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咲良の答え⑨
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「狡いのは私です……お姉ちゃんがいなくなって、私は心の中で凄く喜んでた。私が蒼一さんと結婚できるんだって、その喜びでいっぱいだった。きっと心のどこかで、お姉ちゃんを羨んでたんです。
蒼一さんは狡くないし幻滅もしません。あなたの結婚相手に立候補したのは私です、そこに強要も何も存在しませんでした」
「咲良ちゃん」
「私なんです、ずっと好きだったのは、私の方なんです……!」
ポロポロと涙が流れた。再確認した想いが、涙となって溢れたのかもしれない。
好きになってはいけない人をずっと好きで、何度も諦めようとした。それでも捨てきれなかった想い。
苦手な料理を頑張りたいと思ったのも、家にいるだけで緊張してしまうのも、こんなに胸が苦しいのも、全ては蒼一さんが好きだったから。その答え以外何ものでもない。
私が想いを叫んだ直後、ハンドルを握っていた彼の手が私の体を引き寄せた。そしてゆらりと体を揺らした瞬間、唇が重なり合う。驚きで何も動けなくなってしまった私は、ただ身を委ねるように瞼を閉じた。
今起こっていることが現実とは思えない。頭が熱く、全身がふわふわ浮いているかのように浮遊感に襲われる。柔らかでどこか懐かしい香りがした。それがあんまりに心地よくて、ありふれた言い方だけれど時が止まればいいのにと思った。
ふいに彼の顔が離れる。私の頬に流れた涙を、そっと両手で拭き取った。すぐにまた彼がキスを降らせた。頬に感じる蒼一さんの手のひらは驚くほど熱い。
あなたに触れてもらうのが夢だった。きっと一生叶わないんだと思っていた。
信じられなかった彼からの告白は、そのたった一度のキスで私の心に嘘じゃないんだと教えてくれた。こんな私を見ていてくれたんだということが、私の生まれてきた意味のように思えた。
ゆっくり蒼一さんの体温が離れる。両手は私の頬を包んだまま、彼は至近距離で言った。
「涙、止まったね」
「……はい、でも、しん、心臓が口から出そうです」
「それは僕も」
そう小さく笑った彼は、三度目のキスを私に贈った。
少しして蒼一さんが離れ、沈黙が流れる。私は今更恥ずかしさが襲ってきて視線を下げた。顔が真っ赤になっている自覚はあった。今が夜でよかったと思う、こんな締まりのない顔見られたくなかった。
こんな時どうしていいのかわからないくらい、私は恋愛経験が不足している。どんなことをいえばいいのか、どう振る舞えばいいのかもわからない。
私の困っている様子に気がついたのか。蒼一さんは気を逸らすように突然聞いた。
「ケーキ」
「え?」
彼は少し視線を泳がせて続ける。
「僕の誕生日。ケーキ焼いてくれたの?」
「なんで知ってるんですか?」
目を丸くして聞き返した。ゴミとして捨ててしまったホールケーキ。蒼一さんには見つかっていないはずなのに。
私の返事に、彼は深くため息をついた。そして手で顔を覆いながら言う。
「誕生日より前に山下さんに会って……ケーキ焼く練習してるって聞いてたんだ。でも当日無かった。だからてっきり、他の好きな人に渡すために練習してたのかとおもって」
「まさか!」
「それよりも前、初めて一緒に寝る時もガチガチになってたのを見て、嫌なんだなって。他に好きな人がいるんだって思って、咲良ちゃんに触れなかった」
「あれは嫌だったわけじゃないです!」
私は慌てて否定した。まさか、そんなふうに思われていたなんて。好きな人がいますと断言したのがよくなかったのだろうか。あの夜は、ただただ緊張していただけだ。
「その、蒼一さんと結婚したこと自体信じられなかったっていうか、怒涛の展開についていけてなくて。緊張でこわばってただけです。決して嫌なんかじゃなかった」
そう答えた後、自分も思っていたことをおずおずと尋ねてみた。
蒼一さんは狡くないし幻滅もしません。あなたの結婚相手に立候補したのは私です、そこに強要も何も存在しませんでした」
「咲良ちゃん」
「私なんです、ずっと好きだったのは、私の方なんです……!」
ポロポロと涙が流れた。再確認した想いが、涙となって溢れたのかもしれない。
好きになってはいけない人をずっと好きで、何度も諦めようとした。それでも捨てきれなかった想い。
苦手な料理を頑張りたいと思ったのも、家にいるだけで緊張してしまうのも、こんなに胸が苦しいのも、全ては蒼一さんが好きだったから。その答え以外何ものでもない。
私が想いを叫んだ直後、ハンドルを握っていた彼の手が私の体を引き寄せた。そしてゆらりと体を揺らした瞬間、唇が重なり合う。驚きで何も動けなくなってしまった私は、ただ身を委ねるように瞼を閉じた。
今起こっていることが現実とは思えない。頭が熱く、全身がふわふわ浮いているかのように浮遊感に襲われる。柔らかでどこか懐かしい香りがした。それがあんまりに心地よくて、ありふれた言い方だけれど時が止まればいいのにと思った。
ふいに彼の顔が離れる。私の頬に流れた涙を、そっと両手で拭き取った。すぐにまた彼がキスを降らせた。頬に感じる蒼一さんの手のひらは驚くほど熱い。
あなたに触れてもらうのが夢だった。きっと一生叶わないんだと思っていた。
信じられなかった彼からの告白は、そのたった一度のキスで私の心に嘘じゃないんだと教えてくれた。こんな私を見ていてくれたんだということが、私の生まれてきた意味のように思えた。
ゆっくり蒼一さんの体温が離れる。両手は私の頬を包んだまま、彼は至近距離で言った。
「涙、止まったね」
「……はい、でも、しん、心臓が口から出そうです」
「それは僕も」
そう小さく笑った彼は、三度目のキスを私に贈った。
少しして蒼一さんが離れ、沈黙が流れる。私は今更恥ずかしさが襲ってきて視線を下げた。顔が真っ赤になっている自覚はあった。今が夜でよかったと思う、こんな締まりのない顔見られたくなかった。
こんな時どうしていいのかわからないくらい、私は恋愛経験が不足している。どんなことをいえばいいのか、どう振る舞えばいいのかもわからない。
私の困っている様子に気がついたのか。蒼一さんは気を逸らすように突然聞いた。
「ケーキ」
「え?」
彼は少し視線を泳がせて続ける。
「僕の誕生日。ケーキ焼いてくれたの?」
「なんで知ってるんですか?」
目を丸くして聞き返した。ゴミとして捨ててしまったホールケーキ。蒼一さんには見つかっていないはずなのに。
私の返事に、彼は深くため息をついた。そして手で顔を覆いながら言う。
「誕生日より前に山下さんに会って……ケーキ焼く練習してるって聞いてたんだ。でも当日無かった。だからてっきり、他の好きな人に渡すために練習してたのかとおもって」
「まさか!」
「それよりも前、初めて一緒に寝る時もガチガチになってたのを見て、嫌なんだなって。他に好きな人がいるんだって思って、咲良ちゃんに触れなかった」
「あれは嫌だったわけじゃないです!」
私は慌てて否定した。まさか、そんなふうに思われていたなんて。好きな人がいますと断言したのがよくなかったのだろうか。あの夜は、ただただ緊張していただけだ。
「その、蒼一さんと結婚したこと自体信じられなかったっていうか、怒涛の展開についていけてなくて。緊張でこわばってただけです。決して嫌なんかじゃなかった」
そう答えた後、自分も思っていたことをおずおずと尋ねてみた。
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