27 / 40
伝説の魔王の剣
第26話 ファティマ
しおりを挟む「魔王の子ども……」
メルギトスに子どもがいたなんて、ルルメは知っているのだろうか。
「失礼いたしました。僕はロドスタニアの魔法士ギルドのセラ=メイネス様のご命令で、この村にある伝説の魔王の剣を抜きにきました」
まずは剣を見せて貰う予定だったけれど正直に切り出してみる
「なんじゃ、急に畏まらんでもよいぞ。セラ=メイネス? 知らんのう。魔剣ならあるが、抜かせてやることはできん」
「結界が解かれてしまうから?」
「ほう。そんなことまで知っているのか。じゃが、魔剣の結界はもうないぞ。いまの結界はワシが新しく張り直したものじゃからな」
それってつまり。
「ワシが抜いてこの部屋の地下に移動した。ここ数年、魔剣をこっそり抜きに来る輩が多くなっての。今は、ワシと勝負をして勝った者にだけに剣を抜く権利を与えることにしたのじゃ」
「勝負? ファティマと戦って勝てばいいんですか?」
「そうじゃ。これまでワシに勝てた者はいないがの。お主の仲間に、とんでもないヤツがいるじゃろ? ワシはその者と戦いたい」
「ルルメは、魔王メルギトスの妹です」
「なんと! 母様の妹とな。お主といい、今日はなんて日じゃ。この会話を聞いているのだろう? ルルメとやら、入ってくるがよい」
ドアが開き、ルルメが静かに入ってくる。
ファティマの前で立ち止まり、フードを外し、単眼を覆っている包帯を外す。
「……母様には似てないのう。美しい瞳じゃな」
「魔王メルギトス様は、私よりも遥かに美しく、遥かに強いお方でした。あなたはお姉様の生き写しのようで……泣いてしまいそうです、ファティマ様」
崩れ落ちるように両膝をつき、祈るように掌を合わせる。
ファティマは頭上のルルを抱きかかえ、ルルメと向かい合う。
「様などいらん。ファティマと呼ぶがよい」
「ではファティマ。大変申し上げにくいのですが、ここが夜の世界なら私はあなたを殺さなければならないところでした」
「ワシを殺す? なぜじゃ?」
「魔族とヒカリビトが契りを交わすことは禁忌とされています。お姉様は村人と一緒に、あなたを守っていたのですね」
「魔族側が母様を追放したと聞いているがの。母様は何百年も前に、この村のひとりの男を愛し、ワシが生まれた。それだけのことじゃ。父様は老いて死に、母様も死んでしまった。魔族の下らんルールで殺されては敵わん。ワシはこの先も、村長として村を守らねばならんのじゃ」
「……お姉様はどうしてこのメキア村に惹かれたのでしょうか」
「この村の人間の肌が、お主やワシのように浅黒い理由を知っているか? 各々が肌に染料を塗り込んでいるのじゃ。母様が肌の色を気にしないように同じ色に。それを最初に始めたのが、ワシの父様じゃ」
翼を失い、メキア村にたどり着いたメルギトス。
村人たちはその容姿から、すぐに魔族だと気づいたのかもしれない。でも、村人は行くあてのない彼女を温かく受け入れた。
大勢の村人がメルギトスに寄り添い、彼女を勇気づけた。そしてメルギトスは村を出て昼の世界の英雄となった。
「昼の世界は知らないことで溢れている。母様はこの世界の未知なるものに興味を持ち、特に三天神秘について目を輝かせながら語っておったぞ。母様は自分の力を余すことなく発揮できる、心躍る冒険がしたかったんじゃ」
「三天神秘?」
聞いたことがない。
「なんじゃ、知らんのか。『天外の梯子』『天空の文殿』『理の天秤』。これらの謎を解くのが母様の夢だと、よくワシ話してくれたぞ」
「……そうですか。強すぎるお姉様は、夜の世界の暮らしに飽きていたのかもしれませんね」
「母様の冒険好きのせいで、ワシは大変じゃったぞ。ほとんど家におらんし。お主らにはわかるまい。魔族との混血はゆっくりと年を取る。周りの者は老いて死んでいく。ワシだけが一人、生き続けているのじゃ。恥ずかしい話じゃが、昔はそのことでよく泣いていたのう」
周りの人たちが年を取り、姿も変化していく中で、自分だけが時間が止まったように変わらずにいる。
ファティマの苦悩は計り知れない。
「……あの、ファティマは、お姉様の最後を目の前で見ていたのでしょうか」
ルルメが眠っている間にメルギトスは魔王に殺された。
目覚めた後に魔王や魔族から聞いた話だと言っていたから、詳細までは聞いていないのかもしれない。
「最後とな?」
「お姉様は、現魔王に討たれたと聞いています。どのような状況で討たれたのか、ずっと気になっていて……」
「なんじゃ、お主はそのように聞いているのか?」
「違うのですか?」
「母様は魔王に討たれてなどおらぬ。そうじゃ! 勝負でワシに勝ったら真実を教えてやろう! ついでに魔剣も抜かせてやろう!」
魔剣を抜く話が『ついで』になってる……。
でも現魔王よりも強かったルルメが戦ってくれるなら、ファティマに負ける気はしない。
「いいでしょう。お姉様の娘がどれだけ強いのか、とても興味があります」
「シュルトよ。戦いの間、この子を預かっておいてくれぬか? ついでに勝負の立会いも頼む」
そう言って、ルルを名残惜しそうに渡してくるファティマ。
「これ僕の猫なんですけど……」
【彼女の魔法完成まであと319日】
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる