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二人の未来⑧
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「天気よくてよかったですね」
「はい、気持ちいいです」
緊張をほぐすためか、人なつこく話しかけてくれる。私は笑顔で答えた。入念にトリートメントした毛先を触りながらメイクさんは言う。
「お二人は幼馴染って伺いました。素敵ですね」
「あは、そうなんです。まあ色々あったんですけど」
「そうなんですか?」
「はい(めちゃくちゃ色々です)」
ここで説明するには時間が足りないほど色々あった。まず、お姉ちゃんの昔からの婚約者だった……というところから始めなければならない。絶対にタイムオーバーするので濁しておこうと思う。
メイクさんはふふっと笑って言う。
「色々あったけど、結局お互いが選んだのは自分達なんですから。その結果が全てですよ」
そう優しく言われ、私は微笑んだ。
確かにその通り。今ここにいるという事実が全て。
幼馴染と一言で片付けるには、私たちの時間はあまりに長い。
「さ、メイクは完了です、ドレスにお着替えしましょうか」
「はい」
立ち上がり、掛けてあったドレスを見た。数多くの種類で悩みながらようやく選び抜いた一着だった。蒼一さんも似合う、と太鼓判を押してくれたのでこれに決めた。
ふわりとした軽い裾が広がるAラインのドレス。シンプルだけど上品で可愛くて、とても気に入っている。これに決定するまでにどれほどの時間を費やしたっけ。
そのドレスに袖を通し、小物もつけていく。全て自分が選んだものを身にまとい、完成した姿を鏡にうつした。
あの時の式は、どこか浮いていた。お姉ちゃんが選んだドレスに髪型、小物。元々趣味も似ていなかったし、タイプが違うので似合うわけがなかった。
でも今日は違う。全て私も選ぶのに参加した。この場所も、ドレスも、小物も、全て。
じんわりと涙が浮かんだのを慌てて止める。まだ本番前なのに、何を泣きそうになってるの。しかも二回目のくせに!
自分に喝を入れている時、部屋にノックの音が響いた。はい、と返事をすると、スタッフに呼ばれた蒼一さんのようだった。
彼が扉を開ける。白いタキシードに身を包んだ蒼一さんは、悔しいぐらい似合っていた。相変わらず色素の薄い髪や白い肌がこれでもかというくらい綺麗なのだ。
彼は一歩こちらに足を踏み入れた直後、すぐに止まった。満月のようにまん丸にした目で私を見ると、すぐに顔を綻ばせた。
「すごい」
「え?」
「可愛くて綺麗。最高に似合ってるね」
なんとも真っ直ぐな褒め言葉に、照れながらも微笑んだ。スタッフの人が、時間まで少し待つように言って部屋から出る。蒼一さんがこちらに歩み寄り、私に言った。
「座って。それ立ってるだけで大変じゃない?」
「あ、ありがとうございます」
椅子をそっと押してくれるのにありがたく従う。蒼一さんを見上げると、バチリと目があった。彼はさっきも言ったというのに、再び私に賞賛の言葉を並べてくれる。
「ほんと綺麗だね。全部選んだやつ大正解。めちゃくちゃ可愛い」
「言い過ぎな気が」
「今日言わなくてどうするの」
二人で笑い合う。穏やかな空気の中、蒼一さんが私の視線に合わせてしゃがみ込む。
そして少し迷うようにしていった。
「あのね咲良ちゃん」
「はい、どうしましたか」
「今日二人だけの式、って決めてたんだけど。
どうしても咲良ちゃんに会いたいって人が来てるんだよね」
はて、と首をかしげる。私に会いたい人?
両親には式のことは告げたけど二人でやると言ったら納得していたし、友達には教えてない。ではもしかして、蒼一さんのお父様かお母様?
不思議に思っている時、タイミングよくノックの音がした。蒼一さんが立ち上がる。私が返事をするより早く、その扉が開かれた。
そこに現れた人を見て、自分が固まる。
サラリと伸びたロングヘアに、はっきりした目鼻立ち。見覚えるのある姿に、私は声をひっくり返らせた。
「お、お姉ちゃん!」
慌てて立ち上がろうとしたのを、お姉ちゃんは笑って止めた。
「あー座っててよ。転んだりでもしたらどうするの、咲良はおっちょこちょいなんだから」
懐かしい声でそう笑いながら部屋に入ってくるそのひとを見て、ただパクパクと口を開けた。
「はい、気持ちいいです」
緊張をほぐすためか、人なつこく話しかけてくれる。私は笑顔で答えた。入念にトリートメントした毛先を触りながらメイクさんは言う。
「お二人は幼馴染って伺いました。素敵ですね」
「あは、そうなんです。まあ色々あったんですけど」
「そうなんですか?」
「はい(めちゃくちゃ色々です)」
ここで説明するには時間が足りないほど色々あった。まず、お姉ちゃんの昔からの婚約者だった……というところから始めなければならない。絶対にタイムオーバーするので濁しておこうと思う。
メイクさんはふふっと笑って言う。
「色々あったけど、結局お互いが選んだのは自分達なんですから。その結果が全てですよ」
そう優しく言われ、私は微笑んだ。
確かにその通り。今ここにいるという事実が全て。
幼馴染と一言で片付けるには、私たちの時間はあまりに長い。
「さ、メイクは完了です、ドレスにお着替えしましょうか」
「はい」
立ち上がり、掛けてあったドレスを見た。数多くの種類で悩みながらようやく選び抜いた一着だった。蒼一さんも似合う、と太鼓判を押してくれたのでこれに決めた。
ふわりとした軽い裾が広がるAラインのドレス。シンプルだけど上品で可愛くて、とても気に入っている。これに決定するまでにどれほどの時間を費やしたっけ。
そのドレスに袖を通し、小物もつけていく。全て自分が選んだものを身にまとい、完成した姿を鏡にうつした。
あの時の式は、どこか浮いていた。お姉ちゃんが選んだドレスに髪型、小物。元々趣味も似ていなかったし、タイプが違うので似合うわけがなかった。
でも今日は違う。全て私も選ぶのに参加した。この場所も、ドレスも、小物も、全て。
じんわりと涙が浮かんだのを慌てて止める。まだ本番前なのに、何を泣きそうになってるの。しかも二回目のくせに!
自分に喝を入れている時、部屋にノックの音が響いた。はい、と返事をすると、スタッフに呼ばれた蒼一さんのようだった。
彼が扉を開ける。白いタキシードに身を包んだ蒼一さんは、悔しいぐらい似合っていた。相変わらず色素の薄い髪や白い肌がこれでもかというくらい綺麗なのだ。
彼は一歩こちらに足を踏み入れた直後、すぐに止まった。満月のようにまん丸にした目で私を見ると、すぐに顔を綻ばせた。
「すごい」
「え?」
「可愛くて綺麗。最高に似合ってるね」
なんとも真っ直ぐな褒め言葉に、照れながらも微笑んだ。スタッフの人が、時間まで少し待つように言って部屋から出る。蒼一さんがこちらに歩み寄り、私に言った。
「座って。それ立ってるだけで大変じゃない?」
「あ、ありがとうございます」
椅子をそっと押してくれるのにありがたく従う。蒼一さんを見上げると、バチリと目があった。彼はさっきも言ったというのに、再び私に賞賛の言葉を並べてくれる。
「ほんと綺麗だね。全部選んだやつ大正解。めちゃくちゃ可愛い」
「言い過ぎな気が」
「今日言わなくてどうするの」
二人で笑い合う。穏やかな空気の中、蒼一さんが私の視線に合わせてしゃがみ込む。
そして少し迷うようにしていった。
「あのね咲良ちゃん」
「はい、どうしましたか」
「今日二人だけの式、って決めてたんだけど。
どうしても咲良ちゃんに会いたいって人が来てるんだよね」
はて、と首をかしげる。私に会いたい人?
両親には式のことは告げたけど二人でやると言ったら納得していたし、友達には教えてない。ではもしかして、蒼一さんのお父様かお母様?
不思議に思っている時、タイミングよくノックの音がした。蒼一さんが立ち上がる。私が返事をするより早く、その扉が開かれた。
そこに現れた人を見て、自分が固まる。
サラリと伸びたロングヘアに、はっきりした目鼻立ち。見覚えるのある姿に、私は声をひっくり返らせた。
「お、お姉ちゃん!」
慌てて立ち上がろうとしたのを、お姉ちゃんは笑って止めた。
「あー座っててよ。転んだりでもしたらどうするの、咲良はおっちょこちょいなんだから」
懐かしい声でそう笑いながら部屋に入ってくるそのひとを見て、ただパクパクと口を開けた。
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