白い子猫と騎士の話

金本丑寅

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白い猫と騎士の話

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 兄弟のうち半分くらいは仕方ないなーって顔して、もう半分くらい最後の最後までごねてたけど、火の点いた暖炉前にしたら黙りこくってた。ぐでんぐでんに溶けてる。よしよし。ストレスケアは責任を持って俺が徐々にしていこうと思います。
 おとなしくなった隙に台所へ正規いつものご飯と水を取りに行って戻ってきたアレク。わーい。流石に兄弟たちもこんな状況下じゃすぐには食べないから、後で食べれるように隅っこに置いてゆく。まあ俺は食べますけどねへへへ。あと暖炉の前なので水分補給はだいじ。ところで俺水飲むの下手くそなんだよね。どうやってみんな上手く飲むのこれ。前足で器持って傾けちゃ駄目? 嫌だなそんな猫。

 アレクもコーヒー持ってきて、柵を乗り越えたすぐの辺りで一緒にお休みタイム。いいなー。俺も早くコーヒー飲みたいなー。
 俺が人間になる為にも兄弟たちには是非この冬を使ってアレクと屋内生活に慣れてもらわねば。うむ。そう、これは冬の寒さ回避を利用したアレク慣れ作戦でもあるのだ。なんかこの調子でゴリ押しすればいけそうだったから今付け足した。
 しかし暖炉はいいね。あったかいね。危なくないように近づこうとする兄弟は俺が抑えてる。あっすごいぽかぽかする。いつもより兄弟のぽやぽやの毛がふんわかしてる。でも近づいたらチリチリになるからだめだめ。柵はあるけど触ったら駄目よ兄弟たち。あちちよ。

 でも猫部屋に暖炉は豪勢だねえ。ところでアレクの部屋には無かったよね? なんでこっちじゃないのさ。近寄ってみゃうみゃうしたら撫でられた。えへへへ。って違う違う。
 あれあれ暖炉。アレク。ばってん。
 ジェスチャーで伝えようとしたら「遊びたいのか?」って、もー違うもん。袖を引っ張ったら頭のてっぺんをぐりぐり。

「なんだ、俺がどうかしたか?」
「にゃ」
「暖炉がどうかしたか」
「みゃっ」
「火が暑かったか?」
「んーみゃっ」
「暖炉、と俺の話か」
「にゃ」
「寒かったら火はつけに来るぞ?」
「んんーー」
 うーんよく会話らしきものしてるからなんかイエスノーだけでなく程々に通じるようになっちゃったね。通じないのは通じないけど。アレクすごいね。ちっちゃい子の独特話聞くより難易度高いでしょこれ。
「んなぅ」
「指し示してるから暖炉と、引っ張ってくるから俺のことなんだよな」
「にゃ」

「もしかして俺は使わないのかって話か?」
「みゃ!」
 時間はあるからしばし気長にしまくってたら辿り着いた。すごいすごい。
「俺はこの部屋は使わないようにするからな、元より使っていないから構わん。お前は好きに出入りすると良い。俺が出かける間は申し訳ないが火は消していくけどな」
 んー、なんでこの部屋じゃなくて向こうの部屋に寝てんの、と言いたかった質問とは微妙に違うけどもまあ良いか。じゃあ冬の間はアレクどうしてんの。
「だからあれはお前たちが使え。俺は小型の暖房具を持っているから気にしなくても良いぞ」
「んく゜」
「どうした今の声」
 あっ、まあ、はい。一人暮らしに維持管理諸々考えると暖炉より小型家電のがお手頃ですよね。はい。
 あれだ、暖炉の前でゆらゆら動く椅子で読書のロマンとかそんなん現実的に掃除できない人間の日常生活にゃ二の次だわ。

 
 えっ、この世界ストーブがあんの? しかも魔力で動くの? へー。
 薪や灯油がいらないのは便利だね。ああ魔石が必要なのかぁ。魔石便利。でもやっぱ定期的に充填は必要なんだ。あ、そういうの込めてくれる人いるんだ。ガソリンスタンドみたいな。へー。
 魔石は、魔素が籠もった石。風の他にも火とか水とか、魔素が一個に一種類。ドライヤーも暖房の役割も、魔石が助けてくれる。この世から魔石なくなったらどうすんの? そしたら代わりが発明されて科学が進歩するか。今は暖炉で燃えている石(よく見たら石だった)の代わりに、薪が置かれて、そのうち灯油みたいなエネルギー源が見つかってまずは石油ストーブもどきが完成するだけである。多少人間が自分で動かなくちゃいけない時間が増えるだけ。あれ、その為にも魔石が便利って話で? もしかして燃料って既にある? 魔法と科学、最初にできたのどっち?

 まあ猫ちゃんには関係のない話なのである。ふかふかおててをピンと伸ばしてストレッチ。無事に聞きたいことも一応近い感じで聞けたし、アレクの腕にくっつけてもにもに。


 よく風の魔石を使って乾かしてくれる(そしてすぐ汚す)から何も考えてなかったけど、魔石って高いらしいんですね。確かに今まで聞いたことのある魔石入ってる商品シリーズ、お高そう。じゃあなんでアレク持ってんの?
 これは後で聞いたら騎士団の入隊時配布だった。風と火の他にも持ってた。入隊特典お得セット。今なら厳しい訓練がついてくる。
 アレクは魔法が全く使えないらしい。魔力が弱いですらなく、適正がない。だから自分で魔力を使う場合は魔石に頼らないといけない。でも騎士だから云々、まして平民だったから云々じゃなくて、適正ってのは身体や血ではなくやっぱり魂に宿るらしい。
 騎士の中にも自力で魔法が使える人もいるみたい。逆に魔力がないけど魔術師やその補佐に勤めてる人もいるんだって。そういう人たちの為にも魔石があるんだね。いいとこだねえ。
 まあこないだみーちゃんが指摘してたようにやっぱ貴族と平民で差がありそうだけど。うちの飼い主を悪く言う奴は許さんぞよ。ふふふん。もにもに。ふみふみ。コーヒーと俺を両手に暖炉がパチパチ、誰も喋らなくなると静かな部屋。



 そうだ、魔石って俺にも使えるのかな。人になれたら使うことになるよね、きっと。どうやって動かすんだろう。というか今の状態では使えるのだろうか。できたらすごい。

 【朗報】猫、魔法を使う。【史上初】

 なんちて。
 はなから魔力を持ってたら、それは魔物の位置づけになっちゃうからね。俺は魔力がからっきしってのはわかってる。


 魔力について、本も読んだけどなんかややこしかったので、これもやっぱりジュードに聞いたことがある。博学で偉い人のちんぷんかんぷんな文章よりもジュードの説明のが俺にはわかりやすかった。
 彼が言うに、魔素はエネルギー。魔力はエネルギーを扱う為に働く力。つまるところ実は、魔素自体は誰でも持ち得ていて、問題はそれを扱う力があるかどうか、これが"魔力を持っている"状態のこと。
 使える魔法が個人で違うのは、魔力の作りが違うということ(血液型とか目の色みたいなもの。先天的に決まってて個人差がある)。
 魔力のない人が魔石を使うのは、魔力を擬似的に扱えるようにすること。
 よって、俺、というか猫を正しく称するならば「魔素は持っているが利用する力は特段ないので無害な猫」なのであった。なんか強そう。

 また、魔法は抽象プログラム。魔石は具象システム。正しい式を書き込んで、力があればあるだけ強くなる魔法と、それが初めから組み込まれてるので誰にでも使えるものの、石に篭もった限界以上の力は出せない魔石。
 魔石に篭められた魔法を使う、は、プログラミングされたアプリを使うみたいなもんかなぁ。

 魔法は数学。魔石は工学。
 魔法が電気なら魔石は電池。
 電気の流れるびりびり猫はそりゃあ魔物である。が、電池を使う猫も居ないのである。地球には。たぶん。精々玩具代わりにじゃれるかもしれない。危ないので猫と子供の手の届かないところに置きましょう。


 まあでも。
 使えるなら、って想像するだけなら。
 最初はなんの魔法がいいかなぁ。火はちょっと危ないな。瞬間移動かなぁ。空も飛ぶかなぁ。そもそもなんの魔法があるのかもわかってないな。他は治癒と変化しか見てないや。
 使えなかったらアレクに見せてもらおう。

 考えただけで笑みが溢れる猫。うふふ。


 ぬくぬく、ふくふく。アレクと、兄弟と、暖炉の前。過ぎる時間に時折パタンと叩く、誰かの尻尾の音。
「──お前の」

 うん?


「お前の、名前をつけても、いいだろうか」

 いつの間にかカップを床に置いてたアレクが、こっちをじっと見て呟いた。
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