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水無月
第二十一話
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甘く淫らな夢の中にいた。
これが夢だと判るのは、貴俊の顔が若々しく、見つめてくる瞳に劣情の炎が宿っていたからだ。待ちわびた男の首に腕を回して、唇を触れあわせて、舌を絡める。身体をまさぐる男の手は、少し性急で、胸の突起を無遠慮に摘ままれる。むず痒さに、思わず吐息が漏れた。その息さえも、奪い取られて、息ができない。
「……ぁ、……」
瞼を開くと、いつもの布団の中。薄暗い部屋は、やけに暑く湿気を帯びていた。トクトクと動悸は乱れ、じんわりと身体が火照っているのを感じる。
「真人、」
熱い吐息と共に、耳元で甘く掠れた声。驚いて振り返ると、至近距離の貴俊と目があった。夢の中の若々しい青年は、しっとりと年を重ねて「ここ」にいる。背後から身体を密着され、シャツの中の手は、胸の突起を摘まんでいる。
「……ぁ、なに、……」
腹の奥底に熱が溜まる。下着を下げられ、布団の中でペニスを扱かれていることに気づくのに、少しの時間を要した。男の手は、明確な意思を持って、俺の身体を追い込もうとする。
「急に、どうしたんだよ……」
ペニスを弄ぶ手に、手を重ねた。
「俺とするの、イヤか?」
暗闇の中、貴俊の瞳は、どこか憂いを帯びた色をしている。
「…………イヤじゃない、けど、」
「けど?」
乾いた唇で、噛み付くようにキスされる。それだけで、頭の中は霧がかかって思考がまとまらない。口内を舌で愛撫され、喉の奥を擦られれば、ぎゅんと下腹に血が巡る。重ねた手を煩わしそうに払われて、既に固くなったペニスを男の指でなぞられる。
「……は、……ぁ、」
何度誘っても、応じてくれなかったのに、どうして今夜なのだろう。貴俊に触れられると、それだけで、身体が悦んでしまう。
「感じるか?」
男の瞳は、熱く潤んでいる。小さく頷くと、男の口角はやんわりと持ち上がった。
互いの下着をずり下げて、ペニス同士を擦り合わせながら手で扱く。滾る男の熱や固さを感じて、内股が震えた。男の肩口に顔を埋めれば、貴俊の体臭で肺が満たされる。男の唸るような息遣いに、吐息が漏れる。
「ぁ、ダメ、も、……」
先走りが滴り、身体の奥から悦楽が登り詰め、解放を求めて扱く手に力が入る。
「待って、バックはダメだよ、」
不意に男の手が臀部に触れ、割れ目を探っていることに気づいて、顔をあげた。貴俊は、瞬きを二回した。
「準備……していないから、」
洗っていない身体も、長く閉じたままのアナルも、何もかもが不安を掻き立てる。抱かれることを期待して、自ら準備していた夜は、既に遠いものであった。
「わかった」
貴俊は、そっと身を引いて、起き上がる。このまま終わってしまう気配に、咄嗟に腕を掴んでいた。
「あのさ、明日の夜なら……」
「無理しなくていいよ」
けれど、彼は優しく拒絶する。
「無理なんか、していないよ。俺はしたいよ。ずっと、したかったよ」
秘めた想いが堰を切る。
「口でしようか?」
男の硬度の落ちたペニスに触れる。ねっとりと舌を這わせて、上目遣いで見上げた。こんなに必死に男に縋りついている自分が、あまりにも滑稽で笑いが込み上げる。
「やめてくれ、」
男は腰を引き、俺の肩を押し退けた。こちらを見ようともせずに、手早く下着を引き上げる。
「貴俊、待って、まだ、……」
「おやすみ」
貴俊は目尻の辺りにキスをして、軽く頭をポンポンと撫でた。そうして、足早に部屋から出ていってしまう。ギシギシと階段の軋む音を聞きながら、唖然と布団の上で座り込む。部屋に残されたのは、劣情を持て余した浅ましい身体だけ。
「…………眠れるわけ、ないだろ、」
沸き上がる怒りを込めて投げた枕が、閉じた扉にぶつかって、ずるりと滑り落ちていった。
これが夢だと判るのは、貴俊の顔が若々しく、見つめてくる瞳に劣情の炎が宿っていたからだ。待ちわびた男の首に腕を回して、唇を触れあわせて、舌を絡める。身体をまさぐる男の手は、少し性急で、胸の突起を無遠慮に摘ままれる。むず痒さに、思わず吐息が漏れた。その息さえも、奪い取られて、息ができない。
「……ぁ、……」
瞼を開くと、いつもの布団の中。薄暗い部屋は、やけに暑く湿気を帯びていた。トクトクと動悸は乱れ、じんわりと身体が火照っているのを感じる。
「真人、」
熱い吐息と共に、耳元で甘く掠れた声。驚いて振り返ると、至近距離の貴俊と目があった。夢の中の若々しい青年は、しっとりと年を重ねて「ここ」にいる。背後から身体を密着され、シャツの中の手は、胸の突起を摘まんでいる。
「……ぁ、なに、……」
腹の奥底に熱が溜まる。下着を下げられ、布団の中でペニスを扱かれていることに気づくのに、少しの時間を要した。男の手は、明確な意思を持って、俺の身体を追い込もうとする。
「急に、どうしたんだよ……」
ペニスを弄ぶ手に、手を重ねた。
「俺とするの、イヤか?」
暗闇の中、貴俊の瞳は、どこか憂いを帯びた色をしている。
「…………イヤじゃない、けど、」
「けど?」
乾いた唇で、噛み付くようにキスされる。それだけで、頭の中は霧がかかって思考がまとまらない。口内を舌で愛撫され、喉の奥を擦られれば、ぎゅんと下腹に血が巡る。重ねた手を煩わしそうに払われて、既に固くなったペニスを男の指でなぞられる。
「……は、……ぁ、」
何度誘っても、応じてくれなかったのに、どうして今夜なのだろう。貴俊に触れられると、それだけで、身体が悦んでしまう。
「感じるか?」
男の瞳は、熱く潤んでいる。小さく頷くと、男の口角はやんわりと持ち上がった。
互いの下着をずり下げて、ペニス同士を擦り合わせながら手で扱く。滾る男の熱や固さを感じて、内股が震えた。男の肩口に顔を埋めれば、貴俊の体臭で肺が満たされる。男の唸るような息遣いに、吐息が漏れる。
「ぁ、ダメ、も、……」
先走りが滴り、身体の奥から悦楽が登り詰め、解放を求めて扱く手に力が入る。
「待って、バックはダメだよ、」
不意に男の手が臀部に触れ、割れ目を探っていることに気づいて、顔をあげた。貴俊は、瞬きを二回した。
「準備……していないから、」
洗っていない身体も、長く閉じたままのアナルも、何もかもが不安を掻き立てる。抱かれることを期待して、自ら準備していた夜は、既に遠いものであった。
「わかった」
貴俊は、そっと身を引いて、起き上がる。このまま終わってしまう気配に、咄嗟に腕を掴んでいた。
「あのさ、明日の夜なら……」
「無理しなくていいよ」
けれど、彼は優しく拒絶する。
「無理なんか、していないよ。俺はしたいよ。ずっと、したかったよ」
秘めた想いが堰を切る。
「口でしようか?」
男の硬度の落ちたペニスに触れる。ねっとりと舌を這わせて、上目遣いで見上げた。こんなに必死に男に縋りついている自分が、あまりにも滑稽で笑いが込み上げる。
「やめてくれ、」
男は腰を引き、俺の肩を押し退けた。こちらを見ようともせずに、手早く下着を引き上げる。
「貴俊、待って、まだ、……」
「おやすみ」
貴俊は目尻の辺りにキスをして、軽く頭をポンポンと撫でた。そうして、足早に部屋から出ていってしまう。ギシギシと階段の軋む音を聞きながら、唖然と布団の上で座り込む。部屋に残されたのは、劣情を持て余した浅ましい身体だけ。
「…………眠れるわけ、ないだろ、」
沸き上がる怒りを込めて投げた枕が、閉じた扉にぶつかって、ずるりと滑り落ちていった。
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