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第27話 殴られ、蹴り転がされ

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「体は大丈夫なのか?」

「驚かしちゃってごめんなさい。大丈夫だよ。いつもは倒れた後、何日も動けないんだけど今朝は調子がいいの」

 その言葉を裏付けるように、顔色も良く表情に疲れも出ていない。
 本当に無理をしているわけじゃないらしい。

「あれが、呪いなのか」

「そんな大げさなものじゃないけどね。ただの病気だよ。一生、治らないけど」

「そういう言い方するなよ……」

「桜居さん、あたしは病気で、この病気は一生治らない。事実は事実として受け止めているから、あたしはこうしていられるんだよ」

「……そうか」

「そんな顔しないで。あたしが一番つらいのは……同情されることなんだからね。あたしはあたしなんだから。病気だってことを知っただけで、桜居さんが変わっちゃうのはおかしいよ」

 返す言葉が見つからなかった。
 彩は慣れた手つきで味噌汁をお椀に注いでいく。
 俺はお椀を受け取って、テーブルに置く。数は2つ。

「沙夜、起こして来ようか」

「ううん。もう少し寝かせてあげて。お姉ちゃん、桜居さんが先に寝ちゃったって怒ってたよ」

「……沙夜が起きる前に散歩にでも行ってくるかな」

「朝ご飯を食べたらね」

 笑顔でそう言ってから俺を見て、

「あ、それより先に」

「うん?」

「お風呂を沸かしてあるから、入ってきたほうがいいよ。服、汚れちゃってるし」

 服一面に彩の血がついている。
 これは洗濯しても落ちないかもしれない。

 そんなことを考える一方で、俺は昨日のことを思い出していた。

 倒れている彩。
 床に広がる血。
 真っ赤な鮮血は床を伝い、玄関にまで零れ落ちていた。

 彩の頬は蒼白で、
 表情は苦痛に歪み、
 手足は小刻みに震えていた。

「どうしたの、桜居さん?」

「……」

「お味噌汁は戻してまた温めるから平気だよ」

「先に食べていていいぞ」

「ううん、待ってる」

「じゃあ急いで風呂に入ってくる。彩も昨日の昼から何も食べてないんだしな」

「うん。でも、急がなくていいよ」

「あっ、ゴーちゃんとシロちゃんにもご飯あげないと」

 俺は着替えを持って風呂場に向かう。

 そう言えば、
 二人が村を出ることになったら、500円やシロシロはどうするのだろうか。

 連れて行く?
 彩と沙夜はどこまで考えているのだろうか。村を出た後、さらにその後のこと──

「とりあえず」

 風呂に入るか。
 廊下を歩き、洗面所(兼脱衣所)に向かう。

 服を脱いで風呂場のドアを開けると──
 瞬間、この状況は、漫画やドラマとかの創作じゃなくて実際にあることなんだな──と思った。

 その直後、
 甲高い沙夜の悲鳴とともに、
 お湯を浴びせられ、
 風呂桶や石鹸やら色々なものを投げつけられ、
 殴られ、
 蹴り転がされ、
 最後に『死ね痴漢』と言われ、俺は全裸のまま廊下に放り出された。

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