その転校生、実は許嫁です

紙城香月

文字の大きさ
上 下
2 / 6
プロローグ

しおりを挟む
───ピンポーン、ピンポーン。

 玄関のチャイムの甲高い音が家中に響き渡る。
 こんな朝早くから誰だろうか。

「お届け物でーす。こちらにサインお願いします」
「はい」

 届いたのは様々な重量の段ボールだった。
 一体なにが届いたのだろうか。
 とりあえず一つ開けて中身を取り出してみる。
 中から出てきたのは一枚の小さな布──もとい女性用の下着だった。

「な…!?」

 なんで女性のパンツが!?
 とりあえず閉まっておこう。今なら目撃者もいない──。

「ごめんくださーい」

───目撃者は存在した。
 もしこの人が同じ男ならすぐに言い訳に転じることができただろう。
 だが相手は長い艶やかな黒髪、潤んだ綺麗な瞳、整った顔立ち、華奢なスタイルを持った容姿端麗の美少女だった。
 そんな美少女を前にした俺は思わず目を奪われ、相手が硬直している間、俺も硬直してしまった。
 初手の行動をミスをした時点で、今から言い訳などもはや無意味に等しいだろう。
 もう悲鳴を上げられる覚悟はできている。
さあ、来いっ!

「やっと会えた…っ!!」

 俺の予想は大きく外れ、耳に悲鳴が飛び込んでくるはずが、俺の胸に女の子が飛び込んできた。
 どうしてこうなった。
 女性の下着を持った男子を見た女子が、悲鳴を上げ軽蔑するどころか、その男子(変態)に対して抱きついている。

 …もしかして今のうちに段ボールにこれを戻せば万事解決なのでは?
 俺は彼女に気づかれないよう、そっと段ボールに下着を握ったままの左手を伸ばす。
 もう少し…届いてくれ…!
 だが、そんな希望を打ち砕くかのように俺の左手首を彼女の手が掴んだ

「…今は数年ぶりの再開を喜ぼう?この件に関しては後でちゃんとお話するからね、かずくん?」
「その声にその呼び方…まさか風花!?」
「むぅ、気づくのが遅いよ~!」

────

「久しぶりだね、かずくん」
「ああ、本当に久しぶり、風花」

 俺と風花は小学生の頃、家が近くよく遊んでいた。中学に上がると同時に俺は引っ越したから、あれから全く連絡を取れずにいた。
 あの地味で目立たなかった風花が、こんなに垢抜けて可愛くなっているとは。
 眼鏡からコンタクトに変えていたのもあって見ただけでは全然分からなかった。

「でも、いきなりどうしたんだ?」
「あれ、おじさまおばさまから聞いてない?」

 あの人たち両親から何か聞いていただろうか。
 思い当たる節なんて…なんて…一つあった。

「まさか許嫁の話のこと?」
「そう、その話」
「あの話ってマジな話だったの?俺、あれ冗談だと思ってたんだけど」
「おじさまおばさま一体どんな話し方したの…」

 あんな酒の席で適当に言われても、そんな現実味のないことを誰が信じられるというのだろうか。

「じゃああの大量の段ボールって風花の荷物だったのか?」
「そ~ゆこと。だからね?かずくんが握っていたのは私のなんだよね」

 まずい。話があらぬ方向に進んでしまった。

「さ、さっきの件についてお話しよっか♪」
「ちょ、ちょっと待って、あれは不可抗力──」

 この日、俺は人生で初めて土下座した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です

渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。 愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。 そんな生活に耐えかねたマーガレットは… 結末は見方によって色々系だと思います。 なろうにも同じものを掲載しています。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...