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11月6日(火)

第1話

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 電車の窓から見える街並みはハロウィンから、クリスマスへと装いを代えていた。まだ秋の暮れだというのに、年の瀬が一気に近づいたようで、乗り合わせた人々も、どこか気が急いているように見えた。それでも、ワーカーホリックを自覚しているサラリーマンには、イベント事も縁遠く、季節を感じる余裕もないままに、平坦な日常を繰り返し続けている。

 今朝も始業時間より一時間早く会社のビルに到着し、セキュリティカードをかざしてゲートを通過した。エレベーターで五階に向かい、第2設計室の扉の前で、首から下げたストラップつきの社員証で扉のロックを解除する。
 殺風景なフロアには、二つのディスクの島が存在した。島から外れた奥の中央に位置する役職席は、週に二度、顔をみせるマネージャーの席。俺の席は、右の島。マネージャーと一番近い場所が定位置になっている。

 出社してからはお決まりのルーティン。コーヒーを片手に、メールチェックから始めて、今日の予定を確認する。ディスプレイの端に貼った「やること」の付箋を優先順位が高い順に並び替えながら、今日一日の仕事の配分を頭の中でイメージする。
 そうこうしているうちに、他の社員たちも出社が完了し、始業開始のチャイムが鳴った。

「じゃあ、ミーティングを始めようか」

 朝のミーティングでは、メンバーの作業状況を口頭で確認する。
 新人の有沢がやや遅れていることが気になって、原因を訊ねてみれば、障害調査が難航しており、進捗が停滞していることが判明した。彼女一人では、自力で障害を解決するのは難しいと判断して、一旦、俺が預かることにする。その他は、細々とした課題はあるものの、おおむね順調そうで安堵した。

 ミーティングの後に、有沢から不具合の内容とオペレーションを聞き取りながら、ソースコードをざっと流し読んだ。けれど、有沢がプログラミングした部分には特に問題は見当たらない。少し観点を変えて、開発中のシステムと繋がっている別のソフトウェアの設定を確認すれば、そちらの方にどうやら原因がありそうだった。

「そうだな。ここは基盤担当の佐々木くんに設定を確認してもらうといいよ」
「すみません。お手数おかけしました」

 有沢は恐縮して、手にしている資料をぎゅっと握りしめた。

「いいや、大丈夫だよ。まあ、次からは解らないことがあったら抱え込まないようにしてほしいかな。気軽に俺に相談してくれてもいいから。解決のヒントぐらいなら教えてあげられるかもしれないし」
「はい」
「まあ、でも、新人でここまで調べられたのはスゴいよ。粘り強いのは君のいいところだね」

 下手に気落ちされても困るので、笑顔で伝えると、有沢も安堵したように息を吐いた。「ありがとうございました」とぺこりと可愛らしく頭を下げて、自席に戻っていく。

「瀬川さんって、女性には優しいですよね」

 斜め向かいの席から、小声で話しかけられる。

「えー? みんなに優しいと思うけどな」
「俺の時は『自分でなんとかしろよ』って突き放してましたよ」 
「それは、あれだよ。矢口くんなら自力で出来るって信じてるから」
「本当ですか?」

 スねた言葉とは裏腹に、矢口の口調は楽し気だったので、思わず調子を合わせてしまう。

「本当だよ。俺は矢口くんのこと信頼してるからね」
「まったく、そうやってすぐ誤魔化すんですから」
「バレたか」

 矢口がくすぐったそうに笑うものだから、こちらも釣られて笑ってしまった。


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