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白い子猫と騎士と黒い猫の話
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しおりを挟む魔王って他にいるの?
俺は魔王の近くにいなくていいの?
王様はどうなの?
あとアレクは城でなんともないですか、って聞いてみたら、やっぱ何かあるんだね。でも魔王が守ってくれるみたいで大丈夫そう。わかりやすく教えてくれた。
「最後にお主が自由でいられる理由だが」
うん。
聖者には特殊な能力という能力はないが、実はこちらへ呼ばれた瞬間から魔王の加護が働いている。らしい。
えっ。
意図的に狙った悪意ある者が聖者へ近づけば魔王の力が降り注ぐことになるであろう。それは加護を受けた魂が悪意を感知するが故だ。加護の大きさは悪意と比例する。
ただ例えば無差別的な事件に巻き込まれるだとか、悪意なき者の悪意、即ち本人は善意としてふるまっている行為だとか、意図なく傷つける場合には発動はせぬ。事故や自然災害も同じくどうにもならん。塀の上から落っこちて着地できなかったら終わりよ。
お主のことは常に監視していられることに加え、回復魔法や蘇生薬は我の魔力で出せるからまあ最悪間に合わずとも肉体の一部と魂がその場に残っていれば生き返りはするがな。ただまあ聖者の死体を目の当たりした我がどうするかはわからんが。
こわいこといってる。どれって? ぜ ん ぶ だ よ
魔王の加護、正確には神の加護或いは世界の加護の素は、光でも闇でもどの魔素でもない世界の力。
世界を渡る転移の時もそうだったが、世界に関する力は器よりも魂が重要であるからして。故に聖者を襲うこと、それ即ち魂が襲われること。
今回は特に体を通して根幹たる魂を狙った悪意には反応するようになっているが、それ以外による肉体の損壊自体への反応は基本的に無視される。
だから自分でヘマして指先切っちゃったなんてことは勿論、崖から落ちて大怪我しても、爆発や火事に巻き込まれても効果が及ばない。これが、誰かがわざと落とした、狙って爆発させた、であれば範疇となるらしいのだが。当然ながら実験したくはない。
また、加護が上手く働き、相手へ何かしら罰する反動が出たとしても、それでも尚無理やり向かってきたとして。そこから逃げた矢先で例えば車に引かれただとか、全く関係のない事故による傷を受けたとすれば。これは効果が及ばない。
そんなわけで完全な安全の確立とは言えない。慢心して加護に頼り切るよりも、はなから無いものとして考えて自衛するくらいが良い。と、これを魔王自身が言っちゃうのだから。
ちなみに例の聖者であるという証明書を書けば、国側からの公式的な護衛の貸し出し、辞令だとか、法律の適用だとか、任意でより強固な自衛用の魔法をかけてもらえる権利とか、なんやかんやでもっと安全になるわけで。うん、あくまで今は聖者(仮)なのを忘れてはいけない。呼び出した本人である魔王に認識されている上、加護のお墨付きとあれば実質聖者として確定ではあるのだがそこはそれ、暗黙の了解ではいかんらしい。
機関が違うと別々で提出しなければならないお役所式ということか。なんて面倒臭い。んむ、国に認められるのが証明書で世界に認められるのが加護。なるほど。
まあ、加護があるから。加えて本来なら証明書が発行されて程々に安全性が確保されるから、聖者ってのは自由にして良いよと。それで何か起こっても確実な無事にはならないものの、そんときゃ保護者が黙ってないよと。
あと監視の件に関してはツッコみません。自由でいられる一番の理由それなのでは?? え? 結局愚痴られてるのもモフられて吸われてるとこも見られてたってこと? 恥ずかしいし可哀想。俺よりアレクが。
事故は自己責任。じこだけに。あっうそ聞かないでやめて心を読まないで。
とはいえ、事故はともかくとも、想像の中でさんざビビってた万が一攫われたりとか通り魔とかに会ってしまったり、なんて起きてしまっても、守ってくれる要素は一応あるっちゃあるってことは判明したわけでな。
にゃ~~~にそれもっと早く言ってよ。俺ずっと家の敷地内に居たんだよ。勿論城に行かなかったのは、ほら、王様とかに会うのとかもにゃもにゃ考えてただけでさ、外が危ないからだとかの理由とはまた別だったんだってば。でも早く言ってよ。せめて近所くらいは冒険してみたかったよ。外出たら死ぬくらいの気持ちで庭か家に居たよ。あっ死ぬ時は死にますはい。でも早く言ってよ。
しかし召喚も召喚なら加護も加護だな。
適当に塵を吸い込んで適当にどっかに塵吐き出すフィルター式掃除機に吸われたと思えば。変なものが届いたら回収するけど開封したものは受け付けないみたいな際どいクーリングオフ。たすけて消費者センター。早く言ってよ。
「お主が来なかったのだろう」
んぁぁ自業自得。
でも俺が行かずとも今魔王こっちに来てんだよなぁ……。チラッ。
「お主が来なかったから偶々気が向いて来ただけに過ぎん」
んぁぁぁ。
「甘い加護であることなど我とてわかりきっておるが。世界の力とはそういうものだ。また、我の魔法ではそれより上位の加護が何より優先され、故に後から防衛魔法を付け足すことが出来ぬ。かからぬわけではないが弾かれやすく、剥がれやすいのだ。ただ、だからこそ国は聖者の契約書を交わす。我らは魂を、人間の王は肉体の加護をする、という言い方ならばわかるか」
魔王は俺をじいと見つめた。
「加護自体を悪意に反応するばかりでなく恐怖心を抱けば発動するように弄っても良いのだが、お主、恐怖に対する反応が大きいだろう。人間の時ならば平気だから今の己もいけると自惚れるなよ」
そうかな?
「肉体の大きさもあるだろうがな。我が口を開けただけで失神などすれば加護を授ける我にまで罰則が下ろうぞ」
そうでした……。
魔王は俺に触れようとして、ママンの視線に気づいてやめた。うわすごい半目で睨んでる。
「ふむ。ところで聖者よ、人の姿を得ようとは思わぬのか」
「んなぅ」
「まあこの警戒心の強さでは仕方あるまいな」
だが、と言って魔王が指をちょい、と振った。そしたらなんと俺の体がふよふよふよって浮いた。
浮いた!?
「ふなぅ!?」
「こら待て暴れるな、落ちるぞ」
手足をじたばたしかけたけれど、事故は普通に死ぬのを聞いたらすん、って俺の心が落ち着いてしまったね。致し方無し。
最初は驚いたけどすぐ盗られたのに気付いてまた怒っちゃったママンの圧を背中に感じる。それを気にしない魔王はふよふよした俺を眺めてる。観察されてる。ふよふよ。脇の下抱えられるよりも更に落ち着かないよこれ。ふよふよ。
それから魔王が浮いたまんまの俺の腹の匂いを吸った。えっ吸われた。びっくりした。
「人間の匂いがどうのと言うがなお主、アレクセイの匂いがこびりついておるぞ」
「んな"ぅ」
汚れみたいに言わないでください。
「母親。兄弟。土。陽。水。本。薄らと魔術の匂い、これは魔術師か。他の人間の匂いは全くせぬな。人間に慣れるまでだのなんだのと言えど、一歩も外に出ないのであれば人間生活に紛れるも何も無いのではないか。そんなにコヤツの匂いをべったりとつけておいて親兄弟から見放されず戯れられているというのなら今更、人の姿になったところで何か変わるものか」
んむむ。でもちょいちょいしつこく匂い嗅がれてるんだからね。割と気にしてんだからね。
「そもそも手始めにアレクセイに慣れさせろと魔術師にも言われておろう。彼奴から近づいたことはあるか」
そりゃもう!
……なさそう。
いっつもご飯の時しか近付かないのと、俺のことしか構ってないから……。
というかあまり俺みたいまでには触れないからかな。触れることは触れるけど、もちゃりもちゃりこねくり回すまではいかない。そこまでやったら逃げられるのは確実。ほんとにちょちょいと撫でるのを許す程度であとはぷい。ちょっとずつ許してる気はあるんだよ。
「存在と匂いには慣れているのならばあと一歩ではないか。自ら避け続けなんぞして、それを逆に興味を持ち追おうとする猫も居るがな。気に入られなければ猫は懐かぬぞなあアレクセイ」
ふよふよ、ふよふよ、運ばれて、ぽてん。アレクの手の中に収まる俺。窓ガラスに映る俺。あらやだおててとあんよ揃えて投げ出して抱っこされてる可愛い猫がいる。俺じゃん。
「聖者の兄御はとっくに許しているであろうよ。飯をくれる相手であるのがわかっている上ここまで匂い付けされておいて。お主が近付かないからあちらも逃げるだけだ。聖者の為にも少しばかり聖者から離れ、輪に交じれ」
我とて人間のことはどうでも良いが毎日飯を作ってくれる料理人のことは気に入っておるぞ。
王城のコックさん。何作るんだろう。や、魔王って何食べるんだろう。は、ご飯のことを考えたらよだれが。
「誰が為の契約か今一度考えてみたならば良かろう」
国の為? 我の為? 己の為? 誰の為?
魔王は歯を見せてにんまり笑う。
「赤子には難しいか」
誰が赤ちゃんだい。
0歳でした……。
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