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3.君はともだち
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「お、俺って分かるのか?」
「分かるよ! エンちゃんを間違ったりしないよ!」
「でも、俺だけこんな……」
「会いたかったよ、ずっと会いたかったよエンちゃん!」
真っ直ぐな目で見つめられた時、ついにエンドウの目から涙が一気に溢れかえった。ポロポロと流れる水を、シンタロウは不思議そうに見ている。
エンドウはその場に崩れた。
「エンちゃん?」
「シンタロウ、ごめんな。俺助けられなくて。シンタロウを助けられなくてごめん」
「ううん! 学校でエンちゃんに会うのが楽しみだった。家で嫌なことばっかりあったけど、エンちゃんが届けてくれたパンだけが僕を助けてくれたんだよ。いつもありがとう。お礼を言えなかったから、ちゃんと言いたかったんだ」
キラキラした笑顔でシンタロウは言った。未だ泣くエンドウに、ぎゅうっと抱きつく。
「ずっと待っててくれたのか? 俺のこと、ずっと一人で」
「エンちゃんに絶対会うんだって思ってたんだ。僕が会いたい人は、エンちゃんしかいなかった」
エンドウはシンタロウの顔を正面から見つめ、さらに泣いた。
『俺は待ちたい人間も、待ってくれる人間もいない。俺の人生は一体なんだったんだろう、ってね』
エンドウが言っていた言葉が蘇る。
いたじゃないですか、ワタルは心の中で呼びかける。あなたをずっと待ってくれている友達。そして、本当はエンドウさんだってずっとシンタロウを思っていた。二人はずっと、思い合っていたんですよ。
「エンちゃん会えてよかった。大人になったんだね。また一緒に遊びたいけど、いいかなあ」
「もちろん!」
エンドウが顔を上げた。頬が涙でぐっしょり濡れている。
「俺の人生で一番楽しかった時間なんだ、シンタロウと遊んでいた頃は。辛い思い出でもあったから奥底に閉じ込めていたけど、やっぱりあの時間は大切なものだった」
「本当?」
「あんまりいい大人になってなくて、シンタロウに幻滅されるかと思ってた」
「しないよ。エンちゃんはエンちゃんだよ!」
エンドウは服の袖で顔を拭いた。唇を震わせながら、シンタロウの顔をしっかり見つめ返す。
「待っててくれてありがとうシンタロウ。お前は一番の友達だ」
シンタロウが嬉しそうに笑う。二人はしっかり手を繋いだ。エンドウが立ち上がる。
ずっと黙って見ていたワタルに、微笑みかけた。
「シンタロウのこと、教えてくれてありがとうな」
「ごゆっくり楽しんでください」
エンドウが笑顔で頷く。シンタロウがワクワクしながら言う。
「エンちゃん、あっちに犬いるんだよ! あ、こっちには公園もある、行こうよ! また虫でも集める?」
「いいな、行こう」
そう話しながら、二人同時に足を踏み出した時だ。
ふわりと風が吹いたかと思うと、エンドウの姿が一瞬で幼い少年に変わった。高い身長は縮み、白髪が生えた髪は真っ黒に。無精髭はなくなり健康的な肌色になっている。
二人はその変貌に驚くこともせず、まるで何事もなかったかのように手を繋いで走り出した。ずっと前から、そうしていたかのように。
笑い声が遠ざかっていく。ワタルは遠ざかる小さな背中ふたつをじっと見つめた。
今から思いっきり遊ぶんだろうな。何かに怯えることもなくのびのびと。時を忘れ、ただただ楽しんで奪われた時間を取り戻すんだ。
自分の目に浮かんだ涙を自然と拭き取った。男一人で泣いてるなんて、ちょっと不恰好だ。でも、あの二人が会えてよかった。
ワタルは胸を撫で下ろして歩き出した。今日見た再会も、いいものだったな、としみじみ思いながら。
「分かるよ! エンちゃんを間違ったりしないよ!」
「でも、俺だけこんな……」
「会いたかったよ、ずっと会いたかったよエンちゃん!」
真っ直ぐな目で見つめられた時、ついにエンドウの目から涙が一気に溢れかえった。ポロポロと流れる水を、シンタロウは不思議そうに見ている。
エンドウはその場に崩れた。
「エンちゃん?」
「シンタロウ、ごめんな。俺助けられなくて。シンタロウを助けられなくてごめん」
「ううん! 学校でエンちゃんに会うのが楽しみだった。家で嫌なことばっかりあったけど、エンちゃんが届けてくれたパンだけが僕を助けてくれたんだよ。いつもありがとう。お礼を言えなかったから、ちゃんと言いたかったんだ」
キラキラした笑顔でシンタロウは言った。未だ泣くエンドウに、ぎゅうっと抱きつく。
「ずっと待っててくれたのか? 俺のこと、ずっと一人で」
「エンちゃんに絶対会うんだって思ってたんだ。僕が会いたい人は、エンちゃんしかいなかった」
エンドウはシンタロウの顔を正面から見つめ、さらに泣いた。
『俺は待ちたい人間も、待ってくれる人間もいない。俺の人生は一体なんだったんだろう、ってね』
エンドウが言っていた言葉が蘇る。
いたじゃないですか、ワタルは心の中で呼びかける。あなたをずっと待ってくれている友達。そして、本当はエンドウさんだってずっとシンタロウを思っていた。二人はずっと、思い合っていたんですよ。
「エンちゃん会えてよかった。大人になったんだね。また一緒に遊びたいけど、いいかなあ」
「もちろん!」
エンドウが顔を上げた。頬が涙でぐっしょり濡れている。
「俺の人生で一番楽しかった時間なんだ、シンタロウと遊んでいた頃は。辛い思い出でもあったから奥底に閉じ込めていたけど、やっぱりあの時間は大切なものだった」
「本当?」
「あんまりいい大人になってなくて、シンタロウに幻滅されるかと思ってた」
「しないよ。エンちゃんはエンちゃんだよ!」
エンドウは服の袖で顔を拭いた。唇を震わせながら、シンタロウの顔をしっかり見つめ返す。
「待っててくれてありがとうシンタロウ。お前は一番の友達だ」
シンタロウが嬉しそうに笑う。二人はしっかり手を繋いだ。エンドウが立ち上がる。
ずっと黙って見ていたワタルに、微笑みかけた。
「シンタロウのこと、教えてくれてありがとうな」
「ごゆっくり楽しんでください」
エンドウが笑顔で頷く。シンタロウがワクワクしながら言う。
「エンちゃん、あっちに犬いるんだよ! あ、こっちには公園もある、行こうよ! また虫でも集める?」
「いいな、行こう」
そう話しながら、二人同時に足を踏み出した時だ。
ふわりと風が吹いたかと思うと、エンドウの姿が一瞬で幼い少年に変わった。高い身長は縮み、白髪が生えた髪は真っ黒に。無精髭はなくなり健康的な肌色になっている。
二人はその変貌に驚くこともせず、まるで何事もなかったかのように手を繋いで走り出した。ずっと前から、そうしていたかのように。
笑い声が遠ざかっていく。ワタルは遠ざかる小さな背中ふたつをじっと見つめた。
今から思いっきり遊ぶんだろうな。何かに怯えることもなくのびのびと。時を忘れ、ただただ楽しんで奪われた時間を取り戻すんだ。
自分の目に浮かんだ涙を自然と拭き取った。男一人で泣いてるなんて、ちょっと不恰好だ。でも、あの二人が会えてよかった。
ワタルは胸を撫で下ろして歩き出した。今日見た再会も、いいものだったな、としみじみ思いながら。
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