上 下
15 / 168
制裁の舞台

第15幕

しおりを挟む
「薫」

 隼人は切なげに、想い人の名を呼んだ。好きだとか、愛しているだとか、そんな言葉を囁く資格もなく、隼人は、ただ、薫の名を口にした。
 四つん這いで、顔をシーツに擦り寄せ、薫は唇を噛み締める。隼人の二本の指は、オメガの雌の穴をじっくりと解かすように挿入され、絡みつくような濡れた熱い肉壁の中を出し入れした。すでに愛液は溢れ返り、ぐちゅりぐちゅりと淫らな水音が、薫の羞恥心を刺激した。

「ん、あ、……」

 薫は与えられる甘い快楽に身悶えながら、喘ぎ声を必死に抑えていた。そうしていると、ますます身体は快楽の逃げ場を失って、薫の中に淫らな愛欲が暴れるように渦巻いていく。心臓は冷えて、嫌悪感に冷や汗が溢れる。その汗は艶かしく白い肌を濡らして、より扇情的に男を煽ってしまう。 薫は快楽をねだるように、肢体を捩り、物欲しそうに腰を揺らした。

「薫、挿れるよ、」

 十分すぎる程に蕩けさせた膣の中に、隼人はコンドームを付けた滾ったペニスをゆっくりと挿入する。淫らに絡み付く熱い肉壁は、悦んで男を迎え入れた。

「あ、ああぁッ」

 待ち望んだ悦楽と耐え難い苦痛に、堪らず薫は艶やかな鳴き声を上げ、背中を反り返す。それから全身を震わせてシーツに沈んでいった。隼人は薫の背中を撫で、吸い付くようなその肌に口付ける。
 博己は、薫の甘い喘ぎ声に我に返り、床に広げた薫の宝物を箱に詰め戻して、蓋をした。博己のやるべきことは完了し、机の引出しを閉めると、まるで何事もなかったかのように優雅に立ち上がった。

 窓の外で、雲が動いた。月明かりが、強く差し込み、不意に黒い首輪が妖しく光った。薫が震える度に、首輪の下に隠しきれない、歯形がちらつき、隼人を混乱させた。

 薫には、やはり番がいるのだろうか。

 番がいるならば、フェロモンの質は変化して、番以外の男を誘惑するはずはない。けれど、甘いフェロモンは相変わらず、薫のうなじから沸き立ち、ベータの隼人ですら、こうして熱く滾らせている。

 隼人は、ゆっくりと、深く腰を打ち付ける。腰を突く度に、薫はびくりと腰を揺らし、隼人のペニスを更に奥へと導くように肉壁が締め上げた。隼人は、堪らず熱い溜め息を吐きながら、薫の熱い体内を、じっくりと味わった。そうしていると、理性的な思考は鈍っていき、雄の本能だけが尖っていく。
 既に手遅れであっても、薫はシーツを噛み締めて、喘ぎ声を漏らさぬように必死に耐えた。頬は悦楽に上気し、熱い涙が頬を伝う。余りにも鬱っぽく、淫らで、美しい。

 隼人は、額から流れる汗を拭おうと、前髪をかきあげた。そうして、視線を僅かに上にあげると、薫の学習机の前に佇む男の存在に気がついた。

 この愛の営みは、あの暴君の道楽の見世物である。

 現実を思い出し、隼人は苦痛に顔を歪めた。隼人はゆっくりと腰を打ち付けながらも、この淫らなショーを強要した支配者を、鋭い眼光で睨み付けた。

 博己は、下等なベータの取るに足らない些細な抵抗に可笑しそうに笑う。博己の悠然とした表情に、隼人はハッとして、こんな僅かな抵抗しかできない自分に、底知れぬ無力さを感じ、恥じ入るように目を伏せたのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壊れた番の直し方

おはぎのあんこ
BL
Ωである栗栖灯(くりす あかり)は訳もわからず、山の中の邸宅の檻に入れられ、複数のαと性行為をする。 顔に火傷をしたΩの男の指示のままに…… やがて、灯は真実を知る。 火傷のΩの男の正体は、2年前に死んだはずの元番だったのだ。 番が解消されたのは響一郎が死んだからではなく、Ωの体に変わっていたからだった。 ある理由でαからΩになった元番の男、上天神響一郎(かみてんじん きょういちろう)と灯は暮らし始める。 しかし、2年前とは色々なことが違っている。 そのため、灯と険悪な雰囲気になることも… それでも、2人はαとΩとは違う、2人の関係を深めていく。 発情期のときには、お互いに慰め合う。 灯は響一郎を抱くことで、見たことのない一面を知る。 日本にいれば、2人は敵対者に追われる運命… 2人は安住の地を探す。 ☆前半はホラー風味、中盤〜後半は壊れた番である2人の関係修復メインの地味な話になります。 注意点 ①序盤、主人公が元番ではないαたちとセックスします。元番の男も、別の女とセックスします ②レイプ、近親相姦の描写があります ③リバ描写があります ④独自解釈ありのオメガバースです。薬でα→Ωの性転換ができる世界観です。 表紙のイラストは、なと様(@tatatatawawawaw)に描いていただきました。

運命の番と別れる方法

ivy
BL
運命の番と一緒に暮らす大学生の三葉。 けれどその相手はだらしなくどうしょうもないクズ男。 浮気され、開き直る相手に三葉は別れを決意するが番ってしまった相手とどうすれば別れられるのか悩む。 そんな時にとんでもない事件が起こり・・。

弟の性奴隷だった俺がαに飼い馴らされるまで

あさじなぎ@小説&漫画配信
BL
α×β。 俺は雷を操る力を持っているため、子供の頃から家電製品を壊してきた。 その為親に疎まれて育った俺、緋彩は、高校進学時から家を出て、父方の祖父母が住んでいた空き家にひとり暮らししている。 そんな俺を溺愛する、双子の弟、蒼也との歪んだ関係に苦しみながら、俺は大学生になった。 力を防ぐ為にいつもしている黒い革手袋。その事に興味を持って話しかけてきた浅木奏の存在により、俺の生活は変わりだす。 彼は恋人役をやろうかと言い出してた。 弟を遠ざけるため俺はその申し出をうけ、トラウマと戦いながら奏さんと付き合っていく。 ※最初から近親相姦あり ※攻めはふたりいる 地雷多めだと思う ムーンライトノベルズにも載せてます

目が覚めたらαのアイドルだった

アシタカ
BL
高校教師だった。 三十路も半ば、彼女はいなかったが平凡で良い人生を送っていた。 ある真夏の日、倒れてから俺の人生は平凡なんかじゃなくなった__ オメガバースの世界?! 俺がアイドル?! しかもメンバーからめちゃくちゃ構われるんだけど、 俺ら全員αだよな?! 「大好きだよ♡」 「お前のコーディネートは、俺が一生してやるよ。」 「ずっと俺が守ってあげるよ。リーダーだもん。」 ____ (※以下の内容は本編に関係あったりなかったり) ____ ドラマCD化もされた今話題のBL漫画! 『トップアイドル目指してます!』 主人公の成宮麟太郎(β)が所属するグループ"SCREAM(スクリーム)"。 そんな俺らの(社長が勝手に決めた)ライバルは、"2人組"のトップアイドルユニット"Opera(オペラ)"。 持ち前のポジティブで乗り切る麟太郎の前に、そんなトップアイドルの1人がレギュラーを務める番組に出させてもらい……? 「面白いね。本当にトップアイドルになれると思ってるの?」 憧れのトップアイドルからの厳しい言葉と現実…… だけどたまに優しくて? 「そんなに危なっかしくて…怪我でもしたらどうする。全く、ほっとけないな…」 先輩、その笑顔を俺に見せていいんですか?! ____ 『続!トップアイドル目指してます!』 憧れの人との仲が深まり、最近仕事も増えてきた! 言葉にはしてないけど、俺たち恋人ってことなのかな? なんて幸せ真っ只中!暗雲が立ち込める?! 「何で何で何で???何でお前らは笑ってられるの?あいつのこと忘れて?過去の話にして終わりってか?ふざけんじゃねぇぞ!!!こんなβなんかとつるんでるから!!」 誰?!え?先輩のグループの元メンバー? いやいやいや変わり過ぎでしょ!! ーーーーーーーーーー 亀更新中、頑張ります。

螺旋の中の欠片

琴葉
BL
※オメガバース設定注意!男性妊娠出産等出て来ます※親の借金から人買いに売られてしまったオメガの澪。売られた先は大きな屋敷で、しかも年下の子供アルファ。澪は彼の愛人か愛玩具になるために売られて来たのだが…。同じ時間を共有するにつれ、澪にはある感情が芽生えていく。★6月より毎週金曜更新予定(予定外更新有り)★

Decay

海棠 楓
BL
吸血鬼とアンドロイド。長過ぎる人生に嫌気がさしながら、残されることにうんざりしているふたりが、身を寄せ合って、それでもまだ、生きている。 遺してゆくもの、遺されるもののおはなし

ひとりぼっちの180日

あこ
BL
付き合いだしたのは高校の時。 何かと不便な場所にあった、全寮制男子高校時代だ。 篠原茜は、その学園の想像を遥かに超えた風習に驚いたものの、順調な滑り出しで学園生活を始めた。 二年目からは学園生活を楽しみ始め、その矢先、田村ツトムから猛アピールを受け始める。 いつの間にか絆されて、二年次夏休みを前に二人は付き合い始めた。 ▷ よくある?王道全寮制男子校を卒業したキャラクターばっかり。 ▷ 綺麗系な受けは学園時代保健室の天使なんて言われてた。 ▷ 攻めはスポーツマン。 ▶︎ タグがネタバレ状態かもしれません。 ▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

安心快適!監禁生活

キザキ ケイ
BL
ぼくは監禁されている。痛みも苦しみもないこの安全な部屋に────。   気がつくと知らない部屋にいたオメガの御影。 部屋の主であるアルファの響己は優しくて、親切で、なんの役にも立たない御影をたくさん甘やかしてくれる。 どうしてこんなに良くしてくれるんだろう。ふしぎに思いながらも、少しずつ平穏な生活に馴染んでいく御影が、幸せになるまでのお話。

処理中です...