42 / 168
狼の遊戯
第42幕
しおりを挟む
運命の番とは、魂が共鳴し合う程に惹かれ合ったアルファとオメガが番になることである。
世の全てのアルファとオメガが「運命の番」に巡り会えるわけではない。それは「奇跡」と呼ぶに相応しい程には、稀な出会いと呼べるだろう。
それは、長い歴史の上では、甘く美しい「運命」として語られてきた。
毒々しい赤い照明が灯る地下室が、博己と薫の逢い引きに使われる舞台であった。
窓もなく湿気が充満した部屋は、陰鬱として、かび臭い。
博己は、地下室に招き入れた薫の姿に小さく眉を曇らせた。雨に濡れたパーカーを着込み、背中を丸めている男は、酷く辛気臭く、如何にも被虐者らしい惨めさがあった。博己は、ベッドの前で硬直している薫に、顎で指示をした。けれど、薫の反応は鈍い。博己が苛立ちの色を匂わせた瞬間、薫は、おずおずと上着のポケットから小さな筒状のモノを取り出した。
博己は片眉を上げた。
「……あの、殺精子剤、です、」
薫の言葉に、博己はきつく眉を歪めた。その仕草一つに薫はびくりと肩を揺らした。アフターピルの入手経路を断たれた薫は、博己に別の避妊方法の了承を得ようとした。けれど、神崎家の事情など、博己が推し測るはずもない。博己に避妊の協力などを求めるのは、やはり煩わしく思われたに違いなく、薫は怯えたように言葉を震わせた。
「……やっぱり、」
薫は前言を撤回するように、殺精子剤の容器をポケットに戻して俯いた。
「自分で入れてみろよ」
けれど、博己は鼻で笑うように薫に言いつけた。薫が窺うように上目遣いで博己を見上げれば、博己は嘲笑を浮かべている。薫は怯えたように頷いて、震えるような手つきで衣服を脱ぎ去っていく。
博己は麗しい顔に似つかわしくない陰鬱な笑みを浮かべながら、判然としない屈辱感に堪えていた。
博己は薫を伴侶にするつもりはない。それでも、博己は薫は自分との間に子を宿すかどうかは、薫に選択の余地を残していた。隙など有る筈もない結城博己にとって、それは、彼自身にも認識できない程の、ほんの一握りの薫との未来への可能性であった。
そして、愚かな薫は、博己の子を孕むつもりはないのだと、博己に避妊薬を突きつけてしまった。
絶対的な支配者である博己の痛みなど、従属者の薫には知りようもない。衣服を全て脱ぎ去り、黒い首輪だけを身に付けた憐れなオメガは、ベッドに四つん這いになって頭を下げた。物覚えの悪い駄犬らしく、臀部や内腿には躾痕が幾つも残る。薫は、少し恥じらいながらも、自らのアナルに小さな白い錠剤を押し込んでいく。薫の体内の熱で溶け出す薬は、しゅわゅわと発泡しながら液体となる。
「……ん、……ひ、……」
薫は自分の指を咥え込んだまま、悩ましげに身を捩った。その光景は、自慰行為に耽るような卑猥さで、発情した雌犬のようだった。淫乱なオメガの醜態に、冷徹なアルファは加虐欲を煽られる。
「あ、い、いや、」
博己は枕元に転がる筒状の容器から、丸い薬剤を取り出すと、薫の濡れた穴にゆっくりと差し込んでいった。博己は薫の熱い体内で個体が溶け出していく感触を指先で愉しみながら、喉の奥で小さく笑った。
「たくさん入れた方が効果あるんじゃないのか?」
「……あ、……」
一錠で十分な効果があったが、博己は愉快な遊びを思い付いたかのように五個も六個も挿入していく。しゅわしゅわと音を立てるように熱を持って溶けていく粘液は、博己の指が抜けると、ひくつく穴から溢れてシーツを汚した。
博己はベッドに腰かけて、着ていたズボンの前を開らき、勃ち上がりかけたぺニスを引き出した。背後の薫に目配せすれば、薫は四つん這いのまま、博己の膝に手を添えて、媚びるように博己を見上げながらぺニスに舌を這わせた。熱くねっとりと絡み付く舌の愛撫に、博己は満足そうに深く息を吐き出した。
「もういい、」
薫は愛しそうに博己のぺニスを口内で愛撫していたが、博己の冷たい制止で名残惜しげに唇を離した。博己のぺニスは固く立ち上がり、薫の唾液で濡れそぼっていた。
「早くしろよ、」
言われるままに、薫は博己の腰に股がって、ぺニスを手で支えながらアナルに宛がった。締まりの悪い穴からはとろりと、博己の精子を殺すための液体が流れ落ちる。博己は無感動に、その卑猥な光景を眺めた。
薫は博己の肩に手を添えて、ゆっくりと腰を落としていった。博己の亀頭が薫のアナルに飲み込まれていく。
「あ、あ、……ッ」
薫は背中を仰け反らして、喘いだ。博己を拒否する腟から、鋭く冷たい刃が心臓を刺しにくる。額からは脂汗が吹き出して、耐え難い苦痛と快楽に顔を歪めた。それでも、薫は博己を受け入れようと震えながら、腰を落としていく。熱く熟れて蠢く肉壁に、博己は小さく呻きながら、身を捩って喘ぐ薫を眺める。内股を痙攣させて動きを止めたオメガに焦れたように、博己は下から腰を打ち付けた。
「あ、ああーーーッ」
博己は、衝撃に仰け反って崩れ落ちそうな肢体を支えた。細身の腰を掴んで博己は薫の奥底の子宮を抉るように突き上げた。
「ひ、あ、あ、あ……」
薫は懸命に腰を捩らせて、博己は悪戯に腰を打ち付ける。ぐちゅぐちゅと薬液と愛液が混ざり合い、膣から粘液が止めどなく溢れて室内に卑猥な音が響いて反響する。
そうして、薫のうなじから、ふわりと甘い香りが放たれた。博己は淫乱な薫の姿に虚無感を募らせながらも、瞳には赤い光が差し込んで、獣の衝動を尖らせていった。
世の全てのアルファとオメガが「運命の番」に巡り会えるわけではない。それは「奇跡」と呼ぶに相応しい程には、稀な出会いと呼べるだろう。
それは、長い歴史の上では、甘く美しい「運命」として語られてきた。
毒々しい赤い照明が灯る地下室が、博己と薫の逢い引きに使われる舞台であった。
窓もなく湿気が充満した部屋は、陰鬱として、かび臭い。
博己は、地下室に招き入れた薫の姿に小さく眉を曇らせた。雨に濡れたパーカーを着込み、背中を丸めている男は、酷く辛気臭く、如何にも被虐者らしい惨めさがあった。博己は、ベッドの前で硬直している薫に、顎で指示をした。けれど、薫の反応は鈍い。博己が苛立ちの色を匂わせた瞬間、薫は、おずおずと上着のポケットから小さな筒状のモノを取り出した。
博己は片眉を上げた。
「……あの、殺精子剤、です、」
薫の言葉に、博己はきつく眉を歪めた。その仕草一つに薫はびくりと肩を揺らした。アフターピルの入手経路を断たれた薫は、博己に別の避妊方法の了承を得ようとした。けれど、神崎家の事情など、博己が推し測るはずもない。博己に避妊の協力などを求めるのは、やはり煩わしく思われたに違いなく、薫は怯えたように言葉を震わせた。
「……やっぱり、」
薫は前言を撤回するように、殺精子剤の容器をポケットに戻して俯いた。
「自分で入れてみろよ」
けれど、博己は鼻で笑うように薫に言いつけた。薫が窺うように上目遣いで博己を見上げれば、博己は嘲笑を浮かべている。薫は怯えたように頷いて、震えるような手つきで衣服を脱ぎ去っていく。
博己は麗しい顔に似つかわしくない陰鬱な笑みを浮かべながら、判然としない屈辱感に堪えていた。
博己は薫を伴侶にするつもりはない。それでも、博己は薫は自分との間に子を宿すかどうかは、薫に選択の余地を残していた。隙など有る筈もない結城博己にとって、それは、彼自身にも認識できない程の、ほんの一握りの薫との未来への可能性であった。
そして、愚かな薫は、博己の子を孕むつもりはないのだと、博己に避妊薬を突きつけてしまった。
絶対的な支配者である博己の痛みなど、従属者の薫には知りようもない。衣服を全て脱ぎ去り、黒い首輪だけを身に付けた憐れなオメガは、ベッドに四つん這いになって頭を下げた。物覚えの悪い駄犬らしく、臀部や内腿には躾痕が幾つも残る。薫は、少し恥じらいながらも、自らのアナルに小さな白い錠剤を押し込んでいく。薫の体内の熱で溶け出す薬は、しゅわゅわと発泡しながら液体となる。
「……ん、……ひ、……」
薫は自分の指を咥え込んだまま、悩ましげに身を捩った。その光景は、自慰行為に耽るような卑猥さで、発情した雌犬のようだった。淫乱なオメガの醜態に、冷徹なアルファは加虐欲を煽られる。
「あ、い、いや、」
博己は枕元に転がる筒状の容器から、丸い薬剤を取り出すと、薫の濡れた穴にゆっくりと差し込んでいった。博己は薫の熱い体内で個体が溶け出していく感触を指先で愉しみながら、喉の奥で小さく笑った。
「たくさん入れた方が効果あるんじゃないのか?」
「……あ、……」
一錠で十分な効果があったが、博己は愉快な遊びを思い付いたかのように五個も六個も挿入していく。しゅわしゅわと音を立てるように熱を持って溶けていく粘液は、博己の指が抜けると、ひくつく穴から溢れてシーツを汚した。
博己はベッドに腰かけて、着ていたズボンの前を開らき、勃ち上がりかけたぺニスを引き出した。背後の薫に目配せすれば、薫は四つん這いのまま、博己の膝に手を添えて、媚びるように博己を見上げながらぺニスに舌を這わせた。熱くねっとりと絡み付く舌の愛撫に、博己は満足そうに深く息を吐き出した。
「もういい、」
薫は愛しそうに博己のぺニスを口内で愛撫していたが、博己の冷たい制止で名残惜しげに唇を離した。博己のぺニスは固く立ち上がり、薫の唾液で濡れそぼっていた。
「早くしろよ、」
言われるままに、薫は博己の腰に股がって、ぺニスを手で支えながらアナルに宛がった。締まりの悪い穴からはとろりと、博己の精子を殺すための液体が流れ落ちる。博己は無感動に、その卑猥な光景を眺めた。
薫は博己の肩に手を添えて、ゆっくりと腰を落としていった。博己の亀頭が薫のアナルに飲み込まれていく。
「あ、あ、……ッ」
薫は背中を仰け反らして、喘いだ。博己を拒否する腟から、鋭く冷たい刃が心臓を刺しにくる。額からは脂汗が吹き出して、耐え難い苦痛と快楽に顔を歪めた。それでも、薫は博己を受け入れようと震えながら、腰を落としていく。熱く熟れて蠢く肉壁に、博己は小さく呻きながら、身を捩って喘ぐ薫を眺める。内股を痙攣させて動きを止めたオメガに焦れたように、博己は下から腰を打ち付けた。
「あ、ああーーーッ」
博己は、衝撃に仰け反って崩れ落ちそうな肢体を支えた。細身の腰を掴んで博己は薫の奥底の子宮を抉るように突き上げた。
「ひ、あ、あ、あ……」
薫は懸命に腰を捩らせて、博己は悪戯に腰を打ち付ける。ぐちゅぐちゅと薬液と愛液が混ざり合い、膣から粘液が止めどなく溢れて室内に卑猥な音が響いて反響する。
そうして、薫のうなじから、ふわりと甘い香りが放たれた。博己は淫乱な薫の姿に虚無感を募らせながらも、瞳には赤い光が差し込んで、獣の衝動を尖らせていった。
10
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説
変異型Ωは鉄壁の貞操
田中 乃那加
BL
変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。
男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。
もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。
奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。
だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。
ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。
それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。
当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。
抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる