片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき

文字の大きさ
上 下
89 / 95

二人の未来⑥

しおりを挟む



 その後、私と蒼一さんは早速不動産屋に新しい家を探しに行った。こちらが望む条件全てを満たしているような物件はさすがにすぐにはなかった。しかし蒼一さんは、「また見つかったら引っ越せばいい」と言ってその日のうちに決定した。

 引越し業者にもすぐ連絡し、引越しの手続きを済ませた。そのまま私たちは逃げるように家から出て、新しい新居に移動したのである。

 もちろんお母様たちに挨拶も何もなし。あれよあれよと、いつのまにか引っ越しは完了してしまった。

 新しく構えた私たちの家は、築年数はそこそこあるマンションだった。でもリフォームされているので中は綺麗だし、キッチンも広いので私は全く不満はなかった。周りの環境も住みやすい場所だったのでむしろよく一日目でこんないいところを見つけられたなと感心するほどだった。

「荷物の搬入はこれで全て完了になります」

 引っ越し業者の人が頭を下げる。蒼一さんは書類にサインした。

 スタッフはそれぞれ頭を下げると、マンションから全員出ていった。残されたのは段ボールの山たちと私たち二人だ。

 幸いだったのは、前の家ですら三ヶ月ほどしか住んでいなかったので、私も蒼一さんも荷物が増えていないことだった。荷造りもそんなに大変ではなかったのだ。

 まだ閑散としているリビングを見渡す。さて、あとは荷解きだ。私は腕まくりをする。

 マンションは前の家よりずっと狭い場所だった。なので、以前使っていたソファなどが入らなかったのだけは問題だった。新しいのを買うしかない。

 蒼一さんが言う。

「だいぶ狭いけど、ごめんね」

「いえ! 全然です。むしろこれくらいでちょうどいいなあって思ってます」

 私は心の底からそう言った。むしろこの狭さは結構気に入っている。呼べばすぐに相手の声が聞こえ、手をのばぜばすぐに触れられるぐらいの距離。二人で暮らすにはいい広さだ。前のところは広すぎた。

 蒼一さんが腕を組んで考え込む。

「うーんソファは買わなきゃだね。ま、急ぎじゃないから今度行こうか」

「そうですね。ソファはなくてもなんとかなりますから。ゆっくりでいいと思います」

「ああそれと。当然だけど、ここの新しい住所は母には伝えないからね」

 サラリと蒼一さんが言う。私が驚きで目を丸くすると、さらに彼は言った。

「あ、それと咲良ちゃんのスマホちょっと貸して」

「は、はい……」

 とりあえず言われるがまま差し出す。彼は私の目の前でそれを操作すると、ある連絡先を一つ呼び出して着信拒否の手続きを施した。

「え! 蒼一さん!」

「忘れてたよ、これでよしだね。もう母とは連絡取らなくていい。もし何かコンタクトがあったらまず僕に知らせてね。一人で会うことはしない。
 会社のパーティーとかも今後は母は参加しないってことで父さんとも話はついてるから。顔を合わせることはないと思う。僕も同じ。用がなけりゃ実家に帰ることもしないだろうし」

「……そこまでやる必要あるでしょうか」

 心配になって私は呟いた。お母様にとってたった一人の息子なのに、悲しむんじゃないのかな。

 そう呟いた私を、蒼一さんは眉を下げて苦笑した。

「相変わらず優しすぎるんだから」

「そ、そんなんじゃ」

「とにかく、しばらくはこれでいく。先のことはその時考えよう」

 私にスマホを返してくれる。それを見つめながら、私を守ってくれているんだから蒼一さんに従おうと頷く。時間を置いて、いつか分かり合える日がくるといいんだけどな。

「新田さんの対処も考えるから」

「え、新田さんもですか!?」

「当然でしょ、やり方が常識を逸脱してる。仕事面でも責任は取ってもらわないと」

 ううん、なんだか大ごとになってしまっている。私は腕を組んで唸った。新田さん、確かに良くないことをしたけど、なあ、

 ……同じ人を好きになったという点は、私は憎めないところもあるんだけど。お人好しなのかな。


しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

自信家CEOは花嫁を略奪する

朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」 そのはずだったのに、 そう言ったはずなのに―― 私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。 それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ? だったら、なぜ? お願いだからもうかまわないで―― 松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。 だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。 璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。 そしてその期間が来てしまった。 半年後、親が決めた相手と結婚する。 退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――

政略結婚が恋愛結婚に変わる時。

美桜羅
恋愛
きみのことなんてしらないよ 関係ないし、興味もないな。 ただ一つ言えるのは 君と僕は一生一緒にいなくちゃならない事だけだ。

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)
恋愛
 ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。  ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。 『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』  可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。  更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。 『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』 『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』  夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。  それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。  そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。  期間は一年。  厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。  つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。  この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。  あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。    小説家になろうでも、掲載しています。 Hotランキング1位、ありがとうございます。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

【完結】【番外編追加】お迎えに来てくれた当日にいなくなったお姉様の代わりに嫁ぎます!

まりぃべる
恋愛
私、アリーシャ。 お姉様は、隣国の大国に輿入れ予定でした。 それは、二年前から決まり、準備を着々としてきた。 和平の象徴として、その意味を理解されていたと思っていたのに。 『私、レナードと生活するわ。あとはお願いね!』 そんな置き手紙だけを残して、姉は消えた。 そんな…! ☆★ 書き終わってますので、随時更新していきます。全35話です。 国の名前など、有名な名前(単語)だったと後から気付いたのですが、素敵な響きですのでそのまま使います。現実世界とは全く関係ありません。いつも思いつきで名前を決めてしまいますので…。 読んでいただけたら嬉しいです。

あなたを愛する心は珠の中

れもんぴーる
恋愛
侯爵令嬢のアリエルは仲の良い婚約者セドリックと、両親と幸せに暮らしていたが、父の事故死をきっかけに次々と不幸に見舞われる。 母は行方不明、侯爵家は叔父が継承し、セドリックまで留学生と仲良くし、学院の中でも四面楚歌。 アリエルの味方は侍従兼護衛のクロウだけになってしまった。 傷ついた心を癒すために、神秘の国ドラゴナ神国に行くが、そこでアリエルはシャルルという王族に出会い、衝撃の事実を知る。 ドラゴナ神国王家の一族と判明したアリエルだったが、ある事件がきっかけでアリエルのセドリックを想う気持ちは、珠の中に封じ込められた。 記憶を失ったアリエルに縋りつくセドリックだが、アリエルは婚約解消を望む。 アリエルを襲った様々な不幸は偶然なのか?アリエルを大切に思うシャルルとクロウが動き出す。 アリエルは珠に封じられた恋心を忘れたまま新しい恋に向かうのか。それとも恋心を取り戻すのか。 *なろう様、カクヨム様にも投稿を予定しております

処理中です...