタニアの魔法士ギルドにお越しください」
「私はあの人が嫌いです。特にそういう所が大嫌いです。ですが、キセラやシュルトがいる町なら行ってみたいです」
「魔法士ギルドには、ルルメにお願いしたいハイレベルのクエストが沢山あります」
「ふふ、私への依頼料は高いですよ」
「三天神秘の探索なんてどうですか?」
「それは非常に魅力的ですね」
未来の約束は希望に満ち溢れていて、胸が熱くなる。
この旅が終わっても。僕の旅は、ルルメの旅は、これからも続いていく。ルルメたちと次に会うときは、もっと成長した姿を見せたいな。
「私からもお願いがあります。『ネジマキ』との決戦の日に私を呼んでください。こちらの世界に干渉するつもりはなかったのですが気が変わりました」
「……本当にいいの?」
これまでのルルメは昼の世界にへの過度な関りを避けていた気がする。昼の世界のことは昼の世界の住人だけで解決すべき、そういう態度だった。
前に『ネジマキ』の話をした時も、興味はあるのに我慢しているようだった。
「私はこれからお世話になる世界に、恩を売っておきたいだけです。それにシュルトに何かあったら困りますし」
「ありがとう。ルルメが一緒に戦ってくれるなら心強いです」
この一晩で急速にルルメとの距離が縮まったような。
「しばらく会えなくなりますが、シュルトもゴーレム造りを頑張ってください。あなたなら世界を救うことができます」
――あなたは世界を救う。
いつだったか、リリアナに言われた言葉だ。
自分で口にすると脆く感じる言葉だけれど、信頼している人に言われると自信が湧いてくる。
「ワシも連れて行くのじゃ!」
下着姿のファティマが井戸の縁に立って腕を組み、高く飛びあがり、空中で回転して……着地に失敗して豪快に転ぶ。
「いたたたたた! 鼻! 鼻が!」
「……大丈夫?」
ファティマは赤くなった鼻を押さえながら、
「ワシも『ネジマキ』と戦いたいのじゃ! 一緒に連れて行くがよい!」
「いいです……けど、危険ですよ」
「そやつを放置しておったら、いずれこのメキア村にも来るのじゃろう? それなら戦力を集中して叩いた方が良いのじゃ」
言ってることは正しい。
ルルメが強すぎるせいで尺度が変になってしまったけれど、ファティマの強さは保障つきだ。大きな戦力になる。
それに魔法が効かない『ネジマキ』には、強靭な肉体を持つ2人は相性がいいように思える。
だけど、こんなに勝手に仲間を増やしてしまっていいのだろうか。
「いいですよね、キセラ」
念のため確認する。
「はい。もちろん」
握手を求めてくるファティマの手を握る。
「ありがとう、ファティマ。助かるよ」
「ワシとお主とは親戚みたいなものじゃ! 遠慮するでない!」
「親戚?」
「そうじゃ。ワシたちは遠い親戚かもしれん。昨晩も言ったじゃろ。ワシの名前は、ファティマ=ローレンツ。父様の名はアルバート=ローレンツ、母様は魔王メルギトスじゃ」
【彼女の魔法完成まであと317日】
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