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0.待ち合わせの名所
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「ワタルお兄さんはあそこで料理するの?」
「僕は料理を運ぶ人だよ。だからハルカちゃんの姿も見えてたよ。ずっとここにいるよね?」
ワタルが尋ねると、ハルカは頷いた。持っていた鉛筆を仕舞い、違う色を悩みながら選ぶ。
「あのね、お父さんとお母さんと待ち合わせ」
「待ち合わせ、か……」
「そろそろ来るかなあ」
たっぷり色が塗られている画用紙に、ハルカは赤色で更に色を重ねた。ワタルは少しだけ眉を下げて心で思う。
ハルカは長い時間待っている。いや、待ち合わせに待ち時間はつきものだ。どちらかが相手の到着を待つのは仕方のないこと。ただ、ハルカはその時間が長すぎると思った。子供一人で待ちぼうけ、か。本当に彼女の両親はここに来るんだろうかと不安になる。
例えばもう到着してるけどすれ違っていたり。
いやそれならいい。もしかして、待ち合わせを忘れていたり、はたまた『来る気が無い』『来ることができない』なんてことがあったなら。
時々そういうことがあるのだ。健気に待ち続けても相手は来ず、泣く泣く一人で歩いて行く。レストランで働いていると、そういった光景を見ることもある。そんな寂しい思いを、こんな小さな子にさせたくなかった。
ワタルは何も言えずに空を仰いだ。一人ぼっちで寂しいはずなのに、弱音ひとつ吐かない少女に胸を痛ませた。ハルカは信じて疑っていない、両親がここに来るということを。
「ハルカちゃん」
「うん」
「お店においで。オムライス出してあげる」
「いいよ。お腹は空いたけど、食べてる間にお父さんかお母さんが来たらわからなくなっちゃうかも」
健気に笑ってみせる彼女にこれ以上何を言えばいいのか分からなかった。相手が来るまで待ち続けるつもりだ。でももし万が一、両親が来なかったら……
ワタルは言っていいのかどうかわからないが、それでも恐る恐る言葉を発した。
「ハルカちゃん。これだけ待っても来ないんだ、もしかしたら」
「お父さんもお母さんも、優しいよ。約束は守ってくれるよ。ハルカ知ってるもん」
ワタルが言いたいことを察したのだろうか。ハルカに先を言われてしまった。そう頑なに言われてはこれ以上言葉を出せない。
「お母さんがね、待っててねって言ったの。そしてこの鉛筆たちをくれたの。ぜーんぶハルカのお気に入りのものだよ! お絵かき好きだし、モモちゃんは友達だし、絵本も大好き!」
「うん、見てわかるよ」
「ハルカいい子で待てるよ。お絵かきして、モモちゃんとお話して、たまに本読んで。待てるもん」
胸が締め付けられる思いだった。子供は純粋無垢、誰かを疑うことなんかしない。それが自分の親ならば尚更だ。
彼女をこのままここに置いておいていいんだろうか。一体今両親はどうしているんだろう。せめてあのレストランに連れて行ってあげたいのだが。
さてどうしたものか……。
そう心配した時だった。
ずっとノートに絵を描き続けていたハルカがぴたりと手を止め、ふいに顔を上げた。それは誰かに呼ばれたかのような反応だった。大事に持っていた鉛筆が手から滑り落ち、地面に音を立てて落下する。
転がった小さな赤をワタルが慌てて追うと同時に、ハルカが立ち上がる。艶のある黒髪がサラリと揺れた。
彼女は真顔でじっとある一点を見つめている。ワタルも釣られてそちらに視線を動かすと、ある人が見えた。
「僕は料理を運ぶ人だよ。だからハルカちゃんの姿も見えてたよ。ずっとここにいるよね?」
ワタルが尋ねると、ハルカは頷いた。持っていた鉛筆を仕舞い、違う色を悩みながら選ぶ。
「あのね、お父さんとお母さんと待ち合わせ」
「待ち合わせ、か……」
「そろそろ来るかなあ」
たっぷり色が塗られている画用紙に、ハルカは赤色で更に色を重ねた。ワタルは少しだけ眉を下げて心で思う。
ハルカは長い時間待っている。いや、待ち合わせに待ち時間はつきものだ。どちらかが相手の到着を待つのは仕方のないこと。ただ、ハルカはその時間が長すぎると思った。子供一人で待ちぼうけ、か。本当に彼女の両親はここに来るんだろうかと不安になる。
例えばもう到着してるけどすれ違っていたり。
いやそれならいい。もしかして、待ち合わせを忘れていたり、はたまた『来る気が無い』『来ることができない』なんてことがあったなら。
時々そういうことがあるのだ。健気に待ち続けても相手は来ず、泣く泣く一人で歩いて行く。レストランで働いていると、そういった光景を見ることもある。そんな寂しい思いを、こんな小さな子にさせたくなかった。
ワタルは何も言えずに空を仰いだ。一人ぼっちで寂しいはずなのに、弱音ひとつ吐かない少女に胸を痛ませた。ハルカは信じて疑っていない、両親がここに来るということを。
「ハルカちゃん」
「うん」
「お店においで。オムライス出してあげる」
「いいよ。お腹は空いたけど、食べてる間にお父さんかお母さんが来たらわからなくなっちゃうかも」
健気に笑ってみせる彼女にこれ以上何を言えばいいのか分からなかった。相手が来るまで待ち続けるつもりだ。でももし万が一、両親が来なかったら……
ワタルは言っていいのかどうかわからないが、それでも恐る恐る言葉を発した。
「ハルカちゃん。これだけ待っても来ないんだ、もしかしたら」
「お父さんもお母さんも、優しいよ。約束は守ってくれるよ。ハルカ知ってるもん」
ワタルが言いたいことを察したのだろうか。ハルカに先を言われてしまった。そう頑なに言われてはこれ以上言葉を出せない。
「お母さんがね、待っててねって言ったの。そしてこの鉛筆たちをくれたの。ぜーんぶハルカのお気に入りのものだよ! お絵かき好きだし、モモちゃんは友達だし、絵本も大好き!」
「うん、見てわかるよ」
「ハルカいい子で待てるよ。お絵かきして、モモちゃんとお話して、たまに本読んで。待てるもん」
胸が締め付けられる思いだった。子供は純粋無垢、誰かを疑うことなんかしない。それが自分の親ならば尚更だ。
彼女をこのままここに置いておいていいんだろうか。一体今両親はどうしているんだろう。せめてあのレストランに連れて行ってあげたいのだが。
さてどうしたものか……。
そう心配した時だった。
ずっとノートに絵を描き続けていたハルカがぴたりと手を止め、ふいに顔を上げた。それは誰かに呼ばれたかのような反応だった。大事に持っていた鉛筆が手から滑り落ち、地面に音を立てて落下する。
転がった小さな赤をワタルが慌てて追うと同時に、ハルカが立ち上がる。艶のある黒髪がサラリと揺れた。
彼女は真顔でじっとある一点を見つめている。ワタルも釣られてそちらに視線を動かすと、ある人が見えた。
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